「3年B組金八先生」上戸彩だけじゃない第6シリーズ。生徒たちの友情が熱い群像劇

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。今回は、上戸彩が性同一性障害の生徒を演じた第6シリーズ。実は見応えのあるエピソードが満載の第6シリーズを上戸彩以外で振り返ります。

動画配信サービス「Paravi」で順次配信されている「3年B組金八先生」。今月配信されたのは2001年放送の第6シリーズ。「金八先生」に余り詳しくない人でも、「上戸彩が出ていたシリーズ」と言えばピンとくるのではないだろうか。

日本において性同一性障害やLGBTが広く認知されるきっかけとなったシリーズであり、性同一性障害の生徒・鶴本直を演じた上戸彩は本作をきっかけにブレイクしていく。
とにかく存在感が圧倒的で、ほぼ上戸彩の印象しかないシリーズではあるのだが、実は他にも見応えのあるエピソードが満載。ということで今回は上戸彩以外の第6シリーズを振り返ってみたい。

殺人犯の息子が3年B組に

第5シリーズからメイン演出となった福澤克雄が引き続きメイン演出を務め、「半沢直樹」などにも通じるドラマチック演出がさらにエスカレートしている第6シリーズ。
なぜか3年B組にばかりトラブルが起こるというのはお約束としても、本作ではさすがに金八の負担がデカすぎるだろうという衝撃事件が連発する。
性同一障害の問題以外にも、生徒の援助交際未遂。教師の子どもを想像妊娠した女生徒。生徒の兄が違法薬物でラリッた挙げ句、自宅に放火。両親の離婚。幼児虐待などなど……。
普通の中学教師だったら一発でノイローゼになってしまいそうなほどハードな事件の連続だ。

中でも特にデカいのは、第1話で上戸彩演じる鶴本直とともに3年B組に転校して来た生徒・成迫政則(東新良和)にまつわる問題。
成迫は過去に、姉が集団強姦された挙げ句、殺害されている。成迫の父親は、金八とも面識のある中学教師だったが、元・教え子が犯人グループに関わっていると知り、その元・教え子を殺害して現在服役中。なおかつ唯一の保護者である祖母は認知症で施設に入っているのだ。
重い! もはや中学教師の手に負える問題じゃないよ……。

そんな成迫は、金八が預かるような形で3年B組に転校して来た。
クラスメイトたちには事件のことを隠して学校生活を送っていたが、インチキ週刊誌に姉殺害事件の加害少年による一方的な告白記事が掲載されたことでバレてしまい大きな騒動に。

「金八」シリーズでは、第1シリーズで浅井雪乃(杉田かおる)の兄が自殺した際や、第5シリーズでの金八によるビンタ事件の時など、マスコミよる過剰な報道被害がたびたび取り上げられている。
父親が殺人犯だというだけでマスコミに追い回される少年・成迫は、その総決算としての登場ではないかと思われるが、TBSテレビ自体も思いっきりマスコミなせいか、イマイチ踏み込みが甘い。

週刊誌やフリージャーナリスト、フリーライターを極悪人として描いているわりに、テレビのワイドショーに対するツッコミは及び腰。マスコミによる報道被害で一番大きなものはやはりテレビのはず。そこをぼやかしてしまうのはズルイ!
結局、「インチキな週刊誌は許せないけど表現の自由は大事」みたいなボンヤリした結論に落ち着いて、週刊誌を名誉毀損で訴えることに。しかし数ヶ月で判決が出るはずもなく、この問題は決着しないまま最終回を迎える。

ちなみに2011年放送の「3年B組金八先生ファイナル~最後の贈る言葉」で、大人になった成迫は弁護士になっている。
具体的な描写はないものの、名誉毀損裁判に勝利し、平穏な生活を取り戻すことができたことで、お世話になった弁護士を志すようになったのだろう。

誕生の瞬間から見守ってきた金八の息子が危篤

第6シリーズでは、教室の外でもドデカい事件が起こっている。金八の息子・幸作(佐野泰臣)に悪性リンパ腫が見つかり、入院することになってしまったのだ。

中学教師の手に余る問題を次々と解決してきた金八ではあるが、息子の病気に関してはホントにお手上げ。
危篤状態に陥った際、「お母ちゃん(亡くなった妻)、助けて……」とつぶやき、力なく崩れ落ちた金八の姿を見て、さすがにかわいそうになった。前世で何か悪いことでもしたのかという試練の数々だ。

幸作は第2シリーズ終了後、定期的に放送されていた「スペシャル2」で誕生。その後の第3シリーズでは幼児時代が描かれている。本格的にストーリーに絡んでくるのは第4シリーズから。まだ小学生だった佐野泰臣がキャスティングされ、以降、「ファイナル」まで佐野が演じ続けている。

「北の国から」の純くん(吉岡秀隆)&螢(中島朋子)や、「渡る世間は鬼ばかり」の眞(えなりかずき)など、リアルに成長する子どもをウォッチできるのは長期ドラマの醍醐味だが、「金八」では多数のOB生徒たちとともに、この幸作と姉・乙女(星野真里)の成長も見どころ。
それだけに、誕生の瞬間から見守ってきた幸作が悪性リンパ腫で入院というのは、視聴者的にもショッキングな事件だった。

幸作は、第5シリーズ時には中学3年生。当初は3年B組に在籍していたものの、前任の中野先生(ラサール石井)が入院し、父親である金八が3年B組の担任になったことで3年A組に移っている。

ということで、兼末健次郎(風間俊介)をはじめとする第5シリーズ3Bの面々とも熱い友情で結ばれており、幸作の入院を期にみんなが再集結する。
抗がん剤治療によって髪の毛が抜け、危篤状態となった幸作の回復を祈願して、健次郎たち数名の元・3Bは頭を丸めて坊主に。
冷静に考えると「それ、意味ある?」という謎過ぎる願かけではあるが、福澤克雄のコテコテな感動演出と、リアルに友情で結ばれている(佐野泰臣と風間俊介はプライベートでも仲がいいらしい)旧・3Bたちのガチ演技で涙をドバドバ絞り取られてしまった。

なんちゅう聖人なんだ

学校ではトラブル続きだし、息子は入院中。
さすがの金八もキャパオーバーになってしまったようで、生徒から「最近、相談しづらいよ」と指摘されてしまう始末。
これまで、すべての生徒に父親のように接してきた
金八だが、そりゃあ実の息子が生死の境をさまよってる時に、生徒のことにまで手は回らないよ……。
それでも、

「もしも運命というものがあるならば、子どもや教え子を苦しめず、オレを苦しめろ。子どもや教え子のところには行くな。オレんところに来い、耐えてみせるから」

と神頼みする金八。
息子が死にそうな時に「教え子」まで願っていられる!? なんちゅう聖人なんだ……。
ということで第6シリーズでは、いっぱいいっぱいになっている金八頼みではなく、生徒同士の友情で問題を解決していくケースも多かった。

スーパー教師が大活躍するドラマではなく、金八を取り巻く生徒や教師たちの群像劇としての色が強い。すべての生徒にスポットが当たり、みんなが主人公……ある意味、学園ドラマとしてのひとつの到達点とも言えるだろう。

ただ、あまりに衝撃的な事件を詰め込み過ぎているせいで、全23話では消化しきれず、どの事件も若干、中途半端なまま終わっているのがもったいない。
いっそのこと4クール、1年間放送して欲しかった。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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