サステナブルバトン2

英国発のコスメティクス「LUSH」バイヤー・黒澤千絵実さんが魅了された「美しい原材料」の考え方 

英国発のカラフルなコスメティックで心躍る体験を提供するLUSH。植物由来のサステナブルな原料にこだわり、環境に配慮した活動にも力を入れるエシカルな企業としてユーザーから信頼されています。その社内で、人や環境にやさしい素材を調達するバイイングチームの一員として奮闘する黒澤千絵実さん。近年は、里山を再生するプロジェクトに携わるなど、その活動は広がっています。バイヤーの範疇にとどまらず、挑戦し続けるわけやキャリアへの考え方、また、環境に対する思いまでをナチュラルに語ってくれました。

●サステナブルバトン2-09

東北支援から、オーガニックコットンに魅せられて 

――まずは、黒澤さんのお仕事について教えていただけますか? 

黒澤千絵実さん(以下、黒澤): ラッシュジャパンのバイイングチームで原材料、資材の調達をしています。2010年に新卒で入社した当時は、ものづくりが好きだったので製造スタッフとしてギフトなどを作る部署にいました。ものづくりの出発点ともいえる資材調達に携わりたいと思うようになり、大した知識もないのに(笑)現部署への異動を希望。2013年、留学経験の語学力を買われて、ラッキーにも異動が叶いました。その後、チームや会社のサポートがありLUSHらしい仕入れの考え方や技術を習得。今回バトンをつないでくださった株式会社起点の酒井悠太さんと知り合ったのは、異動から1年と少し経った頃。当時は、バイヤーとしての知識を身につけ始めたばかりで、見積もりの話をするのもすごく緊張していましたね。 

――それは意外ですね。起点の酒井さんは、「世代が近いのに堂々としていて刺激を受けた」と当時の印象を語っていました。 

黒澤: 内心はドキドキでした(笑)。酒井さんご自身も、地元いわきの産業を盛り上げたいと熱意をもって取り組んでいますし、とても刺激をいただいています。ラッシュジャパンでは、東日本大震災後、東北支援を積極的に行っており、その一環で「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」を知りました。ご承知の通り、福島の復興への道のりは複雑でどう支援すればいいのか思案していて。そんなときに、和種の綿花をオーガニックで栽培している方々と巡り合えた。もともと弊社で風呂敷を販売していましたし、これまで年に1回くらいのペースで製品化しています。

 

2017年にグローバルで発売したふくしまコットンの風呂敷(Knotwrap)=ラッシュジャパン提供

――バイヤーとしてオーガニックコットンを調達するのに加え、里山再生のプロジェクトにも積極的にかかわる理由はなんでしょうか? 

黒澤: イギリス本社で「Beautiful Ingredients」と呼ぶ「美しい原材料」という考え方が、私はとても好きなんです。10年前から生産者の方々とフェイス・トゥ・フェイスで向き合い関係を築いてきましたし、環境破壊につながる原材料は使わない、持続可能なものを積極的に調達するようにしています。

 こうした、環境に負荷をかけない資源を調達することは大事ですが、私たちが原材料を買うことで、もっとポジティブに環境にかかわれる仕組みを作りたいと考えるようになりました。そのためこれまでの活動を再構築し、2016年からは、「リジェネラティブ・バイイング」をキーワードに、環境保護団体のお力などを借りながら環境再生に寄与する活動にかかわるようになりました。

 

里山を豊かにする「渡り鳥プロジェクト」

――どのような活動にかかわっているのですか? 

