「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様

日本で「第3次韓ドラブーム」が巻き起こした、Netflixで配信中の韓国ドラマ「愛の不時着」を全話レビュー。軍事境界線を守る朝鮮人民軍のエリート大尉と韓国の財閥令嬢の極秘の恋を軸に物語が進みます。愛の不時着のなかでもとりわけ人気の高い4話。数々の素敵なシーンを振り返ります。

コロナ禍の中で、たくさんの人たちの心を支えたNetflixオリジナルドラマ「愛の不時着」を1話ずつ解剖していく。

今回は第4話。どのエピソードにもそれぞれ好きなシーンや好きなセリフがあると思うが、この第4話はとりわけ人気が高い。ラスト近くのアロマキャンドルのエピソードは、全エピソードの中でも屈指の人気シーン。「愛の不時着」といえばアロマキャンドル、という人も多いだろう。でも、そこに至るまでにもたくさん素敵なシーンがある。

まずは第3話のラストの大ピンチをどのように切り抜けたのか、見ていこう。

ピンチのたびに距離が縮まる二人

ユン・セリ(ソン・イェジン)を韓国へ逃がそうとして一緒に漁船に乗り込んだリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)だが、北朝鮮の巡視船に見つかってしまう。船倉に隠れたものの、まさに見つかりそうになったとき、ジョンヒョクはセリに抱きついてキス! これは韓国ドラマファンのジュモク(ユ・スビン)が言っていた南朝鮮(韓国)のドラマによくある危機の回避法をそのまま実行したもの。ジョンヒョクの「僕だけを見て」という一言が効いている。単純に自分のほうを向かせるだけの言葉だが、まるで恋愛の最中の一言にも聞こえるのが「愛の不時着」マジック。

驚いた警備艇の船長が思わず蓋を閉めるが、再び開けたときはセリのほうがノリノリになってジョンヒョクの頭をかき抱いているのがおかしい。さっきまでどうなることかとハラハラしていたのに、ふわっとしたユーモアを入れてくる。強欲そうに見えた漁船の船長が大演説をぶってジョンヒョクとセリをかばってくれるのも(自分の身の安全のためだろうが)なんだかグッと来てしまった。彼の命のことを考えれば、セリだって無茶なことはできない。二人はそのまま北朝鮮へ戻ることになる。

しかし、セリは自分で自分の運命を選んできた女。すぐさま、たった一人でパラグライダーでの脱出を試みる。すさまじい気持ちの切り替えと行動力だ。「悩んでないで何かやってみよう」という言葉はセリのポリシーをよく表しているが、その後の「死んでもしかたないわ」は過去に死を選ぼうとしていたセリの境遇を考えると重い一言。

「こちらはセリ1号 聞こえた人はひと言でも返事を」

セリは崖から無線で発信するが、これが保衛部に傍受されてしまう。だが、後々、南でもキャッチしてくれるのだから、やっぱり彼女の言うとおり何かやってみるのは大事。あっという間に駆けつけてくれた(振り向くともういる)ジョンヒョクは危機を察知すると、セリと抱き合ってパラグライダーで崖からダイブ! すさまじい危機のたびに二人の距離がギュッと縮まるのが「愛の不時着」。スリリングなBGMがダイブした瞬間、ギターの音色が響くイントロが印象的な挿入曲、ユン・ミレ「Flower」に切り替わるのも素敵。二人で飛び降りれば、それはもう危機じゃないのだ。

Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中

みんなで食べる「貝プルコギ」の楽しさ

「緊張」のあとには「緩和」がある。厳しかった人に優しくされるとホロッとしてしまうのと同じで、大ピンチの後のゆるい時間は心に染みわたる。

第4話は食事のシーンも印象的だった。第5中隊の面々の前で、“小食姫”のエピソードを語りながら、おこげに砂糖をつけて食べるのにハマってしまうセリ。北朝鮮のオーガニックな食生活は思いのほか、彼女に合うようだ。

