元衆議院議員・金子恵美さん、育児との両立、票ハラも経験。今だから語れる真の政治家とは。
「政治家が悪いものになり過ぎた」
今回の著書は、「日本から政治家がいなくなったらどうなる?」をテーマに、年間いくらのお金が浮くのか、そのお金は何に使えるのか、2年後、25年後の日本はどうなっているのかなどを、金子さんの「妄想」という視点で描いた一冊です。
──執筆のきっかけを教えてください。
金子恵美さん(以下、金子): 私は今、一国民として外から永田町を見ていますが、あまりにも政治に悪い印象を持たれているのが残念でなりません。コメンテーターの仕事を通じて、また7歳の息子を育てる母として小学校のお母さん方といろいろな話をする中でも、政治家に対する国民の失望感が膨れ上がっているのを感じます。政治に関してはネガティブな話題しか出てこないんです。「政治家ってなんであの場面でああいうこと言っちゃうの?」、「身を切る改革って言ってるけど、私たちの生活に負担ばっかりかかってる」……。
それもそうですよね。メディアでは日々、政治家の失言や失態が報道され、選挙前は立候補者による街頭演説がにぎやかですが、開票日翌日には多くが街から消える。政治不信を越えて、政治に無関心な波が押し寄せています。本来、政治は生活そのもの。政治家がどう舵を切るかによって、私たちの暮らしは大きく変わるのです。そのことを、コロナ禍で実感された方も多いかも知れません。ワクチン接種にしても、政治家が開始時期、接種対象、会場規模などをどのように決定するかによって、国民は大きな影響を受けました。
このように、政治家は本来、国民の生活をよくするためにいるはずですが、あちこちで政治家がいらないと言われてしまうのであれば、いっそのこと、政治家がいなくなった社会を想像してみませんか、と問いかけてみようと思ったんです。
官僚主導な世の中はドライ
──著書では、政治家と官僚の関係にも触れていらっしゃいます。
金子: 官僚は非常に優秀です。頭も切れますし、専門分野の掘り下げ方、情報量の多さは、とてもイチ政治家が太刀打ちできるようなものではありません。ただ、政治家がいないと、官僚主導のドライな世の中になってしまうと考えました。
その原因の一つは、官僚は縦割り社会の中にいるため、自由意思で決められる裁量が狭いこと。もう一つは、社会や地域が今抱えている課題を解決するために、前例を見て動くという性質です。問題があることは分かっていても、それを問題として顕在化させることは極力避けたがるのです。
官僚は、法律の中でしか動けません。一方、政治家は、現行の法律では、まかなえないような、ちょっとした社会の変化やずれみたいなところに着目し、時には組織を横断したり、現行法を見直したりする中で実現しようとする。「これを取り上げると、国民を刺激してしまう。それでも今、やらなきゃいけない」と動くからです。
私はこの違いは大きいと思います。官僚の主張は法律にのっとっていて合理的。確かに正論なのですが、いろんな議論をした中で決めた方針が、国民の感覚とずれていると感じたことが、議員時代に何度もありました。だからこそ、政治家の、「社会を見て別の立場からすればこういう見方が求められているから、法改正の検討が必要だ」という議論は絶対に必要です。ただ、政治家も、今だけを見ていてはいけません。中長期のビジョンで考える力が必要です。
──金子さん自身が議員時代、官僚に意見をぶつけたものの、通らなかったことはありましたか?
金子: 何度もありましたよ。例えば、農業分野で、もっと個別に米の輸出を進めていきたいと地元からの要請がありました。でも、「金子先生の意見は分かりますが、計画にのっとってやっていかなければならない」と言われました。今は日本の米のPRを進めるときだと何度も伝えましたが、私の力不足もあり形にはなりませんでした。出身地の新潟は米どころということもあり、何とかしたいと粘ったのですが……。
もちろん、中にはドライではない官僚もいるんですよ。ちゃんと生の声を聞いて、何とかしなきゃと分かっていながら、法律の中でしか動けないことをもどかしく思う人もいます。どうしても単年度予算の中で検討するので、私の意見が通らなかったときも、「来年は、少しでもそれがお話できるように頑張りたいと思います」という前向きな返答をくれる官僚もいました。
「パンツスーツはやめてスカートにしなよ」
──女性議員ならではのご苦労もあったのではないでしょうか。
金子: 28歳で新潟市議会議員選挙に立候補の手を挙げたとき、女性が政治家になろうとしているなんてただの変わり者だと言われました。当時、地元はまだまだ保守的で、政治は男性がするものという観念を持つ人も多かったのです。
29歳で当選させていただいてからもすぐは、何かと相談をしてもらえないことが続きました。それならば、こちらから動いて信頼を勝ち取っていくしかありません。農業はただでさえ男性主導の領域。「女に農業がわかるわけがない」と言われながらも、勉強させてくださいと農協や土地改良区などに足を運びました。すると、次第に私の根性に共感してくださるようになり、会合に呼んでくださったり、農業団体から相談されたりするようになりました。男性議員よりも、政策を実現するためのスタートラインにつくまでに長い時間がかかりましたね。
──国会議員になってからもそうですか?
