深田恭子「ルパンの娘」の密かな新機軸と変わらない世界観。捕まり癖のある和馬を救う華という王道パターン

昨年7月に放送した深田恭子主演の『ルパンの娘』の続編がメインキャストも世界観もそのままにスタート。初回では、前作で結ばれた、代々泥棒一家“Lの一族”の娘・三雲華(深田恭子)と、代々警察一家の息子・桜庭和馬(瀬戸康史)のラブラブ生活が描かれるものの、2人の関係にさっそく暗雲が立ちこめます。そこで今回は前作から変わっていない点、変わった点をそれぞれ解説します。この2つをチェックすれば、続編から見ても楽しめます!
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10月15日に「ルパンの娘」(フジテレビ 木曜夜10時)がスタートした。昨年7月に放送されたドラマの新シリーズだ。前シリーズでは三雲華(深田恭子)ら「Lの一族」が全国指名手配されたため、一族が死んだことにして桜庭和馬(瀬戸康史)の家に全員が身を寄せ、さらに華と和馬が結ばれるというエンディングだった。

今シリーズは、前シリーズ最終話から違和感なくストーリーが繋がる形でドラマが再開した。だから当然、メインキャストの変更はほとんどなく、テーマ曲(サカナクション「モス」)もそのままだ。ブランクは1年だけなので、我々の中で前シリーズの記憶はまだ新しい。だから、世界観を安易に変えないでいてくれたことがうれしいのだ。

前シリーズと変わっていない点

ただ、何も変わらなかったわけじゃない。新シリーズを観るにあたり、前回から変わった点と変わらなかった点を一つ一つ検証していきたい。まずは、変わっていない点から。

・幼馴染・円城寺の再登場
前シリーズで特異な存在感を放っていた円城寺輝(大貫勇輔)は、もちろん今回もレギュラーだ。イスタンブールから帰国し、今シリーズのスタートに何とか間に合った。というか、彼はいつもイスタンブールに行ってる気がするな……。

そして、例によって華が噴水付近を通りかかると唐突に現れ、ミュージカル調に華を励ますのだ。画面にはカラオケのデュエットバージョンみたいな歌詞が表示され、当然のように歌い始める華と円城寺。噴水や花や階段があると「あ、円城寺が出る」という予感がする。1年経ってもこうして彼のミュージカルが見られるなんて感激である。

・「牡丹と薔薇」のオマージュ
第1話では珍しく、三雲尊(渡部篤郎)と三雲悦子(小沢真珠)が夫婦喧嘩をした。

悦子 「私と一緒にいるのがストレスだって言うの!?」
「ああ、そうだ! この際、ハッキリ言おう。お前は役立たずのブタだー!」
悦子「ブター!? ひどいわ!」

「役立たずのブタ」とは、2004年放送の昼ドラ「牡丹と薔薇」(フジテレビ系)で小沢真珠が大河内奈々子に言い放ったセリフそのままだが、それをまさか篤郎から聞けるとは……。ブタと言われた悦子は激昂したが、この夫婦のすったもんだはもはやプレイにしか見えない。っていうか小沢真珠、「ルパンの娘」で演技することをすごく楽しんでるでしょ……。

・名作のオマージュ
前シリーズでは「ロミオとジュリエット」「キャッツ・アイ」「ミッション・インポッシブル」を匂わす場面が頻出したが、今シリーズもオマージュ魂は健在だった。

最新の赤外線センサーを避けるため、尊は赤外線を見ることができる多機能コンタクトレンズを用意していた。これを付け、2回連続で右目をまばたきすればスイッチオン、2回連続で左目をまばたきすればスイッチオフだ。

マツ「どこかで見たような……」
 「気のせいだろ」

気のせいじゃない。「ミッション・インポッシブル」には、まばたきの動作でシャッターを切るカメラ機能付きコンタクトレンズが登場したはずだ。初回で飛び出したのは、「ミッション・インポッシブル」へのオマージュだった。大人の琴線に触れる、こういう細かい小ネタの登場を今後も期待したい。

・ヒロインは和馬
前シリーズに続き、今シリーズも和馬が敵に捕まった。初回からまったくもう……。悦子から「捕まり癖のある和馬君」と軽くディスられた和馬だが、その通りだ。刑事のくせして、彼は単独行動をしすぎ。そして、毎回のように殴られたり縛られる始末だ。しかも、そのやられ姿が妙に色っぽかったりする。やっぱり、このドラマのヒロインは和馬だ。

・深田恭子のアクション
和馬を救うためにレッドのスーツに着替えて登場した華は、軽快な身のこなしで相手の攻撃をかわし、バッタバッタと敵を撃退。「あんたの犯した罪、悔い改めな!」と決めゼリフと決めポーズを披露した。捕まり癖のある和馬を華が見事なアクションで救出するのは前シリーズと全く同じパターンである。ここを変えると「ルパンの娘」ではなくなってしまう。ヒロインが主人公に救出されるのは当然だろう。

