「麒麟がくる」全話レビュー28

【麒麟がくる】第28話。光秀「案ずるな、わしは負けん」出世して自信をもったか

新型コロナウイルスによる放送一時休止から3カ月弱、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が帰ってきました。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる壮大なドラマもいよいよ後半戦、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。28話で新たに登場した摂津晴門(片岡鶴太郎)。半沢直樹っぽいドアップ演出にも注目。

「半沢」以上のドアップで片岡鶴太郎

大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合日曜夜8時〜)28回「新しき幕府」(脚本:池端俊策 演出:大原拓)では義昭(滝藤賢一)が15代将軍になる。

14代将軍・足利義栄(一ノ瀬颯)が病で死んだ。きれいな顔立ちだったのに、ほとんどセリフを発さないまま出番が終了。コロナ禍のせいで出番がなくなっちゃったのだろうか。
こうして義昭(滝藤賢一)が15代将軍になった。

光秀(長谷川博己)もついに出世。公方様の奉公衆になった。着物がこれまでのブルーやグリーン系のさわやかな色合いから濃紺になり、ぐっと落ち着きと貫禄が出た。
藤孝(眞島秀和)も城を任せられて張り切る。

ここで新たに登場するのは摂津晴門(片岡鶴太郎)。この回の終盤、「ひと泡吹かせて見せようぞ」と歌舞伎調な台詞回しで、人気だった日曜劇場「半沢直樹」ぽさを担っているように見えた。しかも「半沢」以上のドアップ。ここ数回、ドアップの画が増えていたが、この回、驚くほどドアップを多用。初期には、鷹の獰猛な瞳をドアップにしていたが、人間までそういう撮影の仕方になってきた。

摂津はもともと幕府の実務を任せられていた人物で、義昭が以前の顔ぶれでやりたいと言ったことから引き続き任務にあたることになった。だが、光秀(長谷川博己)は、義輝(向井理)を救えなかった人物を信頼できず、幕府を一新すべきだと考える。

現代も昔も変わらず、トップが変わると組織の構成は変わる。新たなトップに引き立てられるために、誰もが右往左往する。
義昭のために上洛した信長(染谷将太)は当然ながら将軍の覚えよく、すっかり中心人物になり、三好についていた松永久秀(吉田鋼太郎)の扱いを詮議する。敵か味方かいまひとつわからない松永ではあったが織田は仲間に迎え入れようと考える。

重要人物たちを繋ぐ駒

永禄12年、信長が岐阜に帰った途端、三好一派が義昭の本圀寺を襲う。
京都が戦場になって負傷する人々も出た。あれだけ京都を戦場にしないでと言っていた駒(門脇麦)はさぞおかんむりかと思ったら、光秀を怒ることもなく、義昭と再会したことを喜ぶ。光秀は光秀で「案ずるなわしは負けん」と妙に強気。出世して自信をもったみたいだ。

新将軍・義昭の周辺に野望が渦巻いている。寄らば大樹。誰だって強い者に近づいて生き永らえたいものだ。
出会ったときは徳の高そうな僧侶だった義昭。再会したときは将軍様。そんな義昭に遊びにおいでとまで言われる駒。それを聞いた伊呂波(尾野真千子)からは紹介してほしいと頼まれる。

それにしても駒は「麒麟がくる」の初期から、キーマンに出会う運をもっているように描かれている。
光秀のお父さんにはじまって、近衛家で育った伊呂波、光秀、秀吉(佐々木蔵之介)、家康(風間俊介)、義昭、今井宗久(陣内孝則)と凄い人たちにばかり出会い、親しくなっていく。

貴族や武士たちを庶民の目を通して描く目的と、当時、各国に散っていた重要人物たちを繋ぐ役割をしている部分もあるのだろう。もうひとつ、誰が時代を作っていくか神様的なものが駒の目を使って確かめているような想像が膨らんでくる。「麒麟がくる」的に言えば、麒麟が駒の目を通して、その者の資質を見ているのではないか。
光秀、秀吉、家康と親しい駒が信長とだけは懇意にならないのは、信長の人生が彼らとはどこか違っているからなのでは。

