「麒麟がくる」全話レビュー04

【麒麟がくる】第4話 考察「本能寺の変」を引き起こす重要人物3人、月の暗示するものとは?

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第4話は、いよいよ幼少期の徳川家康も登場し、本能寺に関する話が出てくる歴史好きの琴線に触れるエピソードが満載。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!
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早くも幼い徳川家康登場

大河ドラマ「麒麟がくる」第4回「尾張潜入指令」(演出:藤並英樹)は我らが光秀くん(長谷川博己)と三河の農民・菊丸(岡村隆史)が織田信秀(高橋克典)のいる尾張にスパイ活動に向かうスリリングなエピソードが描かれた。早くも幼い徳川家康こと竹千代(岩田琉聖)が登場したり、本能寺に関する話が出てきたりする歴史好きの琴線に触れるエピソードの数々、さらには織田家の追手から逃げるときの光秀くんの胸元のはだけ具合など、これ必要なの? と思うようなサービスまであり、様々な観点からわくわくする回であった。

第2回で光秀の主君・斎藤道三(本木雅弘)が「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の言葉にならって、敵のあらゆる情報を把握していることが語られた。道三は、1548年(天文17年)春、三河の小豆坂で今川軍と織田軍が戦い、痛み分けとはいえ信秀が負傷したことを知っていて、その病状を望月東庵(堺正章)に調べに行かせる。道三は東庵が信秀と関わりある医者であることを知っていたのだ。敵の情報をなんでも知っている道三。どれだけ人知れず諜報部員を雇っているのだろうか。

東庵が信秀と双六仲間で、負けて多額の借金があること、今川との戦いで負った傷を診てほしいと頼まれたことを調べあげた道三は、双六の借金を肩代わりすることで逆スパイを依頼。東庵もなかなかしたたかで、最初は医師の矜持として、病状を他者に伝えることはできないと断るが、首をはねるとか借金を肩代わりするとか訊くと、変わり身が早いこと早いこと。十五夜の意味・望月という苗字のうえ、月の柄の羽織を着用しているだけはある。月は日ごとに満ち欠けして姿を変えるから不実であると「ロミオとジュリエット」でも言っている。

 

「本能寺の変」に近づいていく重要人物

「麒麟がくる」のコンセプトはとても明瞭だ。「本能寺の変」はなぜ起こったか、時間をさかのぼってその因果を探るミステリーとして楽しむことができる。ただあくまでも、あらかじめわかった未来があったうえで過去を描く倒叙スタイルではなく、まだ起こらない未来に向かって人々が日々真剣に生きている物語を書いている。誰がいつ、どこで、何のためにどんな行為をしているかがつぶさに描かれ、それが蜘蛛の糸が編まれるように形を成していき、「本能寺の変」という核に近づいていくという趣向だろう。

第4回で未来を作るうえで重要人物として描かれたのは、3ないし4人。
まずひとりは東庵
第1回で光秀が彼を、京都で評判が良い医者と聞いて美濃に連れてきたわけだが、そのとき、東庵の住居は「六角堂」のそばと語られていた。
「六角堂」はいけばな発祥の地と言われる場所で、現代の本能寺(地下鉄京都市役所駅のそば)と、物語の時代の本能寺(油小路通りと蛸薬師通りがまじわるあたり)のちょうど中間くらいに位置している。本能寺は織田と関わりのある寺だから、いま思えば、第1回ですでに織田と東庵の関係を示唆していたともいえなくはない。

東庵の羽織は月とうさぎ。月とうさぎといえば上杉謙信だけど、それはたぶん関係なさそう。前述のごとく、月は満ちて欠けるもの。博打好きの東庵らしい柄といえるだろう。だから東庵が第4回では鮮やかに信秀の病状(かなり悪いらしい)を光秀たちに暗号のような言葉で伝えたものの、今後、織田につくか美濃につくか、まだまだ予断は許さない。

