「麒麟がくる」全話レビュー11

【麒麟がくる】第11話 向井理と長谷川博己、知性派ふたりの演技が光る、憂いが伝わる

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第11話は、俳優陣の眼の演技が光る名場面満載の回。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

大河ドラマ「麒麟がくる」第11回「将軍の涙」(演出:大原拓)は、第1回からはじめて駒(門脇麦)が出て来ず、全編、武将たちによる戦のお話。それぞれの言い分があってとてもおもしろく見た。

 

このままでは織田家、ピンチ

天正18年(1549年)、11月。織田信長(染谷将太)の城に預けられていた竹千代(岩田琉聖)は、駿河の今川方に捕らえられていた信長の腹違いの兄・信広(佐野泰臣)と人質交換された。

織田信秀(高橋克典)は、帰って来た息子が無傷だったことを喜ぶどころか不甲斐ないと嘆く。このときもはや信秀の身体は戦の傷によって、深刻な状態になっていた。
信広は不甲斐ない。信長は謎。信勝は土田御前のお気に入りながら若過ぎる。このままでは織田家、ピンチ。信秀は苛立つ。

翌、天正19年。今川義元(片岡愛之助)は戦をはじめ、織田家は道三(本木雅弘)に兵を出して欲しいと頼んでくるが、目下、美濃は刈り入れ時なので兵が出せない。戦と農業が同列ということは、戦も農業もこの時代では生活の一部ということなのだろうか。

美濃を守るために帰蝶(川口春奈)を織田家に嫁がせたにもかかわらず、いまの織田には力がなく、道三は弱った織田のために闘う意味があるのか悩む。どのみち、織田を負かしたあとに美濃が狙われるのはわかっている。だから、弱い者同士、手を取り合おうとしたわけだが……「織田がこれほどまでに無力とはのう」と道三。
やがて織田がめざましく勢力を拡大していくことを、視聴者は知っているが、道三は知らない。

 

あけすけにベタベタする信長と帰蝶

信長の守り役・平手政秀(上杉祥三)に援軍を出せと言われ、出せないと断るお使いは、やっぱり光秀くん(長谷川博己)。

信長の城を訪れ「刈り入れ時ゆえ」と光秀が断っているとき、平手はちらと帰蝶を見る。「情けなきことこのうえない」と眉をひそめている帰蝶。人質だから「父上が裏切れば磔(はりつけ)じゃ」とわかっているのだ。磔ですよ、おそろしいですね。

何か打つ手はないか……と光秀が考えていると、呑気に相撲に興じていた信長がやって来る。

 

名場面その1 信長と帰蝶の膝枕

刈谷城の水野(横田栄司)があと三か月はもたせると言ってると語りながら、帰蝶の膝まくら。光秀に見せつけるようにあけすけにベタベタする。
帰蝶の頬をなでる信長の顔がいい。帰蝶もにっこり。大人の関係に、光秀くん、眼のやり場に困る。
「和議じゃな」と信長。こういうときは「強いほうの顔を立てればいい」とあっさり。信長は帰蝶が磔にならないように考えているのだと思う。わざとベタベタしているのは、光秀に帰蝶との仲を見せつけているようにも思う。いろいろ極端な性質ゆえ、光秀のことは気に入っているが、帰蝶と親しそうなところには微妙な気持ちがありそう。

 

名場面その2 土岐頼芸(尾美としのり)と斎藤高政(伊藤英明)と光秀の眼の演技

和議の仲立ちは、かつて、土岐家の揉め事を収めてくれた将軍・義輝(向井理)に頼むことにしようという案が出て、将軍に仕える者と親しくなった光秀が任務を仰せつかる。

帰蝶「ここは思案のしどころぞ」
信長「帰蝶のためにもよくよく思案をいたせ」

光秀くん、信長夫婦に頼られ、高政に尾張の干物を付け届けしたうえ、「今後そなたの申すことはなんでも聞く」と約束し、土岐頼芸に頼みに行かせてもらう。
そんな約束していいんだろうか。「なんでも聞く」は絶対言っちゃだめなやつだと思う。

土岐頼芸はふたりをニコニコ迎えたが、道三に守護の座を奪われそうになっている自分がなぜ助けないといけないのか、とお酒をこぼしながら問う。頼芸の憤怒が伝わってきた。高政は道三を憎んでいるし、頼芸が本当の父じゃないかと思っているので、気持ちが高まっていく。

高政「父、利政(道三)を……父、利政を……」
頼芸「殺せるか」
鷹の鳴き声
ふたりのやばい話を聞いちゃった……という顔の光秀。

尾美としのりの眼、伊藤英明の眼、長谷川博己の眼。3人とも表情は大きく変えず、眼だけでのっぴきならない状況における心の動きを表現する静かな演技合戦。これは見応えあった。

長谷川博己、以前より顔筋がよく動くようになった気がする。あと、なんか急に「おう」と言うリアクションが増えた気がする。

 

光秀の運の良さ

名場面その3 将軍・義輝の哀しみ

頼芸に書いてもらった手紙をもって光秀が旅立つと、細川晴元と三好長政の内紛に巻きこまれた足利義輝は近江に落ち延びていた。

雨のなか、堅田に向かう光秀だったが、将軍が堅田に落ち延び、それを三好勢が追いかけてるからと身動きがとれなくなる。やれやれと思ったら宿に細川藤孝(眞島秀和)が。また光秀の運の良さ、出た!

藤孝は将軍が京都に戻れるように暗躍中。将軍を自分の政治の道具にしている武士が多いと嘆く。

「我々武士は……いま病んでいます」

光秀は藤孝と共に朽木へ。
そこは静かに雪が降っていた。
雪の庭を見ながら、背中を向けて、己の非力に嘆く将軍にこのうえもない寂寥感と終末感。

義輝も父から麒麟が来る話を聞いていた。いまの自分には麒麟が来ないと、
「無念じゃ」と眼を伏せる。

「麒麟がくる道は遠いのう」

 

向井理の伏せた瞳の影に

向井理は正直な俳優だと感じる。いいセリフをもらうとしっかり語る。そして、たいていの俳優が眼ヂカラ、全開でここぞという感情を伝えてくるところを、向井の場合は眼を伏せたほうが伝わってくるものがある。私の勝手な想像でしかないが、この俳優は宇宙の果てしなさ、人間のちっぽけさを知っているように見える。ひとりの人物に内包された巨大な欲望と慎み深さ。それが伏せた瞳の影に出る。栄華を誇った室町幕府がやがて向かう滅びをこの身に引き受ける将軍(最後の将軍は15代目。義輝は13代目)の役にぴったりである。剣豪だったらしいので、向井はかなりナイーブに演じ過ぎているような気もするけれど、武芸に秀でた人が哲学的であってもおかしくはない。
義輝と光秀が各々涙を潤ますその表情に。向井理と長谷川博己、知性派ふたりの、この社会を憂う心の震えが強く伝わって来た。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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