口の中から美人になる! 03

「かかりつけ歯科医」といいお付き合いで、歯の健康と長寿を!

「歯医者さん」とのよいお付き合いは、歯の健康だけでなく、全身の健康を保つためにも有効です。歯周病はほかの病気とも深く関わっていることが近年の研究で分かっていますし、定期的に歯科医院に通うことでほかの疾患の発見につながるケースもあります。丸の内歯科医院・院長の永森司先生に、歯の健康と長生きの関係について伺いました。「telling,」の読者の皆さんが、おばあちゃんになっても元気でいられますように。

自分の虫歯・歯周病リスクに応じて歯科医院を受診し、メンテナンスをしてもらう。つまり「かかりつけ歯科医」を持つということは、人生100年時代を健康で幸せに生きるために不可欠です。都内で高齢者の実態を調べたところ、かかりつけ歯科医がいる人は長寿で、介護認定を受ける率が低いことも分かっています。

歯周病は糖尿病や心疾患の原因か

このほか、かかりつけ歯科医との良好な関係により、高齢者にとっては生活自立度が高い、セルフケアの意識が高い、出かける機会が多いなどのメリットがあると分かっています。歯の健康と体の健康は直結している。当然ですね。よくかんでおいしいものを食べられることにより、丈夫な体になるのですから。元気だと気持ちも前向きになります。心身は、健康な歯によって、健康になるのです。

聖路加国際病院名誉院長だった日野原重明先生は、2017年7月に亡くなられましたけれど、105歳と長寿でしたね。日野原先生は生前、「高齢者に『健康に関して後悔していること』を聞くと、早くから歯の検診を受ければ良かったとおっしゃいます」と話しておられました。「たかが歯」と思ってはいけません。歯周病になると、その菌が全身を巡ってインスリンの活動に障害を起こし、糖尿病の原因になることが分かっています。

海外の研究発表では脳内で動脈瘤破裂を起こした患者の患部から歯周病菌が見つかったとか、心疾患で亡くなった患者の心臓から口内細菌が見つかったとの報告もあります。

口腔内のメンテナンスは健康の定点観測

「telling,」世代は「寿命や介護なんて、まだ考えたこともない」と思っているかもしれません。しかし、数カ月に一度、口腔内をメンテナンスするということは、健康の定点観測になります。口腔内のがんの発見や、舌や歯茎の色の変化から貧血が判明する、口臭から内臓疾患を見つけるなどの可能性もある。歯科医師・衛生士は、顔色が悪い、ろれつが回らない、震えがある、急激に痩せたなどの変化があれば「あれっ」と思います。高齢の患者さんについては、認知症の発見につながるケースもあります。

一般の病院は何か不調があって行くので、医師が患者の健康なときと病気の状態を見比べる機会はあまりないと思います。しかし、歯科衛生士は健康な状態の患者さんと年に数回、コンスタントに会う。だから異変に気づきます。本人が気づかぬ不調を発見してくれるかもしれません。

舌がんの早期発見を目指そうと各地で研修会

最近は、タレントの堀ちえみさんが舌がんを公表して以来、歯科医院に問い合わせが相次いでいるそうです。「何だかベロが痛い」「舌にしこりがある」などと……。口内炎か舌がんかは見た目で分かりますし、触れば分かることです。最近は歯科医師会が中心になって、舌がんの早期発見を目指そうと各地で研修会を開いています。

体が弱ると口内炎を発症する人がいますね。私の患者さんの中で、「疲れると食事をしている時、犬歯でうっかり下唇の内側をかんでしまうことが多い」という人がいます。咀嚼(そしゃく)する行為は日々、何となく行っていますが、無意識ではない。疲れが出ると意識のコントロールが鈍るのかもしれません。興味深い話です。

お子さんがいる方も「歯医者さんで大泣きするから行きにくい」と通院を敬遠しないでください。子どもは、歯が生えたら歯科医院へ連れていってあげてほしいのです。口腔内のメンテナンスを始めるのに、早過ぎることはありません。慣れてください。口の中に器具を入れることが、日常的になればいい。口の中に物を入れられることに恐怖感が全くなくなれば、メンテナンスも、歯磨きも喜んでできるようになります。

「親知らず」が垂直に生えている人の方が少ない

歯を診ると時代の変遷、もっと言えば人類の進化(退化?)が見えてきます。硬いものを食べ、原始人のようにがっちりとしたあごを持つ人は少なくなり、現代人はすっきりとした小顔になりました。すると「親知らず」が4本そろって垂直に生えている人の方が少ない。斜めや横向きになっています。

平成の時代に入り、少しずつ歯科衛生士さんがいてメンテナンスに力を入れる歯科医院が増えてきました。令和の時代はもっと、予防を重視する傾向が強まるでしょう。大泣きしている子どもがいるのは、昭和の「歯医者さん」ならではの風景です。歯は痛くなってから治すのではなく、生えてきた時の健康な状態を長く保つのが現代の常識になっています。

永森司・丸の内歯科医院医院長

●プロフィール 永森司(ながもり・つかさ)
富山市生まれ、日本歯科大歯学部卒、横浜市立大医学部口腔外科学講座、富山医科薬科大医学部(現富山大医学部)歯科口腔外科学講座を経て父が院長を務める丸の内歯科医院(富山市)へ。1995年1月より同医院院長。Oral Physician(オーラルフィジシャン)セミナー1期生、日本顔学会会員、日本フィンランドむし歯予防研究会会員、NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会サポート歯科医院。http://418support.com/

【参考文献】
『歯を守れ! 予防歯科に命を懸けた男/日吉歯科診療所・熊谷崇の挑戦』(竹田晋也著、牧野出版)
『なぜ、「かかりつけ歯科医」のいる人は長寿なのか?』(星旦二著、ワニブックス新書)
『健康の結論』(堀江貴文著、KADOKAWA)
『あの人のお口がにおったのはナゼ?』(NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会、オーラルケア)
『歯みがきをしているのにむし歯になるのはナゼ?』(NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会、オーラルケア)
『NHKためしてガッテン/死なない! 生きかた』(北折一著、東京書籍)
プレジデント/2012年11,12号「金持ち老後、貧乏老後」(プレジデント社)
週刊東洋経済/2018年9月8日号「医学部&医者の大問題」(東洋経済新報社)

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
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