ふたりめは、徳川家康・竹千代(岩田琉聖は「僕らは奇跡でできている(カンテレ)」の高橋一生の幼少期を演じていた、瞳がくりくりしたとっても愛らしい少年)。
信秀のところに行った東庵から情報を得るため、光秀は菊丸と兄弟に扮して尾張に潜入。そこでのちの徳川家康・竹千代に出会う。母と離れて尾張の人質になって三年も経ち、寂しさゆえに脱出しようとするも、光秀に押し止められる。あくまで物語だけれど、ここで光秀が止めなかったら、竹千代は見つかってひどい目にあったかもしれず、徳川家康が天下を治めることもなく、日本に麒麟(平和)は来なかったかもしれない。竹千代に干し柿を与え「口に含んでいると気が紛れる」と言う光秀の優しそうなことと言ったらなかった。

幼少時の家康と、光秀が出会ったことは物語にどんな影響を与えるだろうか。
まったくの余談だが、わたし木俣の祖先は、徳川家に仕えたのち、明智家につかえ、ふたたび徳川に仕えた。徳川と明智と両方に関わって何を見聞きしていたのだろうと気になる。「麒麟がくる」に出ないかなあと密かに期待しているのだが……。

 

月の示すものとは?

さて、3人めは菊丸
謎の農民設定からして、すでに本能寺の変後の光秀を落ち武者狩りで討った名もなき農民説を唱える視聴者も少なくはない。それが一番しっくり来るけれど、第4回で、「同じ三河の者、あの御方のお気持ちはようわかります」と竹千代への共感を語ったこと、尾張を脱する際、織田の追手に狙われたところを何者かが石つぶてで助けるなど、なにやら菊丸の周辺があやしく、家康の部下、服部半蔵説も囁かれる。
確かに、薬草を売り歩くことであちこちの土地を出入りしていたりするし、喋り方が妙に落ち着いていて、理知的な雰囲気もあり、ただの農民ではないような気もしないではない。菊丸の着物の柄は「大根」。大根役者のふりをしているってことだろうか。

徳川家も菊丸も、三河の者たちは今川の駿河と織田の尾張の戦いに巻き込まれ苦しんでいる。竹千代の父は今川の家来になり、竹千代と母は離れ離れ。
光秀の領地も国境沿いにあるため、荒らされ続けていると第1回で語られている。
光秀と竹千代と菊丸が出会う場面は、国盗りの争いに翻弄される者たちが一堂に会し共感を抱きあう重要な場面だった。
竹千代に「今は辛くとも日が変わり月が変われば人の心も変わります」と言う光秀。
ここにも「月(ツキ)」が出てきた。

これで3人。今回、気になるキャラが3ないし4人と書いたのは、駒(門脇麦)もちょっと怪しい気がしてきたから。
助手として付き従っている東庵の美濃での役割が済んだにもかかわらず、京に帰らないと言う駒。その理由は光秀に情が湧いたらしく……。最初から光秀になついてはいたが、妙にわかりやすく女子っぽい態度をとりだす駒に光秀は戸惑う。
東庵にずっとついている人物がそんなに単純なわけなくないだろうか。その会話しているとき、またあやしいトラツグミ(第3回の深芳野の場面で鳴いてた鳥)が鳴いていたし。なんといっても、その場面の直後、本能寺の話題になるところが気にかかる。道三に坊主が「近頃、本能寺が、種子島にある末寺を通じてひそかに鉄砲をつくっていて、将軍家や幕府の主だった方が注目し、足利義輝は弓矢にかわる戦道具になると言っている」と報告する。

本能寺は東庵の住む六角堂のそば。織田家と本能寺と東庵がつながってくる。生き残るために最も力のある者を感じ取って頼るのは人間の本能だ。京都の人が本音を言わないのは、応仁の乱をはじめとして戦ばかりあったため、その場その場で考えを変えないと生き延びることができなかったからとまことしやかに語られている。
本音を隠して相手をだしぬきながら生き抜いていく人たちの緊張感あるやりとりが楽しい「麒麟がくる」。彼らの本音が見えるときは来るだろうか。

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大河ドラマ「麒麟がくる」
NHK 総合 日曜よる8時
再放送:総合 土曜午後1時5分

脚本:池端俊策ほか
音楽:ジョン・グラム
語り:市川海老蔵
出演: 長谷川博己ほか
https://www.nhk.or.jp/kirin/

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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