「梨泰院クラス」会長は本当に悪でパク・セロイは本当に正義なのか? 全話徹底レビュースタート
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いや、マジおもしろかった「梨泰院クラス」。全16話、約18時間、金土日の3日間でイッキに観た。
「半沢直樹」+「ワンピース」の面白さに、懐かしの少女マンガ胸キュン要素をぶっこみながら、骨太の復讐譚であり立身出世物語。
ケーブル局のJTBCで放送され回を重ねるごとに視聴率は上昇、最終回は16.5%を突破した。大ヒットし、Netflixで全世界配信となった。
「愛の不時着」と「梨泰院クラス」が、Netflix総合TOP10(日本)のランキングでずっとベスト5に入っていて、2強っぷりを見せつけている。
ストレートで分かりやすい傑作
転校初日に、国内最大外食企業の長家(チャンガ)グループ会長の御曹司を殴ったことをきっかけに、主人公パク・セロイ(パク・ソジュン)は退学処分。父親は20年務めていた会社を退職することになる。さらに御曹司のせいで父親を失ったセロイは、ソウルの梨泰院に小さな居酒屋を開いて、誰もが誰もが無謀だと考える戦いを長家グループに対して企てるのだった。
っていう骨太なストーリーライン。
正義の主人公パク・セロイを応援し、集まってくる個性的な仲間たちに感情移入する。長家グループ会長チャン・デヒは、倒すべき巨悪として魅力たっぷり。青春、恋、ジェンダー、起業、仲間、宿敵、復讐、成功、エンタテインメントの要素をこれでもかと詰め込んで波乱万丈、ストレートで分かりやすい傑作だ。
分かりやすくて面白すぎるのが欠点だと言いたくなるほど。
だが、全話観終わったあと「面白いうえに、深いぞ」とじわじわ感じはじめた。それで見直してみて驚愕したのだ。
会長チャン・デヒは本当に悪党で、主人公パク・セロイは本当に正義なのだろうか?
「梨泰院クラス」が、どうしてこんなに大ヒットしたのか、これから隔週で1話ずつ見返して、その鍵を探していこう。
今回は第1話。
ドラマティックに着火する瞬間
第1話のクライマックスは、因縁の大ライバル、長家(チャンガ)会長チャン・デヒ(ユ・ジェミョン)が登場し、主人公のパク・セロイ(パク・ソジュン)と対峙するシーンだろう。
パク・セロイは、会長の息子チャン・グンウォン(アン・ボヒョン)をぶんなぐっている。しかも転校初日に、だ。
グンウォンが、クラスメートの頭に牛乳をぶっかけてイジメている。
でも、だれも見て見ぬふりだ。グンウォンは、長家の会長の息子、財閥二世だから。
先生が入ってくる。
「見えてます?」とパク・セロイ。
だが、先生すら見て見ぬふりで「ああ。遊んでないで授業の準備を」と言う始末だ。
「先生の言うことは聞かないとな。この学校ではチャン・グンウォンが王だ」
パク・セロイはグンウォンの顔面を殴る。
主人公のパク・セロイは、「頭が固い」とまで言われる信念を貫き通す男だ。この様子を見ていたオ・スア(クォン・ナラ)が、のちに初恋の相手になる。
そして、会長とパク・セロイの対決場面となる。
会長の息子グンウォンは、いさぎよいほどのこざかしい悪者だ。自分を殴ったパク・セロイの父親が長家の社員だと分かると、露骨に見下して「社員の息子がこの俺を?」と言い出す。
会長はそれを「人前では口を慎め」と止める。さらに「息子がとんだ失礼を」とまで付け加えるのだ。
礼儀正しい大物のふるまいだ。
校長の側を向いて「校長先生 彼への処遇は?」と尋ねる。
校則どおり退学処分にし、法的責任については警察側が示談にもっていくだろうと校長が答える。
「警察は大げさだ。示談のことは、パク部長とは長い付き合いだ、問題ない」と会長。
さらに校長に向かって「私どもが善処すれば退学は取り消せますか?」と聞く。
息子が殴られた父親が、校長の言った「退学処分」「警察沙汰」を取り消して善処しようと申し出ているのだ。
セロイの父も「感謝いたします。二度とご迷惑はおかけしません」と謝罪する。
ここから、「梨泰院クラス」がドラマティックに着火する瞬間になる。
会長は寛容な口調でセロイに告げる。
「だが……セロイ君。自分の過ちは自ら許しを請うものだ。息子の前で土下座して謝罪しなさい。それで済ませよう」
パク・セロイはここで土下座し、その屈辱から長家を超える飲食店経営をしていくんだろう、と予測しながら観た。ここで一回小さくしゃがませておいてジャンプしていく姿を見せることで成長譚としての陰影がはっきりする。
