「麒麟がくる」全話レビュー02

【麒麟がくる】第2話 モックンがお茶で毒殺の衝撃回。沢尻エリカだったら……の想像不可避

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第2話で話題になったのはモックンこと本木雅弘さん。あのモックンがお茶で毒殺?! 見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!
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本木雅弘に注目

なにかと注目されている大河ドラマ「麒麟がくる」。第二回「道三の罠」は天文16年(1547年)に起った加納口の戦い(井ノ口の戦い)がじっくり描かれた。織田信秀(高橋克典)率いる2万もの軍勢に対して美濃はわずか4千ほど。「戦は数でない。そのことを思い知らせてやる」と言う斎藤道三(本木雅弘)。籠城や落とし穴や俵に火をつけて転がすなど、老若男女、民衆総出の戦が繰り広げられる。太鼓の律動に合わせた激しい合戦はエモーショナルだった。

第二回の注目キャラは、モックンこと本木雅弘が演じる斎藤道三。主人公・明智十兵衛光秀(長谷川博己)の主君。お金にがめつく食えない男という雰囲気で登場した道三だが、ほんとうに食えない。油断のならないおそろしい人物だった。

織田勢に作戦勝ちしたクライマックス、戦は情報を制した者が勝ちと考えている道三は織田信秀の情報を逐一探っていて、娘・帰蝶(川口春奈)の夫・土岐頼純(矢野聖人)の裏切りを突き止めていた。そして歌いながらしれっと毒殺してしまう。お茶のCMに出ているモックンがお茶で毒殺と話題になった。ニヤニヤと悪ぶれない頼純、あくまでクールに圧をかけてくる道三。黒い血に塗り込められたようなこってりしたシーンだった。

でも、これ、モックンだけでなく、娘の帰蝶のこともよく見ているとなかなか面白いんである。夫が戦わなかったことを責め、「我が夫をお許しください」と言ったあとに道三に「もう良い、そなたはさがっておれ」言われたあとの表情。これはこの後の惨劇を予期した顔にしか思えない。父親の怖さをよくわかっているのだ、たぶん。

これが沢尻エリカだったら

帰蝶役が決まって撮影がはじまっていたにもかかわらず合成麻薬所持の罪で降板した沢尻エリカのことをまったく思い出さなかったと一回のレビューで書いたけれど、第二回では、これが沢尻エリカだったらどうだったろうと想像してしまう箇所がいくつかあった。この殺害の場面でも沢尻だったら共謀して夫を殺そうと考えているような魔女的な雰囲気になったかもしれない。

前半、十兵衛と久々に会って、母のために医者を連れてきてくれたことへの感謝と「武運を祈る」と言葉をかける場面。沢尻エリカだったらもうちょっと高慢で十兵衛は頭が上がらない感じが出たのかもしれない。川口春奈は凛として美しいが、毒がない。マムシの娘だからやっぱり毒が欲しい気がする。川口春奈と駒を演じる門脇麦がどちらも十兵衛になついている小動物的な、朝ドラ「まんぷく」の成功パターン、萬平さんに福子がぞっこんでくっついている雰囲気と同じに見えてしまう。駒が雑種の小型犬、帰蝶が血統書つきの小型犬って感じ。それはそれでいいのだが、おそらく沢尻エリカと長谷川博己にはまた違ったムードを求めてのキャスティングだったのではないかなと想像する。

第一回が無事放送されて安心したからか、逆に沢尻エリカの痕跡を探してしまう。例えば、十兵衛が小見の方の館を訪ね、戸が開いたところまで、沢尻エリカで撮影して、出てくるところから川口バージョンに差し替えたのかなとかまで考えて見てしまった。撮り直しのご苦労は大変なのはわかりながら、ちょっと楽しんでしまっている。

戦も時の運、人気も時の運

この原稿を書いている日の翌日1月31日は、沢尻エリカの初公判。「麒麟がくる」の一、二回の注目度の高さはよくも悪くも沢尻エリカの存在が大きい。初公判の内容を経て、三回にもその神通力が効くか。

それにしてもスキャンダルで視聴率が上がるかといえば必ずしもそうではないことが立証されてしまったのが、不倫が取り沙汰されている俳優たちの出演ドラマだ。女優のほうはドラマから消えたり、ドラマ自体がなくなったり、男の俳優のほうは主演ドラマの視聴率アップとはならなかった。戦も時の運、人気も時の運。「麒麟がくる」はいまのところ運をもっていそうだ。エイエイオー。

帰蝶の話を中心に書いてしまったが、最後に我らが主人公・明智光秀について。二回は道三回だったので、若き十兵衛光秀は道三に振り回される役割。堺と京に旅した費用を返せと言われて呆然。「侍大将ふたりの首」をとればチャラにすると言われ「侍大将」「侍大将」と全部で10回くらい言いながら戦場を駆け巡っていた。「雑魚に用はないわ」とまで。それも一重に借金返済したくないから。その結果、侍大将が叔父(西村まさ彦)に似て見えて怯むという、敵も同じ人間なのだという示唆的なシーンも。裏切り者役もよく演じている西村まさ彦だけにほんとうに叔父さんが裏切ったのかと焦った。そのあと、頼純の裏切りが発覚するという巧い流れ。

「(敵の首をとること)これが武士の本懐かと 武士の誉かと」悩む若き光秀くんは、ひとつのことに夢中になると他が見えなくなる人のようだ。その性分が、やがて本能寺の変にも関係あるんじゃないかと思うのだが、どうだろうか。

大河ドラマ「麒麟がくる」
NHK 総合 日曜よる8時
再放送:総合 土曜午後1時5分

脚本:池端俊策ほか
音楽:ジョン・グラム
語り:市川海老蔵
出演: 長谷川博己ほか
https://www.nhk.or.jp/kirin/

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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