「3年B組金八先生」上戸彩の輝き。性同一性障害問題を知らしめた金字塔 第6シリーズ#2

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。上戸彩が性同一性障害の生徒を演じた第6シリーズ。世間的にも性同一性障害やLGBTQへの理解はまったくなかった時代に、脚本家の小山内美江子が「金八先生」で取り上げた理由とは。

動画配信サービス「Paravi」で順次配信されている「3年B組金八先生」。今月配信されたのは2001年放送に放送され、上戸彩演じる性同一性障害の生徒役が話題となった第6シリーズ。

放送された当時は、まだ地上波のテレビでも普通にオカマ、ホモ、ニューハーフなどの言葉が使われており、世間的にはLGBTQへの理解はまったくなかったと言ってもいいような状況だった。
そんな中、性同一性障害がテーマの、しかも中学校を舞台にしたドラマがゴールデンタイムで放送された意味は大きい。

「性同一性障害」という言葉自体、本作で知ったという人も多いのではないだろうか。

衝撃的過ぎる上戸彩の登場

脚本家の小山内美江子は、以前より性同一性障害やLGBTQにまつわる問題に注目をしていたというが、非常にデリケートな問題だけに「金八先生」の中で取り上げるのは難しいと考えていたようだ。
そんな時、性同一性障害の当事者である虎井まさ衛と知り合いって協力を得ることができたこと。そして上戸彩という役者と出会えたことで、この問題に取り組む覚悟が決まったという。

確かにドラマを作る上で当事者目線での正確な情報はもちろん、身体は女だけど心は男という難役を演じきれる役者の存在は必須。しかも中学生で、という条件はかなりハードルが高かったと思われる。

それだけに、ハードルを越えてきた上戸彩の演技力と存在感は圧倒的だった。
上戸演じる鶴本直は、第1話で桜中学へと転校してくる。

昭和のスケバンを思わせる長いスカートをはいてタクシーから登場。しかも母親はサングラスをかけたりりィ。転がってきたサッカーボールをガシッと踏みつけて……。
もう格好いいやらかわいいやら怪しいやら。「今回のメイン生徒は確実にこの子!」と確信させられる鮮烈な初登校シーンだった。

とはいえ、この時点では変化球の不良キャラくらいの認識。じょじょに性自認は男なのに、女の身体を持つ自分に戸惑い、悩んでいる様子が明かされていく。
スカートをはくことを拒み、体操着も女子用のピンク色のものではなく黒を着用。表情は常にかたく、声のトーンを落としてしゃべる。

本作でブレイクした後の、素の上戸彩を知っていると、圧倒的演技力で“男の心を持つ女生徒”を演じていたと分かるが、本放送時はホントにこういう人なんだと信じちゃうほどの迫真の演技だったのだ。

「ぼくらの七日間戦争」の宮沢りえや、「クレアラシル」のCMの広末涼子。「あまちゃん」の能年玲奈(のん)などなど、時代を象徴するアイドルのブレイク作は、当然、その子の魅力が全開に発揮されているものだが、本作における上戸彩は、アイドル的魅力をすべて封印されたような役だ(抑えきれないオーラがビンビンに放たれていたが)。

それだけに放送終了後、アイドル的に売り出されていく上戸彩を見て、「あれ……直。あれほどスカートはくのを拒否してたのに!?」とモヤモヤしてしまった(ドラマ脳)。

あの「人という字」説教に反論

この性同一性障害が、これまでの「校内暴力」とか「いじめ」みたいな問題と違うのは、金八自身がまったく無理解なところからスタートしているということだ。自分の身体と性自認との間で揺れて不安定になっている直に寄り添おうとはしつつも、その言動にだいぶ戸惑っている様子が描かれていた。

クラスメイトたちと何かとトラブルを起こす直に対し、金八は「人」の字を黒板に書いて、例のごとく「人と人とが支え合って……」云々という説教をはじめるが、直はそれに反論。

「だから私はまともな人間ではないと言いたいわけ?」

お得意の漢字説教が効かない!? ということで金八は逆ギレ。事情を知らないとはいえ、「自分は異常な人間なのではないか」と悩んでいる真っ最中の直に対して「人」を説くのは無神経だっただろう。

