綾野剛×星野源「#MIU404」で視聴者が追い詰められた10話。フェイクだらけの菅田将暉との対決

綾野剛と星野源のW主演で話題の「MIU404」10話。驚きの初登場以降、物語の裏で暗躍していた菅田将暉演じる謎の男・久住を中心に物語が進みます。最終話直前の10話では、とうとうMIU404の二人と対峙することに! はたして戦いの行方は……?

見る者にいつもなにかを突きつけてくる「MIU404」。現実に起きて、見過ごされている社会問題のこと。働く女性に向けられる視線。今回はさらに、SNSを使いながらドラマを楽しむ私たちが心臓を掴まれるような展開が起きた。

9話のラストでエトリ(水橋研二)の乗った警察車両をドローンで爆破するという暴挙に出た久住(菅田将暉)。伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)は顔もわからない久住を追う。一方、名前を偽った久住からの情報に踊らされたナウチューバーREC(渡邊圭佑)は、エトリとハムちゃん(黒川智花)に関する嘘の動画をアップしてしまう。

動画の影響で、ハムちゃんと桔梗(麻生久美子)の息子ゆたかは避難することに。帰宅した母が一人になることを心配するゆたかに「大人は一人でも平気なの」と答える志摩。けれどもゆたかを安心させるため志摩が残り、桔梗を出迎えることに。機捜の隊長として上の人間たちと堂々わたり合い、凛とした姿を見せてきた桔梗が動画のコメントやSNSであることないことを散々言われ、弱る姿が痛ましい。

大人は一人でも平気だけど、誰かがいてくれたほうがいい日もある。機捜うどんのメリット「冷めてもうまい」がここで桔梗が泣く時間を作ってくれるのが実にいい。

ひそかに桔梗に思いを寄せているらしい志摩。けれど結局一晩一緒にいてもどうともならないのが最高だ。志摩のつぶやく「死んだ人間(桔梗の夫)にはかなわない」なんて、まるで「めぞん一刻」みたいじゃないか。

久住vs糸巻、一人vs集団のひそかな戦い

物語の最初から警察を敵視し、「真実を暴く」動画投稿を続けていたREC。何か警察に虐げられたことでもあるのかと思っていたけれど、今のところどうやらそんな特別な過去はないみたいだ。そして、そのほうがよほどリアルだ。「実は報道されているものごとの裏に別の真実がある」という陰謀論は、人をひきつける。自分だけが本当のことを知っているという優越感、真実を伝えなくてはという正義感。正しいことをしている、いいことをしていると信じた結果、罪のない人を追い詰める。

9話でハムちゃんを行方不明と信じ、「よかれと思って」情報を寄せた結果、命の危険に陥らせることになった多くの人たちも同じだ。いいことをしたつもりで、加害者になっている。けれどほとんどの人たちは、思いと逆の結果を招いていることすら知らずに終わる。

伊吹と志摩に諭され、自分の信じていた「正義」を疑うことになったREC。そんなRECのPCを乗っ取り、404の二人の思惑を潰す久住。それでも、「出前太郎のカレーうどん」から久住の居場所を割り出すところまではたどり着いた。そのことさえ、久住にはバレていたけれど……。

伊吹と志摩の要請にすかさず対応し、久住の居場所を突き止めたのは1話から伊吹たちをサポートし続けてきた1機捜専属の解析チーム・スパイダーの糸巻(金井勇太)。防犯カメラの解析をしたり事件に関するSNSの投稿を見つけたり、まだ再生回数がわずかだったRECの動画を発見したのも糸巻だった。4機捜の一員といってもいいくらいの活躍ぶりだ。

久住も糸巻も、レベルは違うかもしれないがともにITに強いという点では同じ。けれど、その能力の使い方が違う。たった一人で、人を踊らせてひたすら自分の利益と悪事に利用する久住。警察という組織の中で、そのネットワークを活用し、捜査にあたる機捜の面々をサポートする形で人を救うために働く糸巻。ひそかな対立構造がここにある。

経歴に傷がつかないよう、父から4機捜を外されたエリートの九重(岡田健史)に陣馬(橋本じゅん)が話す「(経歴を大事にして上に行くことが)いずれ俺たち兵隊を助ける」というのも、チームの考え方だ。様々な思惑や古い体制と戦いながら、集団で人を救おうとしている。そういえば、このシーンで九重が酔っ払って陣馬に絡むという逆転現象が起きているのがほほえましい。この二人も本当にいいバディだった。

「not found」だらけのドラマ

居場所の割れた久住は、RECのアカウントを操り、爆破予告をSNSに流す。爆弾を積んだとされるドローンが飛び立つ映像、都内の様々な場所が爆破された映像が、瞬く間にSNSで広まる。実際に自分の目で見ていないのに、「よかれと思って」拡散する人たちーー。

もちろんSNSにはいい面もあるわけで、実際に「#MIU404」をつけて感想をつぶやいているたくさんの人たちがいる。ドラマの面白さや驚きをリアルタイムで共有する楽しみ。そのハッシュタグが、にわかにドラマの中に登場した。「伊吹と志摩の乗るメロンパン号が爆破テロの犯人」。久住の流したフェイクニュースによって、たくさんの人が「#MIU404」をつけてメロンパン号の居場所をつぶやく。これも「よかれと思って」だ。仕掛けた久住は、それをチェックして逃げればいい。

ネットに転がる情報が、真偽を確かめられないまま拡散されていくのは日常茶飯事だ。SNSに触れていれば、「自分はフェイクを拡散していない」と言い切れる人なんて、一人もいないんじゃないだろうか。自分も使っていたハッシュタグが登場することで、ドラマの中の「無責任なネット上の人たち」と自分とがつながってしまったような、「あなたもその中のひとりになりうる」と突きつけられたような気持ちになる。

存在が掴めない、いつまでも顔の見えない犯人、久住。志摩が語ったように、彼の行動の裏にはたくさんの「見えていない被害者」がいるだろう。そして、自分が逃げ切ると同時に違法薬物・ドーナツEPの工場の危機も救うために久住が起こした、現実に起きていない、存在しないテロ。終盤に向かって「not found」な出来事がこれでもかと畳み掛けてくる。

久住はこの回で、久々に会った相手から「五味くん」と呼ばれていた。おそらくどちらも偽名だろう。クズでゴミを自称する久住、MIU404は最終回で捕らえることができるだろうか。

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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