専業主婦を経て常勤医に復帰。「焦りはあるけど、人生は仕事だけじゃない」
出産後、わずか1カ月半で職場復帰
大学を卒業して外科に入局し、スーパーローテイト(希望する診療科だけでなく、全科を回って研修する国の制度)の2年目の秋に1人目の子どもを出産。産後1カ月半で職場に復帰しました。
いまは産休を3カ月取得できるのですが、当時は特に期間が定められていなくて、教授に「できるだけ早く出てきて」と言われたんです。仕事は忙しくて、カンファレンスなどで夜は20~21時まで職場にいることもありましたし、手術がある時は午前8時までに出勤して準備しなければならない。
子どもはまだ生後1カ月半の赤ん坊だったので、子育ての両立に苦労しました。実家に預けたり24時間保育の保育園に預けたりして、なんとか切り抜けることができました。
夫は同じ病院の循環器内科の医師。スーパーローテイトで働いていた時の指導医で、8歳年上です。長女が3カ月になった時、夫が三重県の病院に出向になったので、私も一緒について行きました。勤務先も夫と同じ病院にしてもらえたのです。
三重県の病院には、仕事が終わるまで子どもを預かってくれる院内保育所がありましたし、夫婦2人とも救急で呼び出された時は、そこに勤めていた保育士さんが自宅で子どもを預かってくれたので、ずいぶん助かりました。ただ、外科には部長と私の2人しか医師がいなかったので、忙しかったですね。
疲れを感じて専業主婦になったものの……
三重県の病院に出向してから2年後、夫が大阪に呼び戻されたので、家族で大阪に戻りました。そのころ、私は2人目の子どもを妊娠していたのですが、なんだか心身ともに疲れきってしまって、いったん休職して専業主婦になったんです。29歳の時でした。
専業主婦になって時間もでき、妊娠、出産、育児と1人目の時と違ってゆっくりできました。ママ友ができたり、幼稚園のイベントに参加したりできて意外と楽しかった。それまでは、料理もささっと作っていたのですが、レパートリーがずいぶん増えました。
でも、休職して2年目、やっぱり復職したいなと思うようになったんです。子育てに専念できることは良かったのですが、医師として一番いろんなことを吸収できる肝心な時期に休んでしまったことは心残りでしたし、同期は大学院に進んだり専門医の資格を取ったりしていて、内心焦りを感じていました。
それに、主人が帰宅して、「疲れた」と言いながらも、楽しげに仕事の話をするので、「私は、このまま専業主婦になるんだろうか。家のことも大事だけど、職場復帰して充実した毎日を過ごしてみたい」と思ったんです。
その時は3人目の子どもを妊娠していたので復帰はせずに出産し、3人目の子育てが一区切りついてから職場復帰しました。結局、仕事を休んでいたのは4年間です。
職位は後輩に抜かれても、生活のバランスを
4年間休職した後、病院に戻ったのですが、最初は術衣の着方さえ忘れていて、「私は本当に大丈夫なのか」と思いました。手術をしても思うように手が動かない。外科にこだわらず、比較的余裕を持って働ける科のほうがいいかなと思って医局長に相談しました。
すると医局長は、「特別就労システム」という制度を利用することを勧めてくれました。2010年から始まった制度で、職位は上がらない替わりに、週30時間働けば常勤扱いになるというものです。「制度を利用して外科に残ればいい」と言っていただき、外科医の道をあきらめないで済んだ。今も、その制度を利用して仕事と育児を両立させています。
専門は当初、消化器外科を希望していたのですが、女性ならではの強みを生かせる乳腺外科を選びました。近年、乳腺外科の手術時間は2~3時間程度、長くても4時間で終わるので、家庭生活と両立しやすいということもありました。乳腺外来の患者さんには、「先生が女性で良かった」と言っていただくこともあり、女性ならではの悩みもよく分かるので、私に向いていると思います。
まだ子どもが幼いので育児も大変ですが、去年、外科専門医の資格を取得したんです。それまでに5回くらい試験に落ちたんですけどね。いまは乳腺認定医の資格申請中で、来年、乳腺専門医の資格取得を目指しています。
専門医の資格は早ければ卒業後5、6年で取ってしまうんですが、私の場合は出産や育児があって取れなかった。夫からは「資格より経験値のほうが大事だ」と言われたのですが、資格によってこれまでの手術件数の実績や積み重ねてきた知識を目に見える形で表すことができるので、なんとか取得したいと思うんです。
正直、職位は後輩に抜かれることもあるし、焦りやモヤモヤした気持ちはありますが、人生って仕事だけじゃないですよね。子どもの送迎や家事もしているので体力的には大変なこともありますが、仕事と育児のバランスが取れているので、いまの生活に満足しています。
外科の医局にも大変感謝していて、後輩の女性外科医にも、出産と育児をしながら仕事を続けられるということを伝えられたらと思っています。