「3年B組金八先生」「ガラスの少年」風間俊介が母親をナイフで刺す!第5シリーズ#2

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。今回は、平成シリーズ最高傑作との呼び声も高い1999年放送の第5シリーズを振り返ります。

健次郎はメチャクチャ陰湿&邪悪

動画配信サービス「Paravi」で順次配信されている「3年B組金八先生」。今月配信されたのは平成シリーズ最高傑作との呼び声も高い1999年放送の第5シリーズ。
本作のメイン生徒は兼末健次郎(風間俊介)。「金八」全シリーズを振り返っても、トップクラスに印象の強い生徒だ。

もちろん、第1シリーズの「十五歳の母」浅井雪乃(杉田かおる)や、第2シリーズ「腐ったミカンの方程式」加藤優(直江喜一)。さらに第6シリーズに登場する性同一性障害を持つ生徒・鶴本直(上戸彩)などなど、強烈なインパクトを残した生徒は多いが、その中でも健次郎は別格。

他の3人は、それぞれ問題を抱えてはいるものの、精神的にはメチャクチャ大人。自分をしっかり持っている浅井雪乃や鶴本直はもちろん、札付きの番長として3年B組にやってきた加藤優にしても、初日にちょいと暴力事件は起こしただけで、その後はキッチリ筋を通す男気のある生徒として描かれていた。

彼らと比べると健次郎はメチャクチャ陰湿&邪悪なのだ!

教師の前では優等生を演じながら、裏ではクラスメイトの弱味を握って悪事を働く。第1話の中野先生(ラサール石井)暴行事件の主犯も健次郎だ。それでいて、自宅に帰ると「パパ、ママ」なんて言っちゃうお坊ちゃんの顔も見せる。
どんな生徒にも体当たりでぶつかって問題を解決してきた金八も、自分にぶつかってこないで、スルスルとすり抜けていくようなニセ優等生・兼末健次郎には手こずっている様子だった。

健次郎、金八の老獪なテクニックに籠絡される

健次郎が陰湿な問題児となった原因は、東大にストレート合格したものの対人関係の問題から引きこもりになり、家庭内暴力を起こすようになった兄・雄一郎。そして、世間体を気にして雄一郎の存在をひた隠しにする母親にあった。

特に母親。

健次郎は、ある意味マザコンと言えるほど母親思いなのだが、母親の目はまったく健次郎を見ていない。兄・雄一郎の問題で頭がいっぱいになった母親は、せっかく健次郎が合格した開栄高校(金八ワールドにおける開成高校みたいなもの)の入学手続きを忘れ、合格取り消しになってしまったのだ。

「(離婚するなら)ママはお兄ちゃんを取るしかないわ」という母親に対して「ボクも取ってよ」と訴える健次郎の言葉が切ない。

母親からこれだけヒドイ扱いを受けていながら、家族思いな健次郎はこの問題を他人に相談しようとはしなかった。
そのせいで金八も、早々に健次郎が「ただの優等生ではない」ことには気付きながら、実態をなかなか把握できなかったのだ。

健次郎はやがて、金八によって「悪」を暴かれてクラス内で孤立。さらに雄一郎の存在が世間にバレたことで、家庭内でも孤独化していく。
雄一郎のことを知り、心配して電話をかけてきた金八。その電話が、家の前からかけてきていると気付いた健次郎は家を飛び出し金八に抱きつく。

「先生!」

「かたくなだった健次郎の心が遂に開いた!」という感動のシーン。ただ、「あの格好いいダークヒーローだった健次郎が金八に籠絡されたー!」という感じもしなくもない。
わざわざ家の前から電話かけるって、あざといよ金八!