みんなで焼酎を飲みながら食べる貝プルコギは、とにかく美味しそうで楽しそう。韓国でのセリの家族たちの豪華な食事が殺伐としているのと対照的だ。ギスギスした家族との食事より、気の合う仲間のほうとの食事のほうが楽しいに決まっている。血縁や地縁が日本より重んじられる韓国で、こういう描写があるのが面白い。ちなみにセリが言う「ソーヴィニヨン・ブラン」とは同名のぶどうを使った白ワイン。セリが言うとものすごく高そうだが、実は1本1000円ほどで気軽に楽しめます。

そしてジョンヒョクがセリのために豆を煎るところから丁寧に淹れるコーヒーの美味しそうなこと! 画面のこちらにも良い香りが漂ってきそう。二日酔いのセリのためにジョンヒョクは豆もやしのスープも作る。女性のために、女性が望むことを、手間暇惜しまずやりとげて喜ばせる。これが2020年型の王子様の姿なのだろう。セリがお返しに送ってジョンヒョクの心をかき乱した「指ハート」は2013年頃から韓国でアイドルやK-POPアーティストを通じて流行したもの(だからジュモクがよく知っている)。英語圏では“Korean Finger Heart”と呼ばれて親しまれている。

屈指の名シーン、ジョンヒョクが掲げたアロマキャンドル

セリが大佐の妻・ヨンエ(キム・ジョンナン)に取り入ったり、チョ・チョルガン(オ・マンソク)がしつこくセリのことを調べようとしていたり、ソ・ダン(ソ・ジへ)の母親ミョンウン(チャン・ヘジン)と叔父のミョンソク(パク・ミョンフン)が軽妙なやりとりを披露したりと、緩和多め、たまに緊張といった感じで話が進んでいく。ジョンヒョクがセリの帰りをウロウロしながら待って、自転車に二人乗りで並木道を帰るシーンもしみじみ良かった。

そしてラストシーン。ヨンエや人民班長のウォルスク(キム・ソニョン)らと市場へ来ていたセリだが、途中で彼女たちとはぐれてしまう。異国で真っ暗な市場にたった一人でいる不安は、経験してみないとわからないかもしれない。はぐれたことをちゃんとジョンヒョクに報告にやってくる班長たちの人の良さも伝わってきた。

孤独だった幼少の頃の記憶も重なり、市場の中で立ちすくんでしまうセリ。そこへやってきたジョンヒョクは、セリが欲しがっていたアロマキャンドルに火をともして高く掲げる。騒ぐことなく、ゆっくり近づいていく二人。

「今回は香りがするロウソクだ。合ってる?」
「合ってるわ」

「合ってる?」とは、いつもセリの希望をかなえるために行動するジョンヒョクが、彼女の希望と合っているかどうかを確認する言葉。たしかにセリが欲しがっていたアロマキャンドルと「合ってる」んだけど、用途は合っていない。でも、セリは「合ってる」とだけ言って微笑む。彼が自分にしてくれた行動全部まるごと「合ってる」のだ。女性の意思を尊重しつつ、女性を大切にしてくれる王子様。初めて笑顔を見せるジョンヒョク。二人の間で何かが通じ合った瞬間だ。再び流れる「Flower」。「私の心配はいつもあなただけなの」と歌い上げられている。

ジョンヒョクが手にしているのは、韓国のフレグランスブランド「Soohyang」が「愛の不時着」とコラボした「LEELEE」キャンドル。「LEELEE」とは「風が吹く、願いを呼ぶ」という意味なのだそう。風が吹いて物語が始まった「愛の不時着」にぴったりだ。

クレジット後では、スイスでセリとジョンヒョク、ダンが会っていた様子が描かれる。182メートルの高さを誇る橋、パノラマブルックス・ジーグリスヴィルで今にも飛び降りそうだったセリに写真を撮ってくれないかと声をかけて、さりげなく助けるジョンヒョク。ダンが大切にしていた写真は、実はセリが撮っていたものだったとわかる。波乱の予感がしたところで第5話へ続く。デデン!

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■「愛の不時着」全話レビュー
1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う
4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様
5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」
6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」
7:「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転
8:「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト
9:「愛の不時着」9話。ジョンヒョクがギュッと凝縮された数分間に陶然
10:「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」
11:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
12:「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
13:「愛の不時着」13話。セリ「自分は自分で守る。私を信じて」いよいよラストスパート
14:「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった
15:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
16:最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」

 

『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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