駒とは関係をもっていないが、信長は期待の新鋭という存在感を燦然と放つ。三好の攻撃に手をこまねいていた摂津を激しくなじり(扇子をカーンっと投げつける)、義昭のために新たな城・二条城(現在の二条城とは別の場所で旧二条城。御所の西側)を2ヶ月という短期間で作るという働きの良さを見せつける。

だがここでまた出現する信長のヤバさ。石仏を壊して城の材料にすることにいささか躊躇を覚える光秀に対して、信長はへっちゃら。その理由は、子供のときの母親への想いに起因する。このドラマでは、母との関係が彼の内面に影響を及ぼしていることを徹底して描く。スタニスラフスキーが言うところの貫通行動のように繰り返し描かれる信長と母の物語は、信長の強度を高める。

仏間で仏をひっくり返し、母には罰があたると叱られた思い出。罰など当たらなかったと、笑いながらペチペチペチと仏の頭を叩く信長。それから、朝倉と三好が手を組まないように朝倉を討つと言い出す。

義昭はすっかり信長を頼りにしていて、褒められると嬉しくなる信長はにっこにこ。
その状況をちょっと引いた心理的距離から見ている光秀。足元には胴体から切り離された石仏の頭部が転がっている。
この時代、石仏や墓石を再利用することは珍しいことではなかったが、石仏は墓石ほどには使用されていない。やはり、ヒトガタをしている石仏のことが、墓石よりも気になってしまうものなのだろう。

丸い石仏の暗示するもの

のちに信長が比叡山の延暦寺を焼き討ちし、僧侶の力を政治から切り離していくことは歴史に残っている。信長のこの神をも恐れぬ言動がのちの行動に関わるのではないかと歴史を知る視聴者に想像させるように、思わせぶりな演出が施され、戦でたくさん立った旗のようにフラグが立ちまくる。
いまはじつに信長と関係性が良い義昭だが、彼が過去僧侶であったこともなんだか不吉に思えてくる。

信長が信仰をどう捉えていたかへの興味と同時に、この丸い石仏が義昭のように見えたり、また、信長を演じる染谷の丸顔にも似て見えたり……。今、栄華を誇ってもいつか寝首を掻かれることがあるという世の無常を語るように、二条城建設現場はたそがれ色に染まっていく。

〜登場人物〜
明智光秀(長谷川博己)…越前で牢人の身。

【将軍家】
足利義輝(向井理)…室町幕府13代将軍。三好一派に暗殺される。
足利義昭(滝藤賢一)…義輝の弟。僧になって庶民に施しをしているが、兄の死により政治の世界に担ぎ出される。

細川藤孝(眞島秀和)…室町幕府幕臣。義輝が心配。光秀の娘・たまになつかれる。
三淵藤英(谷原章介)…室町幕府幕臣。藤孝の兄。

【朝廷】
関白・近衛前久(本郷奏多)…帝を頂点とした朝廷のひと。

【大名たち】
三好長慶(山路和弘)…京都を牛耳っていたが病死。
松永久秀(吉田鋼太郎)…大和を支配する戦国大名。
朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)…越前の大名。光秀を越前に迎え入れる。
織田信長(染谷将太)…尾張の大名。次世代のエース。

木下藤吉郎(佐々木蔵之介)…織田に仕えている。

【商人】
今井宗久(陣内孝則)…堺の豪商。

【庶民たち】
伊呂波太夫(尾野真千子)…近衛家で育てられたが、いまは家を出て旅芸人をしている。
駒(門脇麦)…光秀の父に火事から救われ、その後、伊呂波に世話になり、今は東庵の助手。よく効く丸薬を作っている。
東庵(堺正章)…医師。敵味方関係なく、戦国大名から庶民まで誰でも治療する。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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