前シリーズと変わった点

・時事ネタを入れてきている
初回でぶっ込まれた時事ネタは自粛生活とリモートワークだった。尊が仕事(泥棒)から帰宅すると、悦子は怒りを爆発させた。
「もう、うんざりよ! リモートで泥棒に参加なんても~うしたくないわ。一体、いつまで自粛してればいいのよ! 目はチカチカするし、肩は凝るし、筋力だって落ちちゃったのよ? 早く外に出てとびっきりのお宝盗みたいわ!」

世間的に死んだことになっているため、自粛生活を強いられるLの一族。自粛の理由は新型コロナウイルスではないが、我々と同じ苦しみをこの家族も味わっているようだ。

・妊活をしている
華と和馬の新居は三雲家にも繋がる二世帯住宅だ。そして、2人の食事を用意するのも三雲家。ある日の朝食は、牡蠣にうなぎにすっぽん鍋にマグロの頭だった。どう考えても朝から食べるメニューではない。しかし、それも刑事と泥棒の禁断の恋が成就したからである。
「朝から妊活にぴったりなメニューよ!」(悦子)

・二世帯住宅に住む華と和馬
Lの一族と和馬が近い距離にいるため、うっかりすると泥棒の打ち合わせを刑事が目撃しそうになる。すると、この娘婿は気を遣うのだ。

和馬「……あっ、ちょっと部屋に忘れ物が。戻ります」
 「最っ低。泥棒の分際で警察に気を遣わせるなんて」

和馬の場の外し方が板についているし、このような超法規的措置は家の中でよく行われているのだろう。困ったものだ……。

・Lの一族が有名になっている
前シリーズでは知る人ぞ知る伝説の怪盗だったLの一族が、すっかり有名になっていた。何しろ、テレビで「実録 2夜連続 Lの一族の生涯」なるドラマが放送されたのだから。尊を演じるのは山本高広で、華を演じるのは深田恭子と仲がいい吉田沙保里だ。いきなり親友の登場!

レッドのスーツと羽の付いた妖艶なマスクを付けた吉田は襲いかかる敵を最強タックルで次々に倒し、そして投げまくった。まさに、吉田沙保里がアルソックしてる。さらに「あんたの犯した罪、悔い改めな!」と、決めゼリフまで完コピである。この番組を自宅リビングで見ながら「似てるな……」「ちょいちょい寄せてきよる」と茶々を入れる本物のLの一族。よく、こんな設定を思いついたものである。

・子どもが生まれる?
1話のラストで華が妊娠していることが明らかになった。なのに、華は和馬の両親から息子との別れを懇願され、桜庭家を思い自ら身を引いてしまった。
「これから本当に1人で育てるつもりなのか、お腹の中の子を?」(尊)

次回予告を見ると、華の決めゼリフが「たとえこの私が許しても、この子が黙っちゃいないよ!」に変わっている。第2話から、華はマタニティウェアでお腹を押さえながら格闘するようだ。妊婦アクションとは斬新な……。

宣材ポスターを見ると、華は赤ちゃんを抱っこしていた。しかも、このドラマは展開が早い。もしかしたら、3話辺りで華が出産を迎えてもおかしくない気がする。でも、パパが刑事でママが泥棒の家庭なんて子どもが混乱しそうだな……。

せっかく結ばれた華と和馬が、いきなり初回で別れる

色々な障壁を乗り越えて結ばれた2人なのに、初回でいきなり別れてしまった。和馬の父・典和(信太昌之)と美佐子(マルシア)に懇願されたからだ。

美佐子「華さん、あなたに頼みがあるの。和馬と別れてください……」
典和「2人がこの先、たとえずっと一緒にいたとしても、まともにデートだってできないし、正式に結婚することだってできない。ましてや、子どもが生まれでもしたら、その子どもにまで不憫な思いをさせることになる。親としてはこの先、和馬と華さんが不幸になるのをこのまま黙って見過ごすわけにはいかない。だから、華さん……和馬と別れてください」

終始ふざけまくる人々のドラマかと思いきや、そうでもない。癖の強い面々の中で、華と和馬だけは真っ当に幸せを掴もうとしている。だからこそ、またしてもすれ違ってしまうのだ。華を守るために泥棒を辞めさせようとした和馬と、刑事を辞める覚悟をした和馬を踏みとどまらせようと泥棒スーツに身を包んだ華。そもそもの形からして2人はすれ違っている。

前シリーズを好きだった人だけに向けて作られた感は無きにしもあらずだが、大きな変更点がないからこそ逆にスタッフの愛を感じた新シリーズ。前回は「ロミオとジュリエット」路線を進んだが、今回はどうなる? 意外に話の大筋は正統派のドラマだと思う。
あと、名探偵一家の娘・北条美雲(橋本環奈)が新キャストにどう絡んでいくかが次回以降の見どころだ。世界観を崩さずに新風を巻き起こしてほしい。

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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