「梨泰院クラス」5話。パク・セロイとオ・スアのキスにチョ・イソディフェンス発動

世界最大の動画配信サービス、Netflixで大人気の韓国ドラマ「梨泰院クラス」を全話レビュー。気になるけれどまだ見ていない人はこれを機にチェックしてみては?「梨泰院クラス」の名シーン、イソ・ディフェンスが発動する5話を考察します。

「梨泰院クラス」全話レビュー、第5話。
「梨泰院クラス」の名シーンベスト5をあげるなら必ずランクインするであろうイソ・ディフェンスが発動する回だ。

チャン・デヒの好きな言葉は、「弱肉強食」

「梨泰院クラス」、読み方はイテウォンクラス。「梨泰院」は韓国の街の名。
第5話の後半。
オ・スアが荒れに荒れている。
ひとりバーで自虐的に笑うオ・スア、周りの客が「なにあれ?」と露骨に嫌なモノを見る顔になるぐらいにヤバい状態だ。
店を出て、道を歩いているうちに「ムカつく!」と絶叫する。
パク・セロイの顔と声を思い出している。
「自分の決定に忠実になれ。お前は何も悪くない」
オ・スアは、また「ムカつく」と絶叫する
誰かが腕をつかむ。
「誰だ? 誰がお前をムカつかせる」
パク・セロイである。
「あんたよ」
オ・スアは、悪態をつく。
長家の会長に奨学金をもらい、長家の社員になったオ・スアは、長家の権力の元に生きている。
会長チャン・デヒは、巧妙で、直接的に悪事を働けとは言わない。
だが、たとえば、こんなふうに言ったりする。
「昔から君は俺の気に入る返事しかしない。だが、言葉ではなく行動で示してくれ」
そう言い終わったときに、向こう側に見えるのは、パク・セロイの居酒屋「タンバム」だ。
忖度して行動しろ、とメッセージを伝える。
会長チャン・デヒの好きな言葉は、「弱肉強食」であり、「弱者が生き残る道は強者に寄生することだ」という信念を持っている。
だから、おまえも、わたしに寄生して生きろ、と。
つねにメッセージを伝えて、まわりを忖度するもので固める。

あんたには腹が立つ

パク・セロイの店で飲酒している未成年がいることを、オ・スアは警察にチクってはいなかった。
その様子を見て、警察に電話をするが、「間違いでした」と寸前のところでやめて、電話を切っていた。
だが、その後に、チョ・イソに恨みがある政治家の娘が警察に電話をするのを見ていた。
直接的にチクってはいないが、彼女は、自分がチクったも同じだと感じていた。
だから、自罰的になりヤケクソになっていた。

そこにパク・セロイが現れて、「誰だ? 誰がお前をムカつかせる」と言うのだ。
「あんたよ」と悪態をつくしか彼女には逃げ道がなかったのだ。
「あんたには腹が立つ。その悟ったような態度がね」
オ・スアは、自分が長いものに巻かれてしまったが、パク・セロイはそれをはねつけたことをまざまざと見せつけられている。
そのことで、自分をふびんに感じている。
いっそ罵ってくれたら楽なのに。
にもかかわらず、パク・セロイはまっすぐに言うのだ。
「お前は何をしようが俺は揺るがない」
「一生懸命生きるのは悪いことじゃない」
パク・セロイは、誰に対してもまっすぐだ。トランスジェンダーであるヒョニに対しても偏見を持たない。
「クビにしましょう」とチョ・イソに進言され、セロイはヒョニを呼び出して言う。
「現時点で最大の問題はお前の料理だ。イマイチだ。このままじゃダメなのは分かるだろ」
封筒を渡す。今月の給料だ。
「今までお世話になりました」と言うヒョニに対して、
「2倍入れた。この店が好きなら、その分2倍努力しろ。できるな?」
とパク・セロイは言う。

チョ・イソとチャン・グンスが一緒に働くことに/Netflixオリジナルシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中

