綾野剛×星野源「MIU404」9話。二人抱き合う渾身のアドリブが出るまでの1時間「間に合った」

1話から続く事件が大きな展開を見せた、綾野剛と星野源W主演で話題の「MIU404」9話。ずっと追っていた男についに第4機捜隊が迫ります。前回、大切な人を救えなかった伊吹は、今回は無事間に合うのか……?!

これだけ見逃し配信が普及してリアルタイムでテレビを見ることの価値が揺らぐ中で、「MIU404」はなるべくリアルタイムで観たい番組のひとつだ。

番宣が繰り返され、見どころがわかりやすく説明されたうえで番組を見ることに慣れた私たち。キャストの知名度でドラマの展開を予想できてしまう私たち。そんな中、3話で何の予告もなく菅田将暉が登場した瞬間の驚きは、めったに味わえないものだった。

9話は、また違った意味でリアルタイムで見たい回だった。前回ラスト、伊吹(綾野剛)の「どこで止められた? いつならガマさん止められた?」のシーンが丁寧になぞられ、志摩(星野源)が「伊吹は間に合わなかった」と話す。自分の大切な人が罪を犯すのを、間に合わずに止められなかった伊吹。今回はもうひとりの大切な人が命の危険にさらされるのを止められるのか、間に合うのかを視聴者が見守ることになった。結果を先に知るわけにいかないから、「或る一人の死」というサブタイトルを頭にちらつかせながら、リアルタイムで祈るように見た人が大勢いただろう。

「人の善意に頼る」というやり方の現実味

回をまたいでずっと続いていた問題が大きく動いた9話。桔梗(麻生久美子)がかくまう羽野麦、通称ハムちゃん(黒川智花)と彼女の命を狙う謎の男・エトリ(水橋研二)。その下についているらしき久住(菅田将暉)。4話でいたずら通報を繰り返した男子高校生の中で一人だけ逃げ続け、いまや久住を慕って裏の仕事に手を染める成川(鈴鹿央士)。1話からしつこく警察の動画をアップし、人気者になったナウチューバー・REC(渡邊圭祐)らががっちりと絡み合った。

「止められるかな」「止められるよ」「間に合うかな」「間に合うよ」と言い合う伊吹と志摩。その間に、成川から依頼されたRECは「人の善意に頼る」という最悪な形でハムちゃんの居所を探す。「よかれと思って」が人を傷つける場面、むしろ"加害者”が悪意を認識していたほうがよほどましだという場面を、私たちはSNSを通じて何度も経験している。こんなふうに現実を見据えた視点が、このドラマの信頼感を増す。

渾身の「間に合った」シーン

官舎を見張るRECの撮ったビデオを再生していたら。成川がハムちゃんに接触している間に伊吹が迎えに行けていたら。桔梗がハムちゃんのメッセージを確認していたら……。この一瞬一瞬が後悔につながるのではないか、このせいで「間に合わなかった」になるのではないかと心がぐらんぐらんと揺り動かされる瞬間がいやというほど重ねられた。

「誰も気づかない」、見つけられない、Not foundになるはずだったハムちゃんと成川を、4機捜は見つけ出した。感情むき出しで公私混同ぶりを見せた九重(岡田健史)も、一度は逃し、その結果取り返しのつかない状況に追い込まれた成川を今度こそ救うことができた。

心からの「間に合った」の叫び。ラジオで星野源が語ったところによれば、ここで伊吹と志摩が抱き合う動きは、脚本にも書いてなければ、演出もつけられていなかったらしい。ドライリハーサルの段階で監督の塚原あゆ子が嗚咽したというこの場面は、まさに役者スタッフ全員渾身の名シーンだった。

結局、「或る一人の死」を仕掛けたのは久住のようだ。残すところ2話。果たして機捜の面々は再び間に合い、止めることができるだろうか。そして今回の「武蔵野うどん」に続く、新たなうどんは登場するだろうか。

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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