「麒麟がくる」全話レビュー12

【麒麟がくる】第12話 光秀くん「この十兵衛の嫁になりませぬか」の初々しさ

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第12話は、光秀の初々しさから。信秀の名シーンも見どころです!もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

光秀くんとつい軽く呼んでしまう

大河ドラマ「麒麟がくる」第12回「十兵衛の嫁」(演出:佐々木善春)は、薪割り光秀くん(長谷川博己)からはじまる。麒麟が来ない世界に苛立っているのだ。光安(西村まさ彦)にも母・牧(石川さゆり)にも朽木で何はあったか言わないので、こういうとき嫁がいたほうがと考える光安。息子の左馬之助(間宮祥太朗)に光秀を誘って妻木で鷹狩りをするといいんじゃないかと提案する。妻木には嫁候補の煕子(木村文乃)がいるからである。

光秀くん、光秀くんとつい軽く呼んでしまうのは、彼がまだ二十代と若いから。
光秀の生まれ年には諸説あるそうで1516年説と1528年説のふたつが有力らしい。
「麒麟がくる」だと前者説を採っているようで、信長(染谷将太)が帰蝶(川口春奈)と結婚したのが14、5歳のときで。すると光秀は21歳。だからつい光秀くんと呼びたくなってしまう。と、ここで強調したいのは、信長が帰蝶と結婚したときは14、5歳であったということだ。若いのだ。この頃、人間50年なのでいまより断然早熟なのだとは思うが。“14歳の少年”と思うと、信長がものすごくナイーブであることにも納得がいく。
この回の終盤では信長は18歳。光秀24歳というところである。信長と帰蝶が結婚してからいつの間にか3年くらい経過しているのだ。早い。
「動かぬようで……ときは流れておるのじゃな」という帰蝶のセリフがあるが、まさにその通り。

そんな光秀くんだから、鷹狩の途中でひとりはぐれているところに偶然、煕子に出会い「耳を澄ますと空は音がします」と詩的なことを言われ「へえ……」といい気分になったり、石が「あたたかい」とほっこりしたりしながら急激に結婚を意識し「この十兵衛の嫁になりませぬか」と言ってしまう初々しさも納得なのである。

 

帰蝶は敢然と信秀に話を

義輝(向井理)の仲介もあって、今川と織田は和議を結んだが、信秀(高橋克典)の体調はますます悪化。
信長と信勝(木村了)のどっちに家督を与えるかが気になるところ、主軸の末盛城を信勝に与えるというので、ショックな信長。いまは主軸じゃない那古野城ながら「我家の要」と信秀は言うが、聞く耳をもてない。
すべて母・土田御前(檀れい)の差し金だと悔し泣きする信長を置いて、帰蝶は敢然と信秀に話をしに行く。ちょうど、土田御前に望月東庵(堺正章)を呼び寄せられたらと言われ「呼んで差し上げます」と恩を着せ、信秀の遺言的なものを聞き取る。

嫁・帰蝶対舅・信秀 緊迫の場面では信秀の「信長をよろしく頼む」しかセリフは聞き取れない。
が、帰蝶は信長にかなり長めの言葉を伝える。

「信長はわしの若い頃に瓜二つじゃ。まるで己を見ているようじゃと。よいところも悪いところも。それゆえかわいいと。そう伝えよと」
「尾張をまかせる 強くなれと」

信長にとって気分が晴れやかになる言葉、これはどこまで本当なのか、最後の「尾張をまかせる 強くなれと」が帰蝶の嘘なのかなと想像する。「信長はわしの若い頃に瓜二つじゃ。まるで己を見ているようじゃと。よいところも悪いところも。それゆえかわいいと。そう伝えよと」と言っても信長がまだいじけているので、盛ってみたんじゃないかと。舅に「よろしく頼む」と言われたからという大義名分で。

ようやくにんまりする信長。ここからいよいよ信長と帰蝶の偽りで固めた覇権の道がはじまるのかなと思う。まるでマクベスとマクベス夫人みたいだなと思うし、野村監督と沙知代夫婦もこんな感じじゃないかなって気もする。妻が夫を励まし奮い立たせる感じが。こういうのって女の覚悟が必要なのだよなあ。業を背負った信長と帰蝶の道行きが楽しみで楽しみでならない。光秀くんの嫁も帰蝶のように頼れるといいですネ。

 

日本と西洋の文化をつなげる衣裳に注目

華やかな色合い、素材や絵柄のひとつひとつを見る楽しみのある「麒麟がくる」の衣裳を手掛けている黒澤和子の偉大なる父・黒澤明が時代劇をつくるときシェイクスピアを意識していたことは有名である。「マクベス」を意識した「蜘蛛巣城」、「リア王」を意識した「乱」など戦国時代とシェイクスピアの戯曲が描かれた時代が同時代であったことから日本と西洋の文化をつなげて見せた。「麒麟がくる」にもそういう気配が少しする。なので、信長と帰蝶が血に塗れたマクベス夫妻のような気がして勝手にゾクゾクしてしまう。

信長、帰蝶のターンが終わると、今度は斎藤道三(本木雅弘)。こちらも濃密に血と業の匂いがする。土岐頼芸(尾美としのり)から大事な鷹が贈られてきたが、爪に毒が仕掛けられ、あわや道三がその毒牙にかかるところを、近習が犠牲になる。
ものすごい効き目の早い毒であっという間に死んでしまった近習の亡骸を前に、
「見よ(中略)この若者の血を凍らせてしまった」と道三が嘆くセリフがシェイクスピアぽい。

これ、土岐頼芸の息子で、帰蝶の前夫・道三を毒殺した復讐? とも思えるが(ネットでは、伊右衛門対綾鷹 お茶対決と沸いていた。鷹に綾鷹をかけたのはスタッフの遊び心なのだろうか、一体誰が考えたのかものすごーく気になる)。いや、これももしかしたら道三の自作自演かもしれない。帰蝶のあとの道三なので蝮父娘の陰謀かも。くわばらくわばら……なんて思ったりもして。ほのかなミステリー感が「麒麟がくる」の楽しみどころ。

「ただの鷹好きのたわけじゃ」と打倒・頼芸を叫ぶ道三に息子・高政(伊藤英明)は父を倒すと光秀に協力を頼む。
光秀くん、11話で高政にお願いごとして引き換えに「なんでもする」と言ってしまった手前、高政派につかないとならない状況で……。新婚早々なのに厄介な案件に巻き込まれてしまうのであった。

 

記憶に残る名シーン

12回の白眉は、信秀の最期。
双六をやりに東庵がやってきたときにはすでに。
このときの東庵の双六に掛けたセリフがかっこいい。

「一足先にお上がりになったか」

演じた高橋克典はもっと暴れたかったと語っているそうで、たぶん、戦で暴れまわって散るほうが派手で痛快と思うのかもしれないが、こういう渋いのもいいと思う。これは演出の腕の見せ所で、本人はやりどころが難しいのもわかる。でも記憶に残る名シーンをもらったことを喜んだほうがいい。伝説の刑事ドラマ「太陽にほえろ!」の殉職シーン的な美意識を感じる最期だった。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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