黒澤: 私自身は2018年から、「渡り鳥プロジェクト」に携わっています。タカ科のサシバという、里山に飛来するカラスくらいの大きさの渡り鳥は、その地域の生態ピラミッドの頂点となる生き物です。そのサシバを護ることは里山の豊かさ全体を守ることにもつながります。

かつて人が有機的に田畑を耕していたころは、互いに共生し合ってきました。ですが、今では里山の小さな田んぼは手間がかかるうえ採算性が低いので、多くが耕作放棄されています。私たちがおじゃまするようになった栃木県市貝の里山は、サシバの繁殖地なのですが、里山が荒れたためにヒナの子育てが難しくなっていました。全国でどんどん繁殖地や生息地が狭められた結果、いまやサシバは絶滅危惧種に指定されています。

 

サシバ=ラッシュジャパン提供

――深刻な状況なのですね。

 黒澤: ええ。なんとかしたいという想いはありましたが、大学での専攻は心理学で、環境や生き物の専門家の力を借りなければ実行は難しいと感じていました。もし自己流に判断した方法が間違っていたら、かえって自然環境を傷つけることだってあり得ますから。

縁あって公益財団法人日本自然保護協会の方たちと出会い、頑張って有機的な農業している方とも知り合うこともでき、「渡り鳥プロジェクト」を一緒に運営することになりました。サシバの保護をすることは、すなわち里山での有機的で伝統的な稲作を受け継ぐことにもなる。こうした多くの人の手によって再生された里山で育てられたお米は、実際にラッシュジャパンで販売している様々な製品の原材料になっているんですよ。 

――「渡り鳥プロジェクト」で収穫されたお米は、すでに製品化されているのですね。

 黒澤: はい。その1つが、お米の粒を砕いたものを使ったフェイスパック「ドント ルック アット ミー」。また、精米時に出る米ぬかは、「ハーバリズム」という洗顔料に入っています。藁と古紙をまぜて作った「サシバ・ペーパー」は、ギフトラッピングなどの包装紙にしています。

ここ最近は、栃木で採れたお米を沖縄県宮古島の泡盛製造会社さんで琉球泡盛にしてもらい、それをフェイス&ボディスクラブ「ヴィーナス誕生」や、保湿クリーム「シャングリ・ラ」の材料にしています。実は、宮古島はサシバがフィリピンへ渡る際の、日本で最後に立ち寄る中継地になっていて。そんなところにも、この「渡り鳥プロジェクト」への思いが込められているのです。

 また、収穫量が少ないお米をだけを買うのでは、頑張る農家さんへの安定した支援につながらない。米以外の部分、稲藁や米ぬかなどをまとめて買い取ることでロスも減り、その土地の農業のサポートにつながると考えています。

 

サシバプロジェクト活動地の1つ(熊本)=ラッシュジャパン提供

――すばらしい取り組みですが、荒れた里山を再生させるのは相当な手間と時間がかかるのでは?

 黒澤: はい。一般的に流通しているものであればカタログから資材を選ぶことができるのですが、、そういったものではなく、0からカタログ自体を組み立てていく作業なので「この生産物を買うと、どの絶滅危惧種が救われるという一覧が載ったカタログがあればいいのにね」と、仲間同士でよく冗談めかして言っています(笑)。もちろん、そんなものは存在しないので、ゼロから自分たちで探っていくことになるのですが。

 

サステナブルとは良心に正直なこと

――これまでに特に大変だったことは? 

黒澤: 一番大変だったのは、価値観の違いにぶち当たったときですね。LUSHではすごくたくさんの話し合いをするのですが、環境への考え方1つでも、日本と欧州ではかなり違います。ヨーロッパはかつての大規模な森林伐採への反省から、木を伐ることに対して敏感です。一方で、日本は適度に人が森林に入り、木を伐ることで生態系のバランスを保ってきました。その違いをなかなか乗り越えられず、議論になったことも。

私は小学生の数年間と大学の4年間をイギリスで過ごし、大学時代にLUSHのお店でアルバイトしたこともあります。だから、店舗を通してLUSHという会社の風通しのよさを知っていたし、そこが好きで就職を決めました。ですが、その時の議論では学生時代、お店で働いていたときにも感じなかったような違いを見せつけられた気がしました。

 

写真:坂脇卓也

――意見の違いは、どうやって乗り越えたのですか?

