『おカネの切れ目が恋のはじまり』は三浦春馬不在の最終話をどう描いたか、ゆっくり振り返る

松岡茉優×三浦春馬による”じれキュン”ラブコメディ『おカネの切れ目が恋のはじまり』。当初の予定から大幅に短縮され、全4話で最終回を迎えることとなったこのドラマ、いったいどんな結末が描かれたのでしょうか。

慶太の代役を務めたペット型ロボット

猿渡慶太(三浦春馬)にキスをされた晩、慶太のことが気になって眠れない九鬼玲子(松岡茉優)。翌朝、慶太の姿が見当たらない。そんな中、自分宛に10年間毎月送られていた現金書留を見つけた玲子は、その送り主である父を探しに出かける。

第4話冒頭、玲子と同じように眠れず朝を迎えたようすの慶太が頭から毛布をかぶる。この回、回想を除くと慶太が登場するのはこのシーンが最後。そこから1時間以上(最終回は15分延長)、慶太はもう出てこない。「早朝に出かけた」と玲子の母サチ(南果歩)が言い、慶太はそれから会社にも出社せず、まりあ(星蘭ひとみ)にメールの返信もしない。

3話までは、玲子のそばには常に慶太がいた。父に会いに行く玲子は、慶太の代わりに彼がかわいがり、大切にしていたLOVOT(ペット型ロボット)の猿彦を連れていく。「あなた少し、ご主人と似ているところがありますよね」と声をかけて。
そして玲子は再会した父に猿彦を紹介する際、「ご紹介が遅れました。こちら猿わ……猿彦さんです」と言い間違える。まさかこんな結末を迎えるとは誰も想像していなかったであろう1話から、猿彦は慶太の分身のように近くにいた。結果、こうして最終回で玲子とともに行動する猿彦に、観る者は慶太の存在を強く感じることになった。

キャスト陣が役を通して三浦春馬に語りかける言葉

先に述べたように、4話に慶太はほとんど登場しない。しかしいないことによってその輪郭がくっきりと浮かび上がってくる。

慶太がいないことに対して早乙女(三浦翔平)が「ほんと自由なヤツだな」と言うときのまなざし。
父・富彦(草刈正雄)が慶太について語る「人を笑顔にする才能を生まれた時からもってた」「あいつはあいつのままでいい」という言葉。
母・菜々子(キムラ緑子)の「ママはいつだって慶ちゃんのいちばんのファンだからね」というつぶやき。
玲子の旅についていった板垣(北村匠海)の「一緒に働いてたときから迷惑かけられどおしだったけど、でもなんか、嫌いになれないんですよね、あの人」「すぐへらっと笑って、ひょっこり帰ってきますから」という慶太評。
そして、玲子が富彦に話す「猿渡さんがいるだけで母は毎日笑っています」。猿彦に向かって語りかける「どうしてか、寂しいみたいです」「会いたいみたいです、猿渡さんに」。それと、「今日はとても長旅だったから、疲れましたね」……。

全てが慶太に向けられた言葉であると同時に、慶太を演じた三浦春馬にかけられた言葉に聞こえる。大ベテランも若手も、全員が慶太の向こうに三浦春馬を見ながら演じていた、と思うのは観る側の勝手な思い込みだろうか。

全4話でドラマを完結させた見事さ

4話では、毎回冒頭の『方丈記』からの引用が草刈正雄の朗読で語られるシーンがラストにもあった。ただ、このラストだけは原文ではなく、現代語訳だった。
「静かな夜は月を見る。猿の声を聞いて涙をこぼす」
この原文はこうだ。
「もし夜静かなれば、窓の月に故人をしのび、猿の声に袖をうるほす」

ここだけ現代語訳にしたのは、「故人」の単語があまりに直接的だからだろう。けれども訳にしてでも、脚本家は、作り手はこの言葉を入れたかった。彼をしのんでいることを伝えたかったのだと思う。「袖をうるほす」のが「猿の声」なのは、偶然だろうか。

全4話のラストシーン。玲子の家に、誰かが帰ってくる。カメラはその帰って来た人物の視点だ。気づいた玲子は一瞬戸惑ったような表情をして、ほほえんで頷き、上がった口角を少しだけ戻す。松岡茉優、一世一代の演技。ここで「おかえりなさい」というセリフが発せられないことが悲しい。

3話までの慶太と玲子が魅力的だったから、リアルなお金の悩みがちょくちょく入る展開も面白かったから、最後まで完全な形で見たかった、という思いもないわけではない。けれども放送自体がなくなる可能性もゼロではないなか、3話までほぼ完璧な形で(視聴者の知らないところでさまざまな変更があったかもしれないが)三浦春馬の最後の演技を観ることができた。
そして『カネ恋』のスタッフとキャストは、力を合わせて三浦春馬のいない4話を成立させた。たとえば、全3話にして「二人の恋は始まったばかりだ」とばかりに終わらせる道もあったかもしれない。しかしおそらく話し合いを重ね、脚本を大きく修正し、4話めを撮影した。1話から描かれていた主人公・玲子の過去について回収すると同時に、その主人公のそばで常に笑っていた存在の、その不在を描いた。結果、このドラマはきちんと完結した全4話の作品になった。『おカネの切れ目が恋のはじまり』は、作り手の本気が垣間見られるドラマだった。

LOVOTもいて全4話、見事に完結した作品になった (C)TBS

毎週放送後に配信している動画配信サービス Paravi では、オリジナルストーリー『恋の切れ目がおカネのはじまり?』を配信中。北村匠海演じる板垣純の恋物語が描かれています。そちらもぜひお楽しみください。
[Paravi] https://www.paravi.jp

(C)TBS

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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