「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」

日本で「第4次韓ドラブーム」を巻き起こした、Netflixで配信中の韓国ドラマ「愛の不時着」を全話レビュー。軍事境界線を守る朝鮮人民軍のエリート大尉と韓国の財閥令嬢の極秘の恋を軸に物語が進みます。新年早々に飛び込んできた、「愛の不時着」カップル、ヒョンビンとソン・イェジンの熱愛スクープ!大転換エピソードの10話を振り返ります。

ヒョンビンとソン・イェジンの熱愛スクープ⁉︎

新年早々に飛び込んできたヒョンビンとソン・イェジンの熱愛スクープにグッと来て、もう一周リピートしてしまった人にお届けしたい「愛の不時着」振り返り連載。沼の底からあけましておめでとうございます。

第10話は大きな転換点となるエピソード。ユン・セリ(ソン・イェジン)がついに韓国に帰り、リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)は北朝鮮に残る。離れ離れになった二人がそれぞれの国で一人の時間を過ごすが、最後は魔法のように再会を果たす。ハードな展開が続くが、最後にとても甘いシーンがあったので、視聴後はとても幸せな気分になるエピソードだった。

冒頭はたっぷり時間をかけて、国境での別れを見せる。熱い抱擁とキス。でも、本当に二人は離れ離れになってしまった。初見のとき「これからどうなるの?」と思った視聴者は多かったと思う。

そして、ソウルに舞い戻ったセリのクールな復活劇。どんな風に帰国したかとか、帰国したセリがどんなことを感じたかとかなんて、いちいち描かない。すごいスピード感で、颯爽と人々の前に現れる。記者会見なんて開かずにSNSを使う(利用する)のもスマート。自分に関心がある人には情報が早く届き、関心がない人には情報が届かない仕掛けで、セリのしたたかさ、食えなさが表現されていた。

ずっと苦労を重ねてきた保険会社のスチャン(イム・チョルス)が報われて、誰よりもセリの安否を心配していたチーム長のチャンシク(ゴ・ギュピル)との再会シーンはとても良かった。「愛の不時着」のこういう脇役を大事にする姿勢が好き。

一方のジョンヒョクは恋わずらいで放心状態。あの凛々しかったジョンヒョクが半口開けてポヤーンとしているのがたまらなくおかしい。ジョンヒョクはセリとの会話を回想する。

「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかな」
「願うしかない。願ってないと生きていられないから」

セリはこれまでの人生で心から願うほど会いたい人に出会うことはなかった。だから、生きることを諦めようとしていた。ジョンヒョクにとっては兄のムヒョク(ハ・ソクジン)が会いたいと心から願う人だろう。誰かに会いたいと願うことが生きるよすがになる。この会話が後半への伏線になる。

“耳野郎”の物語

ジョンヒョクの前に、“耳野郎”ことチョン・マンボク(キム・ヨンミン)が現れる。これまでの二人の接点は、市場でマンボクの盗まれた財布をジョンヒョクが取り返してやったときのみ。マンボクは誰にも話してこなかった自分の話を語り始める。

10年前、病気の幼い息子を救ってくれたのがムヒョクだった。マンボクの手はいつも傷だらけなのは、同僚から過酷な暴力を受けていたから。それを救ってくれたのもムヒョクだった。それなのに7年前、マンボクはチョ・チョルガン(オ・マンソク)にムヒョクの盗聴を命じられる。ムヒョクはチョ・チョルガンの悪事を告発しようとしていたのだ。

しかし、トラック部隊によるムヒョク暗殺が実行される。恩人の暗殺に手を貸してしまい、苦悩するマンボクが帰宅すると、妻はムヒョクがプレゼントしてくれた肉のスープで夫をもてなそうとしていた……。なんたる残酷! 温かな手紙を読み、慟哭するマンボク。そして今、マンボクはジョンヒョクの前で涙を流して懺悔する。「すごく会いたいです。私の唯一の友に」。

マンボクから渡されたテープには、弟のことを語るムヒョクの最後の言葉が録音されていた。「弟の幸せを願ってる」ーーそして響く爆音。一人でむせび泣くジョンヒョクがムヒョクに詫びていたのは、父の跡を継いで軍人になるという道を兄に強いてしまった悔恨があったから。自分の生きる道を「チョイス」してきたセリに対し、ムヒョクとジョンヒョクの兄弟は自分の生きる道を選択できなかった。

なお、腕時計を誰が市場の質屋に入れたのかは「愛の不時着」の大きめの謎としてファンに知られている(チョ・チョルガンの手から逃れるため、ムヒョク自身が質屋に預けたという説が有力)。たしかに気にはなるが、セリがジョンヒョクへのプレゼントのために質屋から引き取り、セリが落としたものをムヒョクとセリに助けられたことのあるマンボクの息子・ウピル(オ・ハンギョル)が拾ってマンボクの手に渡り、それがジョンヒョクのもとへ帰ってきた運命を考えたほうがグッとくる。誰かが誰かを助け、誰かが誰かを思うことの連鎖が、腕時計の流転として表現されている。