第5シリーズあたりから顕著になってくる特徴が、金八の老獪さ。
設定上の年齢は50歳。おじいちゃん先生に片足を突っ込んだ金八は、必ずしも体当たりするだけではなく、様々なテクニックを駆使して生徒たちの心をつかんでいくのだ。

武田鉄矢のやりたかったシーンが20年越しで実現

金八に籠絡された健次郎に、さらなる悲劇が襲いかかる。
過保護すぎる母親から独立したい雄一郎が、ナイフを持ち出したのだ。溺愛していた息子からナイフを突きつけられてショックを受けた母親はナイフを奪い、逆に雄一郎を刺して心中しようとする。

「雄ちゃん、一緒に死にましょ。アナタなしでは生きていけない。ママよ、はじめてママって呼んでくれたミルクのにおいのする雄ちゃん。痛くしないから大丈夫よ」

母親は完全にイッてる! ここでも、健次郎がすぐ隣にいるのにまったく視界に入っていない。
健次郎がふたりを止めに入ったことで揉み合いとなり、倒れた弾みで健次郎が母親を刺しちゃうというパターン! なんちゅう不幸な星回り……。

健次郎が連行されていくシーンは、明らかに第2シリーズ「卒業式前の暴力」のオマージュだろう。第2シリーズの終盤。加藤優と松浦悟(沖田浩之)が荒谷二中に乗り込んで、放送室に立てこもったあのエピソードだ。

荒谷二中の校長から謝罪の言葉を引き出し、放送室から出てきた加藤たちは、警察に捕まって連行されていく。スローモーションで展開する映像に合わせて流れる中島みゆきの「世情」。ドラマ史に残る名シーンだ。

一方、演出家・福澤克雄が第5シリーズで流した曲はナナ・ムスクーリの「AMAZING GRACE」と石川セリの「三月のうた」。「卒業式前の暴力」に負けないほど感動的に編集され、グッとくるものの、この選曲には若干、感動の押し売り感がある。

やはり中島みゆきの「世情」というチョイスは最強すぎる。

ラスト、パトカーで護送されていく健次郎を、金八は警官の自転車を拝借して(いいのか!?)追いかけて行く。
武田鉄矢は過去のシリーズを語る時にたびたび「(第2シリーズで)護送車を追いかける役はオレがやりたかった」と語っていたが、ここで遂に実現できたわけだ。……追いかける意味、あんまりなかったけど。

未だに風間俊介=兼末健次郎だ

傷害事件を経て金八に心をガッチリとつかまれた健次郎は、すっかり・良い子・になった。
自宅で黙々とソーラン節の練習したり、校長室でひとり「仰げば尊し」を熱唱したり……。なんという優等生っぷり。あの邪悪だった健ちゃんはどこに行っちゃったの!?

洗脳されたのかと思うほどの急速な改心っぷりではあるが、「ガラスの少年」兼末健次郎は、ガラスのように壊れやすい心を持った少年であるとともに、ガラスのように周囲を映し出す少年でもあったのだ。
家庭問題がグッチャグチャになっている時には歪んだ心に。金八に救われた後はピッカピカの超・良い子に。さすがに、もうちょっと陰が残っててもよかったけど……。

邪悪な少年から良い子までキッチリと演じ分けた風間俊介の演技は高く評価され、この後、アイドルではなく役者としての道を歩んでいくことになる。
未だに兼末健次郎役のインパクトは強く、これだけ活躍の幅を広げているにもかかわらず、風間くんがテレビに出ていると「健次郎!」と思ってしまう金八ファンは少なくないだろう。

先日も「出没!アド街ック天国」の北千住回に、地元でもなんでもないのにゲスト出演して、「金八」の思い出を語っていた(「金八」は千住あたりでロケすることが多いのだ)。

「金八」以外に役者として代表作のない直江喜一はともかくとして、さすがに杉田かおるや上戸彩が令和の時代になってまで「金八」の思い出を求められることはないだろう。放送から20年近く経っても役のイメージが抜けない。それだけ兼末健次郎は風間俊介にとってのハマリ役だったのだ。

……三原じゅん子が国会で「恥を知りなさい!」とか演説した時は、三原演じる山田麗子が「顔はやばいよ、ボディやんな、ボディ」と言っていたのを思い出したけど。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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