「3年B組金八先生」「半沢直樹」の福澤克雄が演出初参加。第4シリーズ

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。第4シリーズでは、第1シリーズの「十五歳の母」で宮沢保(鶴見辰吾)と浅井雪乃(杉田かおる)の間に生まれた子・歩(橋本光成)が3年B組でいじめに……どうする金八先生!

動画配信サービス「Paravi」で順次配信されている「3年B組金八先生」。今月配信されたのは平成最初のシリーズとなった1995年放送の第4シリーズ。
前作では松ヶ崎中学に転任していた金八だったが、やはり評判が悪かったのか桜中学に復帰。女子生徒の制服も現代風のブレザー(カワイイ)にリニューアルされており、昭和シリーズから平成シリーズへの転換点となっている。

何でボクを生ませたんですか!

第4シリーズ最大のトピックスはやはり、第1シリーズの「十五歳の母」で宮沢保(鶴見辰吾)と浅井雪乃(杉田かおる)の間に生まれた子・歩(橋本光成)が3年B組に在籍していることだろう。
母親は15歳。両親からも大反対を受けており、中絶手術で処理されていてもおかしくなかったところ、金八をはじめとした教師たちが尽力してこの世に誕生させた命だ。

3年B組の前任教師が突然寿退職したことで担任復帰となった金八は、出欠確認で「宮沢歩」の名前を呼びハッとする。事前に生徒の名前を覚えるため名簿とにらめっこしていたんだから、その段階で気付くだろ! とは思ったが、BGMに「贈る言葉」まで流されちゃうと、やはりグッときてしまう。

しかし「先生のおかげでボクは生まれたんですね、ありがとう!」みたいな感動の再会とはならなかった。金八はテンションMAXだが、歩の方は冷ややか。
幼少期には「若いお母さんでいいわね」という言葉を額面通りに受け取って喜んでいたようだが、中3ともなれば、本人も周囲も性に興味ビンビンの思春期まっただ中。自分の母親が15歳で妊娠・出産したという事実は素直に受け止めにくいところだろう。

「歩か……!? 大きくなったねぇ。雪乃と保は元気にしている? あの、お父さんとかお母さんは」

そんな時に、こんなデリカシーゼロのおっさんが担任教師としてやって来られたら、心の扉もガッチリ閉まるというもの。実際、この件が原因でクラスメイトにたびたびからかわれており、

「先生、何でボクを生ませたんですか!」
「お母さんのこと好きだ。けど、15でボクを生むことはなかったじゃないか!」

と、金八や雪乃にやり場のない思いをぶつけていた。

普通のドラマだったら、15歳の母親が周囲の反対を押し切って出産しました! というところで感動のエンディングになるわけだが、そこから15年(実際には16年だが)が経ち、15歳になった子どもと、30歳になった両親の苦悩を描けるのは長期シリーズならでは。

「両親が自分を15歳の時に生んだ」という悩みを、金八が説教して解決するのではなく、父親である保が、歩と真っ正面から向き合うという展開にもシビれた。
「高校に行かないで牧場をやる」とか言ってた保が……オトナになったなぁ~!

いきなり15年分のバックグラウンドを背負わされる難しい役を演じきった歩役の橋本光成はその後、役者を引退して格闘家に転身。
2004年に放送された特番「25周年記念同窓会スペシャル」では、父親になって自分の子どもに「歩」という名前をつけたことが明かされた。その話題では、杉田かおるも鶴見辰吾も孫を見るような顔になっていて……。もはやドラマじゃない、壮大なドキュメンタリーだよ!

イヤミな教頭が役者人生最期の授業

第4シリーズではこの「十五歳の母」の他にも、第2シリーズ「腐ったミカンの方程式」の加藤優のその後が描かれたりと(予想外の老け方をしていて衝撃を受けた)、昭和シリーズの総括が行われている。
第1~2シリーズで金八とたびたび対立していたイヤミな教頭・野村(早崎文司)が、桜中学の校長に昇進しているのもそのひとつだろう。

学校の名誉を守ることを第一に考える野村は、生徒のために暴走する金八とはソリが合わなかったが、本作ではすっかり好々爺に。出席簿を男女混合にしたり、学校に否定的な意見も載せたPTA通信に許可を出したりと、かつてのキャラからは想像できないくらい物わかりのいいおじいちゃんになっている。
ドラマ内の野村校長も体調を崩しているという設定だったが、演じる早崎文司自身、撮影前からかなり身体の調子が悪くなっていたようだ。

第21話「印度カレーの神秘」で、定年退職前最後の授業として、自分の教師人生を生徒たちに語り、「教師というより経営者的な観点で君たちを締め付ける方向に進んでしまった」と反省の弁を述べていたが、この時も立っていることができず、椅子に座ったままの命がけの授業だった。

最終回では急に具合が悪くなって卒業式に出席できなくなり、教頭が代理で卒業証書を授与することになるのだが、どこまでリアルでどこまでドラマなのか分からなくなってくる。
早崎文司は、この卒業式のシーンを含む第4シリーズ最終回放送日に亡くなっている。役者人生最期の姿を記録した、これもまたすごいドキュメンタリーなのだ。

『半沢直樹』福澤克雄が『金八』初参加

本作で押さえておきたいポイントはもうひとつ。『半沢直樹』や『下町ロケット』などで、今、一番視聴率が取れる演出家と呼ばれている福澤克雄が初参加していることだ。

『3年B組金八先生』を見て(おそらく第2シリーズ)ドラマ演出家を目指した福澤にとって念願の『金八』演出だ。10月クールには『長男の嫁2~実家天国』を担当していたものの、頼み込んで1月からの後半だけ『金八』に参加することができたという。
福澤が演出したのは、

16話「入試前日親が離婚」
18話「ラップで合格祈願」
21話「インドカレーの神秘」

の3本。まだ顔面どアップでおっさんたちが罵り合うような福澤演出は生まれていないが、生徒たちがヒップホップのライブに行ったり、鉄矢にインド人コスプレをさせたり、新しい『金八先生』を模索している様子は感じられる。

第5シリーズからは福澤がメイン演出として脚本にまで口を出し、良くも悪くも過剰な平成『金八』シリーズが花開いていく。

ちなみに『半沢直樹』には、やたらと『金八先生』の出演者が出ているもお馴染みだ。半沢の妻・花役の上戸彩をはじめ、倍賞美津子(金八の妻・里美)や森田順平(乾先生)、りりィ(『金八』では上戸彩の母役)、山崎銀之丞(遠藤先生)、岡あゆみ(ちはるちゃん)などなど。タミヤ電機の経理課長・野田を演じているのは、『金八』の脚本家・小山内美江子の息子・利重剛だ。

『金八』を見ておくと『半沢直樹』が二割増くらいで楽しめること請け合い。福澤克雄の原点ともいえる第4シリーズもしっかり押さえておこう。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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