チョ・イソが割って入る

パク・セロイはブレない。まっすぐだ。
そのまっすぐさを、他の人にも強いる。
そのまっすぐさに対して、オ・スアは、「頼むからそんなこと言わないで」と弱々しくつぶやくしかない。
パク・セロイの真摯な姿に心をうたれたオ・スアは「本当はね……」と口にする。
「セロイ」「何だ?」
うるんだ目で「あんたは、本当に……。いつもまばゆいほど(輝いている)」
オ・スアが、長家の支配から逃れて、パク・セロイの側にもどっていくラストチャンスがこのシーンだったのだろう。
彼女が目を閉じ、パク・セロイに近づいていく。
パク・セロイも目を閉じる。
ふたりの思いを知っているうえに、権力からの忖度支配の解放を望む我々は、至高のキスシーンを予感するのだが。
ここで、空気を読まないことでおなじみのチョ・イソが割って入る。
今まで流れていた情緒あふれる音楽をぎゅーーーんという無粋な効果音でかき消し、
オ・スアの顔をチョ・イソがわしづかみにしてキスを阻止する。
「ディフェンス」
イソ・ディフェンスである。
腕を伸ばすイソ。顔をつかまれたまま腰が引けるオ・スア。
「刑法第32章。同意のないキスは強制わいせつ罪」
スアの顔むぎゅうーってつかまれて、「ブラック・ジャック」のピノコのアッチョンプリケ状態で、ロマンティックなキスシーンの予定がコミカルなシーンに早変わりだ。
見ている側の予想通りに展開していくかと思えば、ちょっとそれを超えていく。そこが「梨泰院クラス」の面白さの秘密だろう。

パク・セロイのまっすぐさがオ・スアを追い詰める/Netflixオリジナルシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中

■梨泰院クラス全話レビュー
1:「梨泰院クラス」会長は本当に悪でパク・セロイは本当に正義なのか? 全話徹底レビュースタート
2:「梨泰院クラス」2話。忖度で生み出される格差に抗うパク・セロイ
3:「梨泰院クラス」3話。忖度社会に抗うための第3の方法
4:「梨泰院クラス」4話。パク・セロイとオ・スアとチョ・イソの恋のトライアングルバトル勃発
5:「梨泰院クラス」5話。パク・セロイとオ・スアのキスにチョ・イソディフェンス発動
6:「梨泰院クラス」6話。最大の疑問。パク・セロイはなぜオ・スアをタンバムに呼ばなかったのか
7:「梨泰院クラス」7話。パク・セロイ、会長に宣戦布告、土下座して罪を償え
8:「梨泰院クラス」8話。大金を得たセロイは、なぜ会長のようにならないのか
9:「梨泰院クラス」9話。パク・セロイ、オ・スア、チョ・イソの恋と権力のトライアングル
10:「梨泰院クラス」10話。権力か家族か。決断を迫られる会長、迫るセロイ
11:「梨泰院クラス」11話。チョ・イソ告白シーンでわかるパク・セロイが恋愛に鈍感な理由
12:神回「梨泰院クラス」12話。恋愛から逃げるパク・セロイ、「最強の居酒屋」から逃げないマ・ヒョニ
13:「梨泰院クラス」13話。パク・セロイが愛したのはスアでもイソでもない。会長だ
14:「梨泰院クラス」14話。パク・セロイがオ・スアを捨て、チョ・イソを選んだ愛の理由
15:「梨泰院クラス」15話。結局、会長もパク・セロイもマッチョなのだ。次回最終回
16:「梨泰院クラス」最終話。パク・セロイ「夢みていた光景なのに心の底から喜べない」

「梨泰院クラス」
演出:キム・ソンユン
原作脚本:クァンジン
キャスト:パク・ソジュン パク・セロイ役、キム・ダミ チョ・イソ役、ユ・ジェミョン チャン・デヒ役、アン・ボヒョン チャン・グンウォン役、クォン・ナラ オ・スア役、キム・ヘウン カン・ミョンジョン役、イ・デビッド イ・ホジン役、ソン・ヒョンジュ パク・ソンヨル役、ユン・ギョンホ オ・ビョンホン役
オープニング曲:ハ・ヒョヌ「Stone」
エンディング曲:Gaho「Start」

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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