「麒麟がくる」全話レビュー20

【麒麟がくる】第20話 後の徳川家康・風間俊介登場。大人っぽくなった駒(門脇麦)に何が?

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第20話は、風間俊介演じる、のちの徳川家康こと松平元康が満を持して登場! そろそろ大きな戦が始まる予感。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

遠く先のことまで考えておかないと……

大河ドラマ「麒麟がくる」第20回「家康への文」(脚本:池端俊策 演出:一色隆司)では大きな戦がはじまろうとしている。
今川義元(片岡愛之助)は織田信長(染谷将太)が治めている尾張を攻略するための先鋒として長らく今川の人質になっている松平元康(風間俊介)を選ぶ。

今川の軍勢は2万5千、織田は3千。このままでは負ける。尾張を守るため、帰蝶(川口春奈)は熱田神宮へと向かった。そこには元康の母・於大の方(松本若葉)がいる。帰蝶の思惑は於大の方の協力を得て、元康を今川から離反させようというものだった。

ついに風間俊介登場。後の徳川家康こと松平元康役である。子供のときは竹千代。少年期は松平元康。やがて徳川家康。わか→いなだ→わら→ぶり、こっぱ→でき→せいご→ふっこ→すずき 成長すると名前が変わる出世魚と戦国武将をいつも重ねてしまうのだが、出世魚の名前の変遷も、武将の幼名から出世した後の名前、出家したあとの名前も諳んじることができるとちょっと鼻が高い。

さて、19回よりさらに2年が経過。光秀(長谷川博己)が越前に落ち延びてからは4年である。駿府にいる駒(門脇麦)ががぜん大人っぽくなった。彼女に何が起こったのか。まあ4年も経過すれば大人になるってもので……。

越前では光秀が相変わらず牢人の身で子供たちに学問を教えている。
「子曰く 人にして遠き慮り無ければ 必ず近き憂いあり」と孔子の言葉を、「人ははるか先のこと はるか遠くにいる人々のことを絶えず気を配るべきである。身近なことを上手に治める人はそれができる者である」と解説する光秀。ちょっとわかりにくい説明と感じるが、遠く先のことまで考えておかないと身近なことでも困るから、視野を広くもとうという意味かと思う。

光秀のあばら家に、駒から薬草やら反物が送られてきている。青い反物は冒頭、町で駒が見ていたものだろう。明智家は貧しい。煕子が着ていた着物を赤ん坊のおくるみにしているのが泣けた。

左馬之助(間宮祥太朗)は昔の光秀のようにあちこちお使いに行かされている。尾張から戻ってきた左馬之助の報告を聞いて、戦が近いと光秀は思う。尾張が危ないと思った光秀は、「そうか! 竹千代!」と何か閃き、疲れて帰ってきた左馬之助をまた尾張に行かせる。左馬之助は、光秀くんみたいにちっ!という顔をしないで素直だが、心の裏では人使いが荒い!と、道三にこき使われていた頃の光秀のように思っているのだろうか。

人を思いやる心

竹千代こと元康は、人質暮らしも長く、すっかり諦めている感じで、「ときどき投げ出したくなる」と駒に向かって哀愁を漂わせる。
戦に出るという彼に、駒は、戦に出ても死なずに帰ってこられると評判の、芳仁(ベンガル)という老人の作った謎の丸薬を元康に差し出す。

芳仁――仁の文字を持つ謎の老人がちょっと気になる。元康と将棋仲間の東庵(堺正章)は義元に呼ばれ、元康について探りを入れられるが、「医は仁術ともうします 人をみるのが仕事でざいます」と答えている。「麒麟がくる」の「麒麟」は、王が仁のある政治を行う時に必ず現れる聖なる獣と言われている。「仁」とは“人を思いやる心”である。元康がもらった丸薬が麒麟の卵に見えた。

永禄3年5月、義元はいよいよ尾張へ。
熱田宮に信長を伴い向かった帰蝶は、於大の方(松本若葉)と水野信元(横田栄司)に、元康に今川から離反するよう説得するよう頼みこむ。尾張は三河に野心をもたず、三河のものは三河に戻すと約束する代わりに、要望を受け入れる水野。於大の方が、手紙を元康に送る。届けるのは菊丸(岡村隆史)。元康も人質生活が長いが、菊丸もずっと三河のために暗躍していた。

帰蝶の作戦はなかなか鮮やか。熱田神宮に行く前に、信長の名前で手紙も送っていたという手はずの良さ。「誰に知恵を?」と聞く信長(染谷将太)、「察しはつくがな」とにやり。そう、光秀が左馬之助を使いにやったのはこのことであろう。なんかこういう裏でこっそりというのはワクワクする。孔子の言葉を実践し、遠くを慮る光秀くんなのであった。

影のフィクサーのような光秀は、ようやく朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)に士官することになって久しぶりにばりっとした格好で城に行くと、義景は蹴鞠に興じていてがっかり。今川と織田が大変なときに……といてもたってもいられなくなった光秀は……。

この頃、明智光秀が何をしていたかその記録は少ないようで、そこを想像して、歴史的大事件と結びつけていくのは作家の醍醐味であろう。織田信長と帰蝶夫妻にこっそり入れ知恵している光秀は微笑ましいなんて表現は、ふさわしくないか。なにしろ戦である。

次回、決戦、桶狭間! 前半のハイライト。心して見たい。

織田の家臣・簗田政綱(内田健司)ができる策士っぽく見えるのは、カリギュラとかリチャード二世とかフォーティンブラスとかちょっと曲者を演じてきた内田だからであろう。この回、朝比奈親徳(山口馬木也)、水野信元(横田栄司)、鵜殿長照(佐藤誓)、中条家忠(野添義弘)と舞台で活躍する名優が集まって、戦を前にした張り詰めた糸を強く引っ張っていた。台詞も明晰で良い。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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