口の中から美人になる! 02

歯周病の妊婦さんは、早産・低体重児のリスクが高まるってホント?

歯周病は高齢者だけに起こる口腔内の病気だと思っていませんか? 日本人は30代ですでに80%に歯周病の症状が現れています。「歯磨きだけで十分」と思っていたら大間違い。口腔ケアを重視した予防歯科の視点を子どものころから持つ必要があります。今からでも遅くありません。歯周病の恐ろしさについて学び、「telling,」世代の今から、お口のケアを始めてください。歯の健康について、丸の内歯科医院・院長の永森司先生に聞きました。

 

日本人は20~30代の約8割が歯周病!?

歯周病になっているかどうかを年代別に見ると、30代から60代にかけての有病率が高く、30代の約8割で歯周組織に歯周病の症状が現れています。年代が上がるにつれて症状が進行した人の割合が増え、歯を喪失していく70代ごろまで、その傾向は続きます。

しかし歯周病は、初期の段階では自覚症状があまりなく、自分でチェックするのも難しいため、自分が歯周病であると気づかない人も多くいます。歯周ポケットは、健康的な歯であれば約1、2ミリですが、歯周病にかかると深くなります。例えば、歯周炎があれば3~5ミリ、重度の歯周炎なら6ミリ以上で、抜歯のリスクが高まります。

そもそも歯周病ってどんな病気?

歯周病とは、歯周ポケットの奥に歯周病菌が入っていき、歯の骨を溶かす疾病です。この菌は嫌気性、つまり酸素のない所を好むので、どんどん歯周ポケットの奥に入っていきます。そこで歯周ポケットの深さを見て治療に移るのです。基本的に生活習慣病で、中高年になったら歯周病になってしまう。また、喫煙している人は歯周病が進行するリスクが高いといわれています。

いろんな著名人が、歯の健康管理は全身の健康につながると言っています。作家の村上春樹さん、「ホリエモン」こと堀江貴文さん、サッカー元日本代表の中田英寿さんなど、著書やテレビ、WEBなどで発信しています。なかでも堀江さんは、予防医療普及学会との共著『むだ死にしない技術』(マガジンハウス)の中で、歯について多くのページを割いています。20代に歯磨きすらしない時期もあったそうですが、歯根嚢胞になって歯科医師に叱られ、予防に目覚めたとか。主張は分かりやすく、指摘は的を射ています。

また堀江さんは『健康の結論』(KADOKAWA)という著書で「他人の口臭を匿名で知らせるサービスがあったらいい」という面白いアイデアを挙げ、ビジネスの現場で口臭はNGであると言い切っている。辛辣ですが、それが現実です。

歯周病は糖尿病、心疾患、早産のリスクを高める

「telling,」世代にとって怖いのは、妊娠に及ぼす影響です。もともと妊娠中は口腔内環境が変化することで歯や歯茎のトラブルが起こりやすくなります。唾液の量が減ったり、つわりがひどいと歯磨きがおろそかになったりして、虫歯や歯周病になるリスクも高まります。妊婦さんにとって歯周病が恐ろしいのは、そうでない妊婦さんに比べて早産・低体重児出産のリスクが高まることです。

歯周病といえば中高年の生活習慣病だと思いがちですが、20代後半ですでに7割、30代で8割に症状が出ています。歯周病の予防・治療は必須だといえるでしょう。

歯科医院を受診しての定期的な検診に加え、歯科衛生士によるメンテナンスが大切なのはなぜでしょうか。「私は食事の後、歯磨きをしているから大丈夫」と思ってはいけません。なぜなら、虫歯・歯周病の元凶である「バイオフィルム」は歯磨きだけでは完全に除けないからです。

バイオフィルムとは、流しの排水口や河川の石を裏返すとぬめりがあるでしょう。あれと同じ。歯の表面がぬるっとしていると、そこが菌の温床になります。バイオフィルム内に生息する細菌が糖を代謝することにより、歯の組織が溶け、虫歯になるのです。

歯科衛生士によるメンテナンスでは、プロの技と機械による洗浄でバイオフィルムを破壊します。まず専用の器具で歯周ポケットの深さを調べ、歯石を除き、デンタルフロスで歯と歯の間を掃除し、歯の表面をポリッシングしてフッ素を付けます。かかる時間は20分から40分。人によって違います。

唾液が少なく「口が渇く」は危険信号

歯周病が恐ろしいのは、慢性疾患であり、痛みがなく進行するサイレントディジーズ(静かなる病気)と呼ばれていること。気がつけば歯はぐらぐら。抜くしかない状態になってしまっているのです。

それから、唾液は口内環境の浄化に重要な役割を果たしています。高齢になると少なくなるし、薬を飲む量が増えても少なくなる。「ドライマウス」は、緊張やストレスによって唾液が減る症状です。女性ホルモンの低下や飲酒、ストレスなどによってもなりやすいので、早めのケアが必要です。膠原病(こうげんびょう)の一種であるシューグレン症候群でも唾液が減る。「口が渇くな」と思ったら、病気などを疑ったり、病気のリスクとなる何かがあると考えたりしてみてください。

口のなかには100億個の菌がすんでいる

顕微鏡で口腔内の細菌を観察すると、「うわっ」と思うはずです。「こんなにいろいろいるのか!」と。ヒトの口の中には約100億個、約700種類の菌がいるといわれます。だから初診の時にはあえて見ていただきます。「うわっ」という衝撃が、メンテナンスや日常のケアのモチベーションになるはずです。また、初診で虫歯・歯周病になるリスクの項目が並んでいると、メンテナンスの必要性を感じるでしょう。気づいたらすぐ、日々のケアを始めてください。

永森司・丸の内歯科医院医院長

●プロフィール 永森司(ながもり・つかさ)
富山市生まれ、日本歯科大歯学部卒、横浜市立大医学部口腔外科学講座、富山医科薬科大医学部(現富山大医学部)歯科口腔外科学講座を経て父が院長を務める丸の内歯科医院(富山市)へ。1995年1月より同医院院長。Oral Physician(オーラルフィジシャン)セミナー1期生、日本顔学会会員、日本フィンランドむし歯予防研究会会員、NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会サポート歯科医院。http://418support.com/

【参考文献】
『歯を守れ! 予防歯科に命を懸けた男/日吉歯科診療所・熊谷崇の挑戦』(竹田晋也著、牧野出版)
『なぜ、「かかりつけ歯科医」のいる人は長寿なのか?』(星旦二著、ワニブックス新書)
『健康の結論』(堀江貴文著、KADOKAWA)
『あの人のお口がにおったのはナゼ?』(NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会、オーラルケア)
『歯みがきをしているのにむし歯になるのはナゼ?』(NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会、オーラルケア)
『NHKためしてガッテン/死なない! 生きかた』(北折一著、東京書籍)
プレジデント/2012年11,12号「金持ち老後、貧乏老後」(プレジデント社)
週刊東洋経済/2018年9月8日号「医学部&医者の大問題」(東洋経済新報社)

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
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