結末が見えるとときめかない男、ク・スンジュン

ソウルに帰ってきたセリだが、幸せいっぱいというわけではない。むしろ、辛い日々を送っていた。

兄弟たちは誰もセリを歓迎せず、血のつながりのない母、ジョンヨン(パク・ウンジン)との行き違いは決定的な言葉をセリに吐かせてしまう。舎宅村のお姉さんたちへの温かな手紙とお姉さんたちの反応とは真逆のやりとりが続く。泡風呂に入り、ワインを傾け、広くて大きなベッドに体を横たえても、セリは薬なしでは眠ることができない。

セリが帰国できたのは、ク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)が全面的に協力していたからだった。なぜ彼はそんなジョンヒョクの無茶振りに応えたのだろう? その答えをソ・ダン(ソ・ジヘ)に語っている。

「なぜ協力したか分かる? 君の初恋を終わらせたかったから」

ク・スンジュンはソ・ダンのジョンヒョクへの愛を「執着」と斬って捨てる。「執着」の正体を「愛が古くなって腐ったんだ」と指摘するセリフは名言だと思う。

それにしても、ク・スンジュンはソ・ダンの初恋を終わらせるためだけに危険な任務を手伝ったのだろうか? 大きな動機は、彼がどうしようもなくスリルを求める男だからだろう。知能はあるのに、それを詐欺に使う。安全な生活に退屈し、誰かに追われると急に生き生きとした顔になる。彼がダンに猛烈に惹かれているのも、ダンの容姿や性格はもちろんのこと、彼女との恋愛は先が見えないスリリングなものだからではないだろうか。

「とにかく人がときめくのは結末を知らないからだ」

これは第7話でク・スンジュンがソ・ダンに放った言葉。結末がわからないことにときめきを感じるのは、自分自身のことに他ならない。ク・スンジュンはこれからもスリルの荒波に飛び込んでいく。

ク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)の本心は?/Netflixオリジナルシリーズ「愛の不時着」独占配信中

北の御一行様、南へ

告発されたチョ・チョルガンは裁判にかけられて無期の労働教化刑に処されることになる。このあたりもスピーディーだ。しかし、これで一件落着とはならない。チョ・チョルガンはジョンヒョクに「あの女は死ぬだろう」と魔女の呪いのような言葉をかける。

なんとチョ・チョルガンは護送車を武装トラックに襲わせて脱出に成功。わざわざジョンヒョクに挑発の電話までかけてくる。「俺は今からあの女を殺しに南朝鮮へ行くところなんだ。お前もついてくるか?」。有言実行、すぐさまソウルのセリのすぐそばまでやってきた。恐るべき、チョ・チョルガン! 

眠れないセリは夜の街をさまよい、愛の意味について思いをめぐらせる。

「愛とは何だろうと考えてみる。私があなたに会いたいと願ってるように、あなたにも願ってほしいと思ったなら、それが愛だろうか。
 あるいは私に会いたいなんて気持ちがわかないほど、幸せでいてほしいと願ったなら、それが愛だろうか。
 それともあなたに会うためなら、あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」

「あの出来事をもう一度繰り返してもかまわない」というくだりが意味深。そのうち、雪が舞い散りはじめる。すると、信じられないことに、目の前にジョンヒョクが!

「随分捜した。“ソウル市江南区清潭”までしか教えてくれたなかったから」

これは第1話で初めて出会ったとき、ジョンヒョクの「家は?」という質問(というか聴取)に対するセリの答え。こういう細かい伏線回収があるから、何度もリピートしてしまう。なお、実際には「ソウル市江南区清…」までしか言ってなかった。調べてみたら、江南区には「清」で始まる街は「清潭」しかなかった。細かい!

まさかの展開は続く。なんと第5中隊とマンボクに韓国へ行くよう極秘指令が下ったのだ。失敗は許されない任務だが、さっそくコンビニでインスタントラーメンを食べる緊張感のない人たち。ジュモク(ユ・スビン)がジャージャー麺を選ぶのは、韓流ドラマにジャージャー麺を食べるシーンがしょっちゅう出てくるから。ごはんを分け合う姿にほのぼのする。

「南の連中も同じ人間だ。恐れるな」

最後に彼らの前に現れてカッコいいことを言い残すのは、出前持ちのドング(キム・スヒョン)。これは北朝鮮のスパイを描いた映画『シークレット・ミッション』とまったく同じ役柄。こういう遊びも本当に心憎い。

韓国にやってきたジョンヒョクと5人の従者たちの冒険が始まる! というところで第11話へ続く。デデン!

■「愛の不時着」全話レビュー
1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う
4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様
5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」
6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」
7:「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転
8:「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト
9:「愛の不時着」9話。ジョンヒョクがギュッと凝縮された数分間に陶然
10:「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」
11:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
12:「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
13:「愛の不時着」13話。セリ「自分は自分で守る。私を信じて」いよいよラストスパート
14:「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった
15:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
16:最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」


『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
ドラマレビュー