「3年B組金八先生」生徒全員が主役!地味だけど学園ドラマのお手本のような佳作。第8シリーズ#1

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。金八ファンでも見ていない人がいる地味な第8シリーズ。ところが生徒全員が主役が徹底された丁寧な作りで見どころも。本来の学園ドラマが見たい人にオススメの第8シリーズを振り返ります。

動画配信サービス「Paravi」で順次配信されている「3年B組金八先生」。今月配信されるのは2007年放送の第8シリーズ。

レギュラー放送としては最終シリーズとなった本作だが、内容の地味さから存在感が非常に薄く、視聴率も低かったようだ。
しかし改めて見返してみると、本作が志高く作られた良心的な学園ドラマであることが分かる。

福澤克雄の過激路線から一気に地味な学園ドラマに

第5シリーズ以降、『半沢直樹』などで知られる福澤克雄がメイン演出に就任したことで過激路線を突っ走っていた「金八」は、第7シリーズで生徒が覚醒剤に手を出して少年院に入れられるという最悪の最終回を迎えた。

その第7シリーズを最後に福澤克雄は更迭され、初期シリーズで演出を担当していた生野慈朗(伝説の「卒業式前の暴力」を担当!)が本格復帰。第4シリーズ以前のような、昭和のニオイを残した学園ドラマへと回帰したのが第8シリーズだ。

初期からのファンにとっては待望の……となるかと思いきや、あまりにも地味過ぎて、熱心な「金八」ファンでも第8シリーズだけは見ていないという人が少なくない。
第8シリーズで扱っている問題は、生徒の私服登校、美術の課題の代筆、単なる失恋などなど。覚醒剤に手を出しただの、母親を刺しただのと、激しい展開が続いた第5~7シリーズと比べると確かに物足りないのだ。

どんなに現実離れしていようが、ドラマは面白ければいい! という福澤演出の正しさが証明されてしまったとも言えるだろう。
とはいえ、第8シリーズは地味ながらも非常に丁寧に作られており、スルーしてしまうのはもったいない作品なのだ。

生徒全員が主役!

「金八」における福澤演出の問題点のひとつに、エピソードがメイン生徒に偏り過ぎるのがある。

生徒役にイケメン・美少女を揃えたり、奇抜な口癖や服装などを設定して、一応、それぞれキャラ付けはされているものの、メイン以外の多くの生徒はモブ的な活躍しかしないため、卒業式で「この生徒、なにやった子だっけ?」となってしまうことも少なくなかった。
もちろん、そのせいでメイン生徒の魅力が際立ち、思い入れも非常に強くなるのだが。

一方、第8シリーズは“生徒全員が主役”にこだわっている。
メインらしき生徒はいるものの、比重はそれほど高くなく、生徒全員にキッチリとメイン回が用意されているのだ。

第4シリーズ以前の初期「金八」でも「生徒全員を主役に」という方針はあったようだが、それでも何人かは「誰だっけ?」な生徒もいて、第8シリーズほど徹底はされていなかった。
ただ、すべての生徒にメイン回を作ってスポットライトを当てるということは、どの問題も1~2話で解決してしまうということ。
結果、個々のエピソードがどうしても小粒になってしまい、それがシリーズ全体の印象の薄さにもつながっているのだろう。

ジャニーズ枠も不発でますます地味に

シリーズとしての大きな特徴は、現実の少子化問題と絡め、従来30人だった3年B組が25人になっていること(これが全員のエピソードを丁寧に描けた一因だろう)。

そして、第5~7シリーズで桜中学に併設されていたはずの「さくらデイサービスセンター」や、恒例の「ソーラン節」がいつの間にかなかったことに。毎回、クラスにひとりはいた発達障害の生徒もいなくなっている。
この辺に「福澤色を一掃するぞ!」という意志が見え隠れしているような……。

第4~7シリーズまで「金八トリオ」として推されてきたジャニーズ枠は、本作では亀井拓、カミュー・ケイド、真田佑馬、植草裕太(現・樋口裕太)と4人が参加しているため「金八Jr.」なんて呼ばれていた。
男子生徒13人中4人がジャニーズって、なかなかの占有率だ。

しかしその後、全員がジャニーズ事務所を退所しており、風間俊介や亀梨和也、加藤シゲアキのような活躍もしていない。この辺も第8シリーズの地味な印象につながっていそうだ。
特に、本作におけるメイン生徒級の扱いをされている亀井拓、カミュー・ケイドは、ものすごく残念な辞め方をしているので……(各自検索しよう)。金八先生の教えは届いていなかったのだろうか!?

高畑充希が彼氏と駆け落ち……

本作からの出世頭は、高畑充希と忽那汐里あたりになるだろう。ふたりとも「金八」がテレビドラマデビュー作となる。

高畑は、生真面目な優等生であるが故に、不器用な恋愛をしている生徒・田口彩華役。
上位校に合格する実力があるのに、付き合っている彼氏に合わせ、学力的に劣る高校を受験しようとしたところ、親から交際を反対され、駆け落ちをすることになる。
「交際を認めてくれるまで絶対に帰らない」と強い意志で逃避行を続ける彩華に対し、彼氏の方は色々と不安になってしまい、彩華を置いて自宅に帰ってしまうというヘタレっぷり。

学校に戻ってからも「彩華と性行為があった」とウソを吹聴するクソっぷりを見せつけ、彩華を深く傷付けることに。
盲目になっていた恋愛から抜けだし、クソな男をかなぐり捨てて受験にまい進する姿は、近年、高畑がよく演じている意志の強い一本気な役柄とも重なる。

忽那汐里が演じたのは自身と同じ帰国子女の金井亮子役。
何かというと流ちょうな英語で自己主張する、若干イヤミなキャラクターだが、当時、忽那は生まれ育ったオーストラリアから日本にやって来たばかりで、まだ日本語の発音が危うかったからという事情もあったようだ。

クラスメイトの茅ヶ崎紋土(カミュー・ケイド)に、米軍兵である父親から届いた英文の手紙を訳して欲しいと手渡されたのをラブレターだと勘違いした亮子はとっさに、

「なんで私が黒人なんかと付き合わなくちゃいけないのよ!」

と差別丸出しの発言をしてしまう。

留学中、日本人ということで差別された経験を持ち、まさか自分の中にそんな差別心があるとは思っていなかった亮子は、自分自身の発言に大きなショックを受ける。
近年、日本国内でも顕在化してきている人種差別問題をいち早く取り上げたエピソードだった。

最終回まで通して見てこそ真価が分かるシリーズ

その他にも、学校裏サイトの問題や、家業である芝居一座の女形を継ぐのはイヤだと悩む生徒。ネットカフェで寝泊まりする生徒。霊が見えるようになってしまった生徒。美人局に引っかかった生徒などなど、硬軟合わせた様々なエピソードで「生徒全員を主役に」を実現している。

ある生徒の問題をフォローしていると、同時進行で別の生徒の問題が持ち上がり、次回はその生徒が中心に……。
各生徒のエピソードが絡み合って進行していき、その過程で生まれる友情などが丁寧に描かれていく。

地味な第8シリーズの魅力は全22話を通して見てこそ理解することができる。すべての生徒のメイン回を見終えて迎える卒業式は、ひとりひとりのエピソードや成長を思い出し、感動もひとしおなのだ。

派手な事件ではなく、生徒全員の成長に感動できる。これこそが学園ドラマ本来の姿であるはずだ。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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