会長は、単純な悪党ではない
だが、その予想は外れる。
パク・セロイは土下座を拒否するのだ。
「グンウォンには謝りません 申し訳ないと思わないので」
「退学になっても謝れない?」
「それが僕の信念で父の教えなので。一生貫くつもりです」
さらに、そのセロイの姿を見て父親が言うセリフが、またカッコよくで、グッとくるのだ(観て!)。
いくらでも、もっと憎むべき悪党に会長を描けるシーンだが、そうしない。
示談や退学の話を言い出したのは校長であり、会長は示談は問題なしと言い、退学も謝罪すれば許そうと言う。
その寛大な申し出を高校生のセロイが拒絶する。会長が単純な悪党なら、激怒し暴言を吐いてもおかしくないシーンだ。
だが、悠然と構える。セロイに向かって言い返すことすらしない。
「パク部長の考えは? なぜ黙ってる」と父親に話をふるのだ。
結果的に、セロイの父親は自ら「退職します……会長」と言ってしまう。
ここでも、会長は「息子の責任を取れ」とか「退職しろ」と直接的に強いていない。
会長の発言は、一貫して、余裕がある大物の寛大なものであり、取り乱したり、激怒したり、理不尽なことを強いたりしない。
それどころか、教師や校長が忖度して強い罰を与えようとしているのを止めているぐらいだ。
ここまでの行動だけを取り出せば、校長が「校則にしたがって退学」を言い渡し、それを取り消そうと会長は善処するが、パク・セロイは謝罪せず、自ら「退学」を選んだことになる。
ドラマを観た人は、「いやいやいや、それはそうだけど」と腑に落ちないだろう。
ぼくも、だから会長は悪くないと主張したいわけではない。
だが、「梨泰院クラス」は勧善懲悪とはちょっと違う構造を巧妙に作り上げた。会長というキャラクターが単純な悪党ではないがために、こんなにも奥深くエキサイティングな物語になっているのだ。
会長の悪はどのように成し遂げられ、主人公パク・セロイの正義はどこまで堅牢なのか。この視点で第2話を観ると「セロイとオ・スアの恋はどうしてこんなにもねじれてしまうのか」という謎も解けてくる。
次回は第2話を検証していく。まだ「梨泰院クラス」を体験していない人は、ぜひ観てみてほしい。
■梨泰院クラス全話レビュー
1:「梨泰院クラス」会長は本当に悪でパク・セロイは本当に正義なのか? 全話徹底レビュースタート
2:「梨泰院クラス」2話。忖度で生み出される格差に抗うパク・セロイ
3:「梨泰院クラス」3話。忖度社会に抗うための第3の方法
4:「梨泰院クラス」4話。パク・セロイとオ・スアとチョ・イソの恋のトライアングルバトル勃発
5:「梨泰院クラス」5話。パク・セロイとオ・スアのキスにチョ・イソディフェンス発動
6:「梨泰院クラス」6話。最大の疑問。パク・セロイはなぜオ・スアをタンバムに呼ばなかったのか
7:「梨泰院クラス」7話。パク・セロイ、会長に宣戦布告、土下座して罪を償え
8:「梨泰院クラス」8話。大金を得たセロイは、なぜ会長のようにならないのか
9:「梨泰院クラス」9話。パク・セロイ、オ・スア、チョ・イソの恋と権力のトライアングル
10:「梨泰院クラス」10話。権力か家族か。決断を迫られる会長、迫るセロイ
11:「梨泰院クラス」11話。チョ・イソ告白シーンでわかるパク・セロイが恋愛に鈍感な理由
12:神回「梨泰院クラス」12話。恋愛から逃げるパク・セロイ、「最強の居酒屋」から逃げないマ・ヒョニ
13:「梨泰院クラス」13話。パク・セロイが愛したのはスアでもイソでもない。会長だ
14:「梨泰院クラス」14話。パク・セロイがオ・スアを捨て、チョ・イソを選んだ愛の理由
15:「梨泰院クラス」15話。結局、会長もパク・セロイもマッチョなのだ。次回最終回
16:「梨泰院クラス」最終話。パク・セロイ「夢みていた光景なのに心の底から喜べない」
「梨泰院クラス」
演出:キム・ソンユン
原作脚本:クァンジン
出演:パク・ソジュン パク・セロイ役、キム・ダミ チョ・イソ役、ユ・ジェミョン チャン・デヒ役、アン・ボヒョン チャン・グンウォン役、クォン・ナラ オ・スア役、キム・ヘウン カン・ミョンジョン役、イ・デビッド イ・ホジン役、ソン・ヒョンジュ パク・ソンヨル役、ユン・ギョンホ オ・ビョンホン役
オープニング曲:ハ・ヒョヌ「Stone」
エンディング曲:Gaho「Start」
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