「親バカ青春白書」の気楽さが今の気分。たまにいいことを言うムロツヨシが送る大学時代に浸りたい

父・ガタローをムロツヨシ、娘・さくらを永野芽郁が演じる、日本一バカでかわいい父娘の青春ホームコメディ「親バカ青春白書」。ガタローの亡き妻・幸子を演じるのは新垣結衣と話題に事欠かない本作は、気楽なストーリーが今の時代にぴったり!キラキラしたキャンパスライフとガッキーに浸っていたくなる1話を振り返ります。
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8月2日より、福田雄一が演出を手掛ける「親バカ青春白書」(日本テレビ 日曜夜10時30分)がスタートした。

元東大生で小説家の小比賀太郎(ムロツヨシ、以下「ガタロー」)は、女子校育ちの娘・さくら(永野芽郁)を溺愛している。娘が大好きすぎるガタローは、遂にはさくらと同じ大学に入学した……という内容だ。

随分と無茶な設定である。しかし、変わってるのはガタローだけじゃない。この親子関係が普通と思っているさくらも、スレてなさすぎて普通ではない。たぶん、女の子を持つパパは、ガタローと同じくらい我が子を箱入りにしたいのが本音だと思う。そう考えると、この歳になってこれほど父親を受け入れてくれるさくらのほうがレアかもしれない。もはや、浜口京子を思い出させる純真さだ。

コロナで閉塞的な時代だから、このくらい気楽なストーリーのほうが今の気分だ。毎回、オープニングは陽気でキラキラした映像で始まるし、あまり悩みがなさそうなBGMはこのドラマのカラーをそのまま表している。

意外にガタローがいいことを言う

でも、ただふざけてるだけならグダグダだ。さすが年長者。まぶしいキャンパスライフを送る若者たちへ、時にガタローは為になる言葉を送ったりする。

1話でさくらは、クラブで開催されたサークルの飲み会に同級生の山本寛子(今田美桜)と参加。そこで、主催者たちは飲み物に睡眠薬を入れ、2人を乱暴しようとした。この会を主催するのは悪どいレイプ集団だったのだ。

すると、そこにガタローが登場! さくらの携帯電話に入れてあるGPSを頼りに居場所を突き止めていた父は、間一髪でさくらを救出した。

ただ、この事件によってさくらは小比賀家の親子関係が普通じゃないことに気付いた。だって、父親が娘の携帯にGPSを入れてるなんて……。

「普通じゃない? 上等だよ! そのおかげでこうやって大事な娘を守れた。こうやって無事でいる。だったら俺は、全然普通じゃなくていい! 普通なんてクソ喰らえだー!!」(ガタロー)

普通になれない自分を不安がる者がいれば、普通じゃない自分に負い目を抱く者もいる。そんな若者たちへ向けた、ガタローからの檄だと受け取ってほしい。

娘と一緒に入学したり、GPSを入れたり、一歩間違えればガタローは毒親である。でも、安心した。彼はただ娘に依存しているのではなかった。さくらに幸せになってほしいだけの父親だったのだ。

「大恋愛」と「3年A組」と『お父さんは心配症』をオマージュ?

過去の作品のオマージュが散りばめられているのも、このドラマの特徴だ。

永野芽郁が演じるさくらは、2019年に今作と同じ枠で放送された「3年A組 ―今から皆さんは、人質ですー」(日本テレビ)で永野が演じた役(茅野さくら)と同じ名前だ。永野と今田美桜がクラスメートという関係性は、まるで3年A組の延長線のよう。

ムロ演じるガタローの職業が小説家という設定は、2018年放送の「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS)を明らかに意識している。さくらが想いを寄せる畠山雅治(中川大志)は「ガタローさんが好きなんだ!」と絶叫するほど、作家・小比賀太郎の大ファンだった。ガタローの小説を覚え、そらでつぶやけるほど心酔している畠山。まるで、「大恋愛」の間宮尚(戸田恵梨香)である。およそ20年ヒットのない小説家とその大ファンが出会い、作品の一節を暗唱……完全に「大恋愛」からのトレースだ。

2話では、霊媒師役としてシソンヌのじろうが、医師役にシソンヌの長谷川忍が出演した。ムロと中川とシソンヌが一緒になって繰り広げるコントまがいの展開は、「LIFE!~人生に捧げるコント~」(NHK)の世界観である。3話では、ダンスサークルの上級生を演じる清野菜名がさくらを勧誘したり、ミスコンの司会に矢本悠馬が登場したり。永野がヒロインを務めた2018年放送の朝ドラ「半分、青い。」(NHK)のキャストが見事に揃い踏みだ。

そもそも、妻に先立たれた父親が一人娘を思うあまり、常軌を逸した行動に出るというストーリーは、岡田あーみん作のギャグ漫画『お父さんは心配症』(集英社)を思い出させる。

キャンパスライフと新垣結衣に浸っていたい

3話まで見て気になったのは、ガタローを演じるムロからあまりにも父性を感じないところ。父娘というより、年下の女の子を想いすぎてやきもちを焼く男の子みたいなのだ。さくらに片想いしているガタロー、みたいな見え方というか。

怪我の功名だと思う。だからこそ、ガタローが大学生に混じってもあまり違和感を覚えないのだ。彼が純粋にキャンパスライフを楽しんでいるからだ。

筆者は40歳のガタローと同世代で、ここまでキラキラした大学生活は送らなかったが、それなのにあの頃を思い出して懐かしい気持ちになった。ガタローに自分を投影し、いつしかキャンパスライフを疑似体験している感覚に陥っていたのだ。ああ、大学時代に戻りたい……。翌日に出社を控える会社勤めの人たちからすると、余計に浸っていたくなるドラマかもしれない。

あと、ストーリーに悪いヤツが出てこないのもいい。現実ではありえない設定だ。だからこそ「ドラマを観ている間くらいはほっこりさせて!」と、この1時間を大事にしたくなってくる。

何しろ、回想シーンに登場するガタローの亡き妻・幸子を演じるのは新垣結衣である。第1話ではせいぜい30秒くらいしか登場しなかったのに、Twitterでトレンドワード入りしたほどの破壊力。あまりにも尊い設定だ。やはり、浸っていたい。

好みの分かれる福田雄一作品だが、今作における“福田テイスト”は比較的マイルドな印象。実は福田ワールドが苦手な筆者にとっては塩梅が丁度良く、多くの人にとって入り込みやすい作品だと思う。

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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