病院だらけの2020年冬ドラマ考察02

医療ミス隠す「アライブ」の不可解は「偽装不倫」の違和感と似ている【病院だらけの2020年冬ドラマ考察02】

人気ライターが放送されたばかりのドラマを徹底解説。ドラマが支持される理由や人気の裏側を考察し、紹介します。今シーズンは医療ドラマの当たり年! 各局さまざまな医療ドラマを放送しています。第2回目に取り上げるのは、2人の女性医師の物語「アライブ がん専門医のカルテ」。なぜ医療ミスを隠すのか、もどかしい流れに新たな人物が加わり、物語に変化が訪れます。

●病院だらけの2020年冬ドラマ考察02

ごめんなさいって言えばいいじゃん!

木曜劇場「アライブ がん専門医のカルテ」(フジテレビ系)は、がん治療のスペシャリストである腫瘍内科医・恩田心(松下奈緒)と、心に協力する消化器外科医・梶山薫(木村佳乃)、二人の女性の物語だ。

心と薫の精神的繋がりを描こうとしているためか、恋愛ドラマを見るときのような感覚を覚えることがある。薫は、転倒事故に遭った心の夫・(中村俊介)の手術に自分が参加していたことを心に隠している。手術中に薫がミスをしてしまい、それが理由で匠を死なせてしまった可能性があるからだ。

「ねえ、私にできることがあったら、何でも言ってね」
「ありがとう。薫先生は、いつもそう言ってくれるね」

「ごめんなさいって言えばいいじゃん!」。心が薫に信頼を寄せるほどにそう思ってしまうが、言えないからこそドラマが続いていく。

恋愛ドラマで互いに気持ちを隠していることでトラブルが起こるのを見て、「好きって言えばいいのに!」ともどかしく感じることがある。例えば「偽装不倫」(日本テレビ系・2019年)は、自分は既婚者だと嘘を吐いたために本当の気持ちを言えない主人公(杏)と、病気を隠しているために恋心を打ち明けられない男性(宮沢氷魚)のドラマだった。「本当のことを言えばいいじゃん!」と何度思ったことか。

 

なぜ謝らない? 医療ミスを隠す薫の不可解な行動

恋愛ドラマでも「アライブ」でも、「言えばいいじゃん!」と感じてしまうのは「言えない理由」に頷けないからだ。

先に挙げた「偽装不倫」。主人公の女性が独身なのに既婚者だと嘘を吐き、それを撤回できないから様々なトラブルやすれ違いが起こる。「ごめんなさい、嘘でした」と言えない理由には、根本に、独身の自分は恥ずかしいという思い込みがあった。他人に言えないほど「独身は恥」と思う感覚に共感するのは難しかった。最終回までずっと「いや、言えばいいじゃん!」と思っていた。

「アライブ」の薫が医療ミスについて心に話せないことも、まだ腑に落ちない。医療ミス隠しには、例えば「病院が訴えられないために隠す」「自分の経歴に傷をつけたくないから隠す」という動機が考えられる。でも、上司の須藤(田辺誠一)とのやり取りなどを見ると、薫は自分の病院や経歴のためではなく思い込みやもっと個人的な感情をもとに動いているようだ。

匠の手術のあと、薫はわざわざ心の働く病院に異動してくる。そして、心を患者会に参加するように仕向けたり、自分を信頼させるために世話を焼いたりする。それは、ミスを隠すためなのか、それとも心に何か特別な思いがあるのか読み取り切れない。

 

もどかしさのカンフル剤、医療ミスを追うジャーナリストの登場

しかし、1月30日(木)放送の第4話で、「言えばいいじゃん!」なもどかしい流れが変わった。三浦翔平が演じるジャーナリスト・関河隆一が登場したからだ。

「ごめんね。話する気分じゃないの」
関河「話せば楽になることもありますよ」
「楽になるつもりはないから」

最初はジャーナリストであることを隠して薫に近づいていた関河。ナンパを装いながら、薫の「楽になるつもりはない」という言葉を引き出す。心に対して正直に謝るつもりはないということだ。

関河は早い段階で薫に身分を明かす。彼は、匠の手術にミスがあったのではないかと疑い、取材をしていた

関河「恩田さんの死は、あなたのミスが原因ですか。なぜ彼の妻に近づいたのか。最初は見張るためだと思っていました。けど、そうじゃない。彼女に近づいたのは、あなたなりの贖罪。違いますか」

自分が何者か隠して心に接する薫と対照的な行動だ。関河は、3話までのもどかしい展開を、4話で全部薫に切り返した。物語を回す役割の人物が登場でもある。関河は続ける。

関河「もし責任を感じているのであれば本当のことを話してください。何も知らない遺族のために。けど、それで悲しみが癒えるわけじゃない。でも、このままでいいわけないでしょう。遺族のためにも、あなた自身のためにも」
「何か証拠でもあるの?」
関河「ありませんよ。不自然なくらいにね。だからこうしてあなたに近づいているんです」

関河は、何も話さない薫の思いを引き出す通訳の役割を担うことになりそうだ。

「アライブ」は薫と心のバディものという触れ込みだったが、いまのところはバディ感があまり強くない。関河が薫のミスを暴いていくことで、結果的に絆を深める展開になるのだろうか。関河がなぜ匠の手術に興味を持ったのか、そして「ミスだろう」と思うに至ったのかが明かされず、今後気になるところだ。

対照的に、最初から自分の気持ちを全部言ってしまっている医療・病院ドラマが、火曜放送の「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)。医師(佐藤健)に恋する看護師(上白石萌音)が「好きです!」と毎話のように体当たりするラブコメディ。冷たかった医師から、仕事仲間としても恋の相手としても少しずつ信頼されていく。

正直に話すこと・話さないことが、信頼や絆にどんな風に影響していくか。火曜「恋はつづくよどこまでも」木曜「アライブ」がいい対比だ。

ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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