「麒麟がくる」全話レビュー22

祝復活!【麒麟がくる】第22話。光秀「しかし登るほかはありませぬ」コロナ禍の現代とも重なる室町時代の終焉で

新型コロナウイルスによる放送一時休止から3カ月弱、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が帰ってきました。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる壮大なドラマもいよいよ後半戦、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第22話は、放送一時休止前の桶狭間の戦いから4年後。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

麒麟、復活。
多くのエンタメに大きな影響を与えるコロナ禍。大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK総合日曜夜8時〜)も撮影中断になり、放送は6月7日(日)の21話で一時休止した。それから3カ月弱が過ぎた8月30日(日)、待ちに待った再開!

22話「京よりの使者」(脚本:前川洋一 演出:大原拓)では21話で壮絶に描かれた桶狭間の闘いから4年が経過している。
永禄7年(1564年)、将軍家の力が失われつつあるひとつの終わりの時代は、奇しくも、コロナ禍で迷う現代とも重なって見えるようだった。
「雲がかかった月」のように先行きは見えないけれど、「目の前のことをひとつずつやっていくしかない」と物語の語りかけられたような気がする。

「殿下」感ある本郷奏多、飄々とした滝藤賢一

主に深刻な場面が進む中で、妻の喪に服すため大和の国での鳴り物を禁じている松永久秀(吉田鋼太郎)に直談判に行く旅芸人一座の座長・伊呂波太夫(尾野真千子)に、松永が言い寄る砕けた場面などもあった。

ここでは伊呂波が関白・近衛前久(本郷奏多)の義姉弟の関係で、松永とも親しく、あちこち暗躍している人物であることが重要なのだけれど、それよりも、演劇や映画やドラマがコロナ禍で思うように作ることができない現代がちらついてしまう。

なんだかもう今は何を見てもコロナ禍と重ねてしまい、この病の威力はなんて大きいのでしょうかと天を仰ぐばかり。
でも、いち・人間の力ではいかんともしがたい巨大な時代の動きを実感できた今、室町時代の終焉、戦国武将たちの台頭という巨大な世界の蠢きにますます没入できそうな気がするのである。

関白・近衛、謎のお坊さん覚慶(滝藤賢一)、光秀のふたりの娘・岸(宝部花帆美)とたま。新たな登場人物も出てきて、血が騒ぐ。「殿下」感ある本郷奏多、飄々とした善人に見える滝藤賢一に華がある。

主人公の明智十兵衛光秀(長谷川博己)はといえば、越前で貧しい牢人の身に甘んじて8年経過していた。長らく日陰の存在だったが、いよいよ自分にできることを見つけようと動き出す。

苛立ちを表現する向井理

きっかけは京都の政権争い。いち・戦国大名に過ぎない三好一族が京都を実質的に支配しており、将軍・足利義輝・(向井理)の立場は弱まるばかり。
ないがしろにされていると拗ねる義輝に手を焼きながら、彼の暗殺計画の噂を聞きつけた関白・近衛前久(本郷奏多)は、疑わしい松永に釘を差す。「殿下」と呼ばれセレブぽいにもかかわわらず、苦労が絶えない前久、体調が思わしくないらしい。可哀想に。

光秀は8年浪人だが、義輝は大名たちに相手にされないと愚痴りながらかれこれ10年くらい経過している。
夢で観音菩薩に「越前から助けがくる」とお告げがあったと光秀に頼る義輝。困ったときスピリチュアルに頼るしかないのであった。いや、この時代のひとたちは今よりずっと神様に頼っていたであろう。

ペチペチと扇子をしきりに叩いて苛立ちを表現する向井理。浮かない顔がただの精神の弛緩ではなく、高い志を残しながらの無念の挫折と感じさせられるところが向井理の希少価値である。

「雲がかかった月のように」迷う義輝の「その雲をはろうてさしあげたい」と考えた光秀は、桶狭間の闘いで今川義元(片岡愛之助)を討って勢いづいてる織田信長(染谷将太)の力を借りることにする。

報われない義輝と光秀が期待の信長と手を結ぶ。信長の考えはちょっとわからないが、義輝と光秀は麒麟がくるような平和を目指そうという高い志をもった同士。味方は少ないがふたりは信念をもって行動しようとしている。雪かきのような、誰かがやらねばならないお仕事である。

「大きな山を前にしているような心地がします。
はたしてこの足でその山に登れるのかどうか。
しかし登るほかはありませぬ」

昂ぶる気持ちを抑えながら、久しぶりに会った東庵(堺正章)に光秀が決意を語ると、「山は大きいほうがいい。登りきるとよい眺めじゃ」と背中を押す東庵の年の功が染みた。

京は動乱の時代に

この場面もまたコロナの影響を感じてしまう。
東庵に家の中に入れと言われて、気分が昂ぶっているのでと中に入らず入り口に座り、東庵に背を向けて光秀は心情を語る。コロナ禍のソーシャルディスタンスを意識した撮影のようにも感じるし、舞台の構図のようにも見える。でも、こうして、背後に東庵を感じながら前を見て語ると、光秀が自分の内面に問いかけているようにも感じる。もちろん、東庵という人生の先輩の言葉も影響大なのだが、結局、大事なことを決めるのは自分であって、光秀は自分が長年抱えてきた大きな山に上って自分の力を試す覚悟を、自問自答のすえ決めたのだと思える印象的なシーンになった。

将軍にとって厄介だった三好長慶(山路和弘)が病死して京は動乱の時代に。
山を登るように一歩ずつ確かな足取りで歩く光秀。もう「間に合わない男」にはならず、今度こそ活躍してくれ、光秀!

最後に登場人物をかんたんにまとめておきます。

明智光秀(長谷川博己)…越前で牢人の身。

【将軍家】
足利義輝(向井理)…室町幕府13代将軍。将軍とは名ばかりで、支えてくれる大名がいない。
謎のお坊さん覚慶(滝藤賢一)…じつは義輝の弟。
細川藤孝(眞島秀和)…室町幕府幕臣。義輝が心配。光秀の娘・たまになつかれる。
三淵藤英(谷原章介)…室町幕府幕臣。藤孝の兄。

【朝廷】
関白・近衛前久(本郷奏多)…帝を頂点とした朝廷のひと。

【大名たち】
三好長慶(山路和弘)…京都を牛耳っている戦国大名。
松永久秀(吉田鋼太郎)…大和を支配する戦国大名。三好の命で義輝を狙っている?

【庶民たち】
伊呂波太夫(尾野真千子)…近衛家で育てられたが、いまは家を出て旅芸人をしている。
駒(門脇麦)…光秀の父に火事から救われ、その後、伊呂波に世話になり、今は東庵の助手。光秀を慕っている。
東庵(堺正章)…医師。敵味方関係なく、戦国大名から庶民まで誰でも治療する。

明智は一度、牢人の身になったことで、支配階級(朝廷、将軍、大名)と庶民たちの中間のようになって。より広い視点を獲得したといえるだろう。人生に無駄なことなんてない。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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