その後もひとりで“本当は男”である自分と向き合い、男になる覚悟を決めていく直に対して、金八は性同一性障害について必死で勉強してついていくことしかできていない。
話が進むにつれて教室内での直の存在感はどんどん増していき、直とは関係のないエピソードでも、直がどんな顔をして話を聞いているのか気になってしまう。
金八以上に存在感を放った生徒という意味では、第2シリーズの加藤優(直江喜一)依頼の特別な生徒といえるだろう。

藤岡弘、が上戸彩の胸をつかむ

鶴本直のもっとも印象的なシーンといえば、やはり父親とのダンスシーンだろう。

悩んだ末に「自分は男だ」と確信した直は、海外で仕事をしている父親と久しぶりの食事会に、男物のスーツを着て現れる。……それはいいのだが、なんと直の父親役は藤岡弘、! 母親がりりィで父親が藤岡弘、って、どんだけ濃い家族なのだ。

直のことを娘としか思っていない藤岡弘、は直をダンスに誘う。藤岡と上戸による「金八」らしからぬ妙にスタイリッシュなダンスシーンが繰り広げられた後、女であること思い知らせるために藤岡は突然、直の胸をわしづかみにする。

いや、性同一性障害とか関係なく、そんな父親いる!?

当然、直もショックを受けて思わず「キャーッ」と女の声を上げてしまう。
父親の前でモロに女の姿を見せてしまった直は泣きながら家に帰り、フォークで喉を突き刺す。これがまたホントに生々しく痛そうで……。

「まーたドラマチックにしようと思って福澤克雄が過剰な演出してるよ」と思っていたのだが、虎井まさ衛がトランスジェンダー友人から聞いた実際のエピソードだったようだ(実際には焼き鳥の金串で声帯を潰したそうだが)。性同一性障害の当時者にとって、男らしい・女らしい声というのは大きな違和感と苦しみを感じる対象。それを象徴するエピソードだが、父親が藤岡弘、というのはさすがにやり過ぎだったんじゃないかと思う……。

だって上戸彩の胸を藤岡弘、がわしづかみにしている絵面が衝撃的過ぎて、声の方に意識が行かなかったもん。

授業をやったくらいで偏見はなくならないリアル

やがて直は、性同一性障害であること、性自認が男であることをクラスでカミングアウトする。さすがに騒然となったものの、金八をはじめとする教師たちの尽力で理解を得られ、男子生徒たちから、

「(性別適合手術を受けて)男になったら一緒に立ちションしようぜ」

と誘われるまでになる。

ここでめでたしめでたしとなってもよさそうなものだが、小山内美江子はさらに突っ込む。
直と対立関係にあるオネエ言葉の男子生徒・ミッチーこと北村充宏(川嶋義一)が、直をレイプする計画を立てたのだ。

幼少の頃より日本舞踊を習わされており、なおかつ父親がいない環境で育てられたため、男がどうしゃべるものか分からないまま成長してしまったミッチー。
オカマとからかわれ、ペニスがついているか確認するため、みんなの前でパンツを脱がされるようないじめを受けてきたという。

そこで、女言葉をあえて使いオネエキャラとして女生徒たちとつるむことで自己防衛してきたのだが、それだけに癪に障るのが直の存在だ。
“本当の自分”を素直にさらけ出してクラスに受け入れられた鶴本直の存在が許せないミッチーは、「結局、身体は女だ」ということを思い知らせるため、直をレイプして妊娠させるようと考えた。
さすがにこの計画は未遂に終わるが、「ここまで描くの!?」とドキッとさせられた。他の男子生徒からも、

「おしいことしたよな。直、タイプだったんだよな。女のうちにヤッとけばよかった」

なんて発言も飛び出しており、チョロッと感動の授業をやったくらいで偏見がなくなるわけもない、きれい事では済まない性同一性障害のリアルも真正面から描かれているのだ。

あの区議も本作を見ていれば……

おそらく全国区のドラマではじめて性同一性障害をガッツリと取り上げ、いきなり金字塔的ドラマとなった「3年B組金八先生」第6シリーズ。
少し前にLGBTと少子化問題を結びつけて、「足立区が滅びる」発言をして大炎上をした足立区議がいたが、あの人、第6シリーズが放送されて2001年には既に足立区議をやっている。

区議だったら、自分の地元が舞台で、なおかつあれだけ話題になっていたドラマをチェックしてもよさそうなものだが……。
第6シリーズを見ていたら、あの炎上発言は避けられたはずだ!?

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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