「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
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- 前回はこちら:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
「愛の不時着」沼エピソードを募集します
今年2月に配信がスタートするや、新型コロナウイルスの感染拡大で家から出られなくなった人たちの心に染み渡り、多くの人たちを底なしの沼に引きずり込んだNetflixの韓国ドラマ「愛の不時着」を解剖していく。
前回、「愛の不時着」にハマりすぎて家庭が崩壊しかかった人の話を書いたが、SNSで「私も!」という声が大変多くて驚いた。ぜひ、みなさんがどれだけハマったか、それぞれの沼エピソードを知らせてほしい。ハッシュタグは #愛の不時着沼 で。おもしろかった声はここで取り上げさせていただきます。
第2話は、いわば地ならしのようなお話。北朝鮮に不時着した韓国の財閥令嬢で実業家でもあるユン・セリ(ソン・イェジン)が、エリート軍人、リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)の家でかくまわれ、生活するようになっていく様子が描かれつつ、同時に今後のストーリーにかかわる伏線がいくつも張られていく。
今後のためだけでなく、第2話の中で回収される伏線もあり、その手さばきは見事というしかない。あらためて振り返っていこう。
ユン・セリと北朝鮮の愉快な面々
冒頭に登場するのは、盛大に開かれたユン・セリの1歳の誕生日パーティー。壇上のユン・セリは、お金や糸ではなく父親の手を掴む。なお、このパーティーは「トルチャンチ」と呼ばれている韓国の行事で、お金を掴めば「一生お金に困らない」、糸は「長生き」を示している。
極めて賢い選択を繰り返してきたユン・セリの痛快な半生は、「セリズ・チョイス」という彼女の会社名に表れている。それだけ自分の選択に自信がある証拠だ。「人生最大の危機でも自分を信じた」彼女は今、北朝鮮にいる。
第1話の最後、とっさにリ・ジョンヒョクにかくまわれたユン・セリ。男を手玉に取るつもりのユン・セリが甘い言葉を囁きながら微笑みを浮かべると、一瞬、文字通りリ・ジョンヒョクの目が泳ぐ。照れていると思ったら、頭の中では彼女を殺そうかどうか考えていた。物騒すぎるギャップ!
第2話の前半では、強気でたくましいユン・セリと質実剛健なリ・ジョンヒョク、彼の忠実な部下である第5中隊のいつも憎まれ口をたたくピョ・チス(ヤン・ギョンウォン)、無口なイケメンのグァンボム(イ・シンヨン)、韓流ドラマファンのジュモク(ユ・スピン)、新人のウンドン(タン・ジュンサン)が会話をかわしながら徐々に打ち解けていく様子が描かれていく。
「この女を埋める穴を山にでも行って掘ってきます」と北朝鮮の軍人に言われても、「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」と言い返せるユン・セリの胆力には感心するしかない。中隊の面々と話しているときも、自然と上座に座っている。
結局、外出禁止、南朝鮮(韓国)の宣伝禁止、口外禁止の条件をのんで、脱出の手はずが整うまでリ・ジョンヒョクの家で暮らすことになったユン・セリ。帰ったら記憶喪失になる予定だと聞いて、「南朝鮮のドラマでは記憶喪失だらけです。資本主義に多い病気」と言うジュモクがおかしい。
北朝鮮の暮らしをディスらないユン・セリ
のどかな北朝鮮の暮らしの描写の中で、キムチ作りにいそしむ舎宅団地のマダムたちが登場。マ・ヨンエ(キム・ジョンナン)はボスの風格たっぷり。人民班長のナ・ウォルスク(キム・ソニョン)とヨンエのご機嫌とりのヤン・オックム(チャ・チョンファ)はどちらもインパクト抜群。キム・ソニョンは数々のドラマや映画で活躍する名脇役として知られている。
マダムたちがリ・ジョンヒョクのための食べ物の贈りものの話をしていると、次のカットでは彼の家にある塩の瓶から肉が出てきてユン・セリが喜ぶというスピード感。ジュモクがユン・セリに「キムチ倉」を見せると、それがクライマックスの伏線になっているという抜かりのなさ。視聴者をまったく飽きさせない「愛の不時着」らしさが光る。
キムチ倉を見せられたユン・セリは「オーガニックよね。斬新なアイディアだわ」と感心するが、北朝鮮の暮らしぶりを安易にディスったりしない彼女のキャラクターに安心する。ここで嫌味なことを言われると、素直に応援できなくなるからね。
リ・ジョンヒョクへの直通電話のくだりでも、このスピード感と抜かりのなさが表現されている。ユン・セリが要求したシャンプー類やアロマキャンドルは、単なる彼女の無理難題ではなく、ちゃんと後々意味を持つようになっていく。
北朝鮮の暮らしといえば、つきものなのが停電だ。停電で真っ暗になっても、それぞれの家でランプをともしたり、自家発電をしたりと、暮らしの知恵で灯りがつく。灯りは人々がそこで暮らしている証。「愛の不時着」が北朝鮮の人たちを記号ではなく、ちゃんと人として描こうとしていると感じた。
しかし、停電に慣れていないユン・セリは不安になる一方で、これまで溜めてきたネガティブな感情が一気にあふれ出て、アロマキャンドルの代わりにロウソクを持って帰ってきたリ・ジョンヒョクの前で号泣してしまう。
「知らない人が見てる前で泣くハメになるなんて。イヤになる」
泣き続けるユン・セリがこう言うと、指でロウソクの炎を消してまわりを暗くするリ・ジョンヒョクの優しさ。シャンプー類も市場でちゃんと韓国製のものを買ってきてくれていた。