金子: はい。地方議員の時に味わった障壁は、どこに行っても立ちはだかります。私だけでなく、女性の秘書たちにも随分、苦労させてしまいました。地方議員のときより活動のエリアが広がったので、新しい信頼関係を構築していかなければならない中で、秘書が新たなエリアに行くと、どこでも同じような反応があったそうです。そして結局はコミュニケーションというと、「飲みにケーション」が必要になるわけです。
──「飲みにケーション」の中ではハラスメントが起きがちなのでは?
金子: お座敷での会合に招かれた時、パンツスーツが多かった私に、先輩議員が言うんです。「この間、(対立候補の)○○さんがスカートをはいていて、僕、クラっとしちゃったよ。金子さん、スカートにしたら? スカートにしたら当選するよ」って。女性議員は、地方議員、国会議員どちらも、「票ハラ(票ハラスメント)」を経験しているのではないでしょうか。お尻を触られることなどは日常茶飯事になっていたし、「お嬢ちゃん、政治できるの」という言葉も、冷静に考えたら100%セクハラ発言ですよね。でも実際、こんな会話は当たり前。近年は、有権者のハラスメントへの意識も高くなり、相談窓口もあるので、私が在職中の時より改善されていると思いますが、当時は日常的にありすぎてちょっと麻痺してました……。
──在職中の2016年に息子さんを出産されています。子育てがある中で、飲みにケーションに応えるのは難しかったのではないでしょうか。
金子: 難しかったです。20時までには帰宅したいと断ると、「地方議員だったときには行ってたのに、国会議員になって偉くなったんですね」と皮肉を言われました。支援者の方から「できれば二次会でもいいので顔を出してください」、「子供がいるので今日はできれば夜は早く帰宅したいのですが……」というやりとりはしょっちゅうでした。
2017年、金子さんが、仕事場の議員会館内にある保育所への送り迎えに公用車を使ったことについて、世間から大きな批判が起こりました。高市早苗総務相(当時)は会見で、総務省のルールに照らして金子さんの公用車使用には問題がなかったとの認識を示したものの、金子さんはその後、公用車に子どもを同乗させないことにしました。
──お子さんの保育園の送迎に公用車を使用したことがメディアでも大きく取り上げられました。
金子: 数回、出勤前に保育所に子どもを降ろして公務に向かったことがありました。ルールにのっとっていたのですが、あのように取り上げられてしまったので、悪いことをしている印象がついてしまいました。いま振り返って私が反省してることは、悪いことをしているのではないのだから、あのときにしっかり議論しておきたかったです。
あの時は、これを続けたらもっと批判が大きくなって、冷静な議論ができなくなると思い、いまはいったん引こうと考えたんです。いつか、政務三役で子育て中の人が出てくるかもしれない。そのときに、どうするかということを国民的議論ができるようになるまで待とうと。ただ、2017年の選挙で落選してしまったので、それができないままになってしまいました。いまでも同様のことで女性議員が叩かれるのを見るたびに、あのとき、しっかり議論を深めて、明確なルールが決められていたらよかったなと。それが心残りです。
●金子恵美(かねこ・めぐみ)さんのプロフィール
1978年、新潟県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2007年、村長だった父の意志を継ぎ、07年新潟市議会議員選挙に立候補。同年に当選。2012年に衆議院議員、16年には総務大臣政務官に就任し、放送行政、IT行政、郵政を担当。2017年の衆議院議員選挙で落選、10年間の議員生活に終止符を打ち、現在フジテレビ系「めざまし8」、CBC系「ゴゴスマ」など、多数のメディアにコメンテーターとして出演中。コロナ禍では厚生労働副大臣直轄の女性支援プロジェクトメンバーにも選出された。
■『もしも日本から政治家がいなくなったら』(内外出版社)
著者:金子恵美
出版社:内外出版社
定価:1,650円(税込)