「3年B組金八先生」浅野忠信を差し置いて名演技を見せたあの女生徒は今?第3シリーズ#2

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。今回は、隠れた名作シリーズが見られる第3シリーズを北村ヂンさんが考察します。

浅野忠信をはじめ、萩原聖人、SMAPの森且行、V6の長野博など、後にスターとなる若手俳優を生徒役に迎えながら、まったく見せ場がないという無駄遣いをしている第3シリーズ。そんな本シリーズにおいてメイン生徒となっているのが、いじめが原因で松ヶ崎中学に転校してきたものの、クラスに馴染むことができずに保健室登校をしている水野君恵(岸雅)。

いじめを受けていたのは前の学校時代のことなので、現在のクラスに問題があるわけではない。君恵と交流するために保健室へ顔を出すクラスメイトたちは基本的にみんなフレンドリーだし、ビジュアル的にとにかくかわいいため、夢中になる男子生徒も少なくない。それでも君恵は心を開くことはなく、セリフは皆無。

これまで生徒の問題に体当たりでぶつかってきた金八も、つかみ所のない“心の問題”を抱える水野君恵には苦戦しているようだ。そんな君恵の心を開いたのが、アルコール依存症の父親(前田吟)とふたり暮らしをしている山田裕子(浦明子)。君恵と裕子というふたりの女生徒の友情がドラマを大きく動かしていく。

父子家庭の父親が死ぬ

第3シリーズが放送された1988年といえばバブル景気のまっただ中。
「3年B組金八先生」においても、父親からバカ高いネックレスをプレゼントされた女生徒や、家族でハワイ旅行に行く男子生徒(萩原聖人)など、バブリーな生徒が登場している。
とはいえ舞台は足立区の下町。まだまだ信じられないような貧乏生活を送っている家もあり、山田裕子の家庭もそのひとつだ。アルコール依存症の父親に愛想を尽かし、母親が出ていった山田家では、飲んだくれて働かない父親の代わりに、裕子が学校に内緒で居酒屋でアルバイトをして家計を支えているのだ。

居酒屋で酔客に絡まれたりと、大人の汚い面を垣間見てしまっている裕子は、金八や教師たちを信用せず、頼ろうとはしてこなかった。そんな裕子が、はじめて金八を頼ったきっかけは、父親の死。

「お父ちゃんが死んだ。お父ちゃんが死んだ。どうやって葬式やっていいか分からないし、来てくれるとありがたいんだけど」

アルコールのせいでもともと身体を病んでいた父親が急死。それまで、だいぶ悲惨な家庭環境におかれていても気丈に振る舞っていた裕子が、ギリギリ涙をこらえて金八に電話をかけてきたこの場面は金八シリーズ全体を通しても屈指の名シーンだ。

名演技を見せてくれた女生徒たちは今

脚本家の小山内美江子は「金八先生」を執筆するにあたって「ドラマのために生徒は殺さない」という自分ルールを設定していたそうで、ケガや病気で入院する生徒はいても、決して死ぬことはなかった。しかし生徒の家族は何人か亡くなっている。第1シリーズでは、東大受験に失敗して自殺した杉田かおるの兄。第2シリーズでは、受験が終わった直後に女生徒の父親が病死している。
それぞれ、生徒の身に降りかかった大事件として金八が支えていくのだが、生前から金八と深く交流していた家族が亡くなったケースは山田裕子の父親がはじめてだ。

金八は、家計のためにアルバイトをしている山田裕子を心配し、たびたび山田家を訪れていた。当初は娘の稼いだ金で競馬&酒に興じる父親を軽蔑している様子だったが、繰り返し交流する中で、父親から「たったひとりの友達」と呼ばれるまでになっている。
それだけにこの父親の死は金八にとってもショックだったのだろう。葬式の出し方が分からずに慌てた金八は、たまたま出会った水野君恵の母親に手伝いを頼むことになる。おかげで、君恵もお通夜の受付にかり出され、裕子と交流を深めていくのだ。
裕子が母親に引き取られることになり、卒業を待たずして転校する可能性があると聞きつけた君恵は、それまで自分からは決して足を踏み入れようとしなかった教室にやって来て、裕子に迫る。

「転校しないで。私、一緒に卒業したい!」

君恵が、これまで閉じ込めていた自分の気持ちを解放して、最終話にして初セリフ! 山田裕子の電話とともに、第3シリーズの2大涙腺崩壊シーンだ。ここまで一言も発しないまま、視聴者を引き込む演技をしていたこともスゴイ。この、水野君恵が教室に戻るエピソードには金八がほとんど絡んでいない。君恵が教室にいることに気付かず、妙な生徒たちの様子にポカーンとしていたくらいだ。金八のお説教抜きで、ふたりの友情が問題を解決したのだ。
水野君恵、山田裕子に関するエピソードは下記を見ればざっくり把握できる。

第3話「穴があったら入りたい」
第7話「プッツン・ママ」
第6話「先公なんか信じない!」
第10話「進路決定・三者面談1」
第11話「進路決定・三者面談2」
第12話「思いっきり3年B組」

……って、全12話のうち6話で君恵&裕子エピソードが描かれているのだ。せっかくなので全話見ることをおすすめする。

浅野忠信たちを差し置いてこれだけ輝いた演技を見せてくれた水野君恵&山田裕子役の岸雅、浦明子は本作終了後、ほどなく芸能活動を終了。残念ながら、他の作品での演技はほとんど見ることはできない(岸雅はダンサーとして活動しているようだ)。
ふたりとも、杉田かおる級の演技派として活躍しててもおかしくないのに!

その他、第3シリーズのおすすめのエピソードとしては、菊池健一郎の姉役として松下由紀が登場する第9話「俺の仕事」。金八がテレビ局を訪れたところ、『刑事物語』っぽいドラマの撮影をやっており、武田鉄矢と対面。サインをもらって大感激するという面白エピソードだ。

しかし金八は、第1シリーズでも海援隊のコンサートに行って武田鉄矢のサインをもらっているのだが……。その辺のことはすっかり忘れているようだ。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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