「何なのよ。本当は優しいくせに」
ロウソクの炎のように、ユン・セリの心の中にもリ・ジョンヒョクへのあたたかな気持ちがともったようだ。
恐怖の「宿泊検閲」
保衛部のチョ・チョルガン少佐(オ・マンソク)の暗躍ぶりも徐々に明らかになる。トラック部隊を操って不都合な人間を抹殺し、不正なお金の流れも掴んでいる。彼が“口座”と呼ぶ詐欺師のク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)も北朝鮮にやってきた。
一方、リ・ジョンヒョクはトラック部隊の暗躍を調べるために大都会の平壌へと向かう。平壌の交差点では女性警察官が手信号で車に合図を送っているが、これも停電が多いせい。数年前までの平壌名物だったという(近年は車が増えて信号機も増えたらしい)。
リ・ジョンヒョクは予審局の調査課に拘束されるが、実は総政治局長の一人息子だと明かされる。また、ジョンヒョクにはかつて兄のムヒョク(ハ・ソクジン)がいたが、すでに亡くなっていることもわかる。ムヒョクとチョ・チョルガンには因縁があるようだ。
チョ・チョルガンは「宿泊検閲」を実行する。これは不審者を取り締まるため、夜中に自宅を抜き打ち検査するもの。いつもユン・セリに憎まれ口を叩いていた第5中隊のチョ・ピスが、慌ててリ・ビョンヒョクに電話をかけている姿にちょっと胸打たれた。それだけ彼らとユン・セリの心の距離が縮まっていたということ。
宿泊検閲でユン・セリの存在がチョ・チョルガンにバレたら、保衛部に連行されることになる。拷問は確実、処刑される可能性だってあるだろう。さっきまでは人民班長のユルユルな宿泊検閲を見て笑っていた視聴者にも一気に緊張が走る。この「緊張と緩和」は「愛の不時着」ですさまじく重要な要素。「愛の不時着」全体が「緊張と緩和」でできていると言ってもいいぐらいだ。また、あらためて詳述したい。
平壌から爆走するリ・ジョンヒョクの特別車。手信号の女性警察官たちが道を開けてくれるのだが、あの日常の風景が伏線になっていたとは! 同時にリ・ジョンヒョクの持つ権力も示している。
これで間に合うのかと思ったものの、チョ・チョルガンにキムチ倉に隠れているところを見つかるユン・セリ。そこへリ・ジョンヒョクが帰ってきた。間に合ってない! さあ、どうするリ・ジョンヒョク。そこへこの一言。
「僕の婚約者に何のマネですか?」
おおおお! となったところでエンディングへ。
「愛の不時着」で見逃してはいけないのが、エンドクレジットの後のシークエンス。第2話では、スイスのジュネーブに滞在していたユン・セリの姿が映し出される。過去、彼女は安楽死を求めるほど心を病んでいた。「家なんかないわ」という彼女の呟きから、原因が家族の問題だとわかる。
スイスの絶景とパラグライダーを見つめるユン・セリ。と、その横に現れたのは、なんとリ・ジョンヒョク! 二人は過去にすれちがっていた。北朝鮮での出会いは運命の再会だったというわけだ。
大ピンチを描いて興味を惹きつつ、謎めいたロマンティックなシーンも一緒に描いてしまうという「愛の不時着」。どこまでも心憎い。デデン! と第3話へ続く。
■「愛の不時着」全話レビュー
1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う
4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様
5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」
6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」
7:「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転
8:「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト
9:「愛の不時着」9話。ジョンヒョクがギュッと凝縮された数分間に陶然
10:「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」
11:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
12:「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
13:「愛の不時着」13話。セリ「自分は自分で守る。私を信じて」いよいよラストスパート
14:「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった
15:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
16:最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」
『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン
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第158回「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に
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