黒澤: 伝え方の大切さを学び、乗り越えることができました。互いに「いいこと」だと信じているからこそ、ぶつかり合ってしまうんですよね。いまでは、日本と欧州では違いがあることを、丁寧に伝えて理解してもらえるようになりました。 

――違いを認め合うことも、エシカルでサステナブルなことかもしれませんね。 

黒澤: はい、そう思います。ここ最近は、エシカルやオーガニックが浸透し、私たちの製品や活動を理解してくださる方が増えました。そうした方々には、お店でも丁寧にどこがエシカルなのか、なにがサステナブルなのかをご説明するよう心がけています。
ただ、高校生の私がそうだったように、LUSH製品の見た目が好きで手にするとワクワクするからとか、香りに癒されるからという理由で手に取っていただけるだけでもいいと思うんです。何気なく使っている商品が、実は環境にいいものだったというのが理想的だと私は思っていて。留学先でアルバイトしていたとき、「環境に配慮した製品ばかりで、どれをお客様に勧めても後ろめたくない」ということが、とても気持ちよかったんですよ。うまく言葉にできませんが、サステナブルって、人が持つ「良心」に正直であることなのかなと思ったりしますね。 

――今後、黒澤さんが取り組んでみたいことは? 

黒澤: まずは、私の活動の原動力である、全国のサプライヤーさんに会いに行きたいですね。コロナ禍で移動が制限され、皆さんに会いに行けなくなると次第に気分が落ち込んでいったんです。はじめは分からなかったのですが、落ち込みの原因が皆さんに会えないからだと気づいたとき、「私は人と人の繋がりの中で生きているんだな」って痛感しました。

 そうした「美しい原材料」を作ってくださる人ともっとつながりたい。その輪が広がるほど、誰もが自然環境に良いものに手が届きやすくなると思うからです。もちろんそれは、LUSHだけが頑張ってできることではありませんが、まずは誰もやらなかったことを、一歩でも半歩でもやってみることが大事かなと思っています。

 

写真:坂脇卓也

――挑戦はまだまだ続きそうですね?

 黒澤:  LUSHでは、「やりたい」と手を挙げた人の考えが、会社の理念に沿っていれば、スタッフが協力し合って実現できるようサポートしてくれるんです。挑戦できる環境があるのは、ありがたいですね。

そうやって挑戦した姿を見て、「LUSHが成功したからやってみよう」と続くところがあれば嬉しいですし、逆に「LUSHは過去にうまくいかなかったけど、我々はうまくいくんじゃないか」という例が出てきたら、それも素敵だなと思います。0を0.1でもいいから前に進める取り組み、チャレンジを続けていきたいですね。

 

■黒澤千絵実(くろさわ・ちえみ)さんのプロフィール

英国に本社を置くフレッシュハンドメイドコスメ・ブランドの日本法人ラッシュジャパンで、2013年よりバイイングチームに所属。エシカルでサステナブルな資源の調達に携わる。千葉県出身。小学5年生のとき、母親の英国留学に帯同し、3年間をイギリスで過ごす。いったん帰国後、再び大学でイギリスへ。その際、LUSHでアルバイトをした経験がもとになり、2010年にラッシュジャパンに入社。これまでに、福島産有機綿を使った風呂敷作りや、イヌワシの棲める森、サシバが子育てできる里山の再生プロジェクトなどに携わっている。

 

「関わるものに、誠実に素直に対応できているか」株式会社起点代表・酒井悠太さんが福島県でオーガニックコットンを栽培する理由
ライター×エシカルコンシェルジュ×ヨガ伝播人。出版社やラジオ局勤務などを経てフリーランスに。アーティストをはじめ、“いま輝く人”の魅力を深掘るインタビュー記事を中心に、新譜紹介の連載などエンタメ~ライフスタイル全般で執筆中。取材や文章を通して、エシカルな表現者と社会をつなぐ役に立てたらハッピー♪ ゆるベジ、旅と自然Love
わたしと未来のつなぎ方