口の中から美人になる! 04

歯のケアはインテリジェンスの象徴。「虫歯にならない暮らし方」のヒント

虫歯・歯周病は生活習慣病です。前回は歯科医院での検診とメンテナンスについてお話ししましたが、365日のうち360日前後は、自分で歯を手入れしなければいけません。日々の歯磨きなどのホームケアが充実してこそ、口腔内の病気は予防・早期発見できるのです。治療終了は予防の始まり。丸の内歯科医院・院長の永森司先生に食習慣と日々の歯の手入れについて聞いてみました。

1日何回、食事をしていますか? 普通は3回ですよね。女性はダイエットに関する情報に敏感です。「朝食を抜くと太る」などの知識はもはや常識ですが、中には「1日6食ダイエット」を実践している人もいるとか。小分けにして食べ、食間が短くなることで血糖値が安定するので体脂肪がたまりにくく、痩せやすい体になっていくそうです。しかし、食事の回数を増やすと、虫歯のリスクが高まってしまうということ、ご存じでしたか?

ダラダラ食べ続けるのはいけません

学校の保健の先生が「虫歯になるから甘いものは食べないように」と言ったのは、今は昔。現代の歯科医師は「お菓子を食べてはダメ」などとは言いません。ただし、「ダラダラ食べ続けるのはいけません」と注意しています。なぜなら口の中が酸性になり、虫歯になりやすくなるからです。

3食の間のティータイムにはケーキと砂糖を入れたコーヒー、暑い夏にはのどが渇くたびにスポーツドリンク、疲れたときには栄養ドリンク……このパターン、最悪です。冬場にのどが痛いからと、甘いのどあめを口に入れるのも要注意です。だから、「食後はデザートまで食べて歯磨きをしましょう」とお伝えしています。

糖分の入った食べ物・飲み物を長い間、口の中に含むということは、虫歯になるリスクを高めてしまいます。飲食物で糖を摂取すると、歯に付いた歯垢(プラーク)の中にいるばい菌(ミュータンス菌)が酸を作り出します。口の中の酸の度合いが高まると、歯のミネラルやカルシウム、リンが溶け出し、虫歯の始まりである脱灰(だっかい)が起きるのです。

通常ならば食後、唾液が酸を中和して洗い流すので、口の中は中性の状態に戻り、虫歯のできにくい環境へ変化します。これを再石灰化といいます。しかし、甘いものを口にする時間が長く、糖分が長く口の中に留まっていると、再石灰化できない状況が続いて虫歯はどんどん進行します。これらが虫歯になるメカニズムです。

のどが渇く時期に水分を摂り続けるなら、糖分が入っていない飲み物、例えばお茶や無糖のコーヒー、水などをどうぞ。ちなみに私は、3度の食事の後、ブラッシングとデンタルフロスを使って歯をキレイにしています。

現代人がかむ回数は弥生人の6分の1以下!

食習慣のことをもう少しお話ししましょう。現代人は昔の人に比べてあごが細くなりました。なぜなら、食べるものが柔らかくなったからです。食材を調理し、食事を楽しむようになってから人間の骨格は変化してきています。狩猟生活から稲作になったことで、食べ物は柔らかくなっていったわけです。

とはいえ1食あたりのかむ回数は、弥生時代が4,000回、鎌倉時代は3,000回、江戸時代で1,500回なのに対し、私たちはたった600回。食事にかける時間も短くなっています。かつての日本の庶民は目刺しやたくあんなど、歯ごたえのあるものを食べていましたよね。食事が欧米化したとたん、食べ物はより軟らかくなっていったのです。

読者の皆さんには、1口あたり30回はかむことを習慣づけてほしいと思います。なぜなら、よくかむことには認知症やがん・糖尿病などの生活習慣病の予防、免疫力アップ、アレルギーの予防、肥満防止、口臭予防などの効果があるからです。

しっかりかんで食べた後は、お口のケアです。毎食後、ブラッシングしてデンタルフロスも使うのが理想です。なかなか面倒だと感じる人のために折衷案を出すとすれば、食事の後には必ずブラッシングし、夕食後の寝る前だけはデンタルフロスを使ってきれいする。これなら毎日、続けられるのではないでしょうか。

就寝する前に入念なケアをしましょう

寝ている間に虫歯はつくられるといわれます。睡眠中は、唾液も少なくなります。つまり、虫歯のリスクとなる悪い菌を唾液によって洗い流せない状態が、長く続くのです。就寝する前に入念なケアを。寝ている間、虫歯菌はやりたい放題なのだということを、お忘れなく。

ちょっと古いですが、1990年公開の映画『プリティ・ウーマン』をご存じですか。俳優ジュリア・ロバーツさんの出世作です。実はこの作品の中に、30年前の米国の予防歯科に対する意識を鮮明に印象づけるシーンがありました。

実業家エドワード(リチャード・ギア)が、コールガールのビビアン(ジュリア・ロバーツ)に高級ホテルまでの運転を頼んだのが2人の出会いでした。シャンパンを飲み、イチゴ食べた後、ビビアンはバスルームでデンタルフロスを使います。ホテルに備え付けられたデンタルフロスは、小さな丸い容器に糸が巻き付けられた形状で、エドワードが「何をしている」と聞くと、ビビアンはサッと隠します。

ドラッグの使用を疑ったエドワードが「出て行け」と言うと、ビビアンは「イチゴの種が歯に挟まったの」と答えます。映画の中での小道具の使い方として、デンタルフロスを出してきたのはとても面白い。しかし、テレビで放送される時にはカットされることが多い場面です。どうでもいいシーンではありません。とても大切です。

デンタルフロスを使うあのヒロインが伝えたかったこと

なぜなら米国では、歯のケアを怠らない人には清潔感はもちろん、「インテリジェンスがある」と思われている。デンタルフロスを使った歯のケアは、「ビビアンが単なるコールガールではない」という伏線になっています。ご存知のように2人は恋に落ち、ビビアンは映画の終盤にコールガールをやめ、学校に通う意志を示します。

大きな口がインパクトを与える彼女のビジュアルを意識して、ビビアンにデンタルフロスを使わせたのかもしれません。映画の序盤で、気鋭の俳優の魅力をアピールする効果があったのではないでしょうか。私はそう思いました。ジュリア・ロバーツさんの美しい歯並びは、50代になった今も健在です。ちゃんと毎日、デンタルフロスを使ってケアしていることでしょう。

永森司・丸の内歯科医院医院長

●プロフィール 永森司(ながもり・つかさ)
富山市生まれ、日本歯科大歯学部卒、横浜市立大医学部口腔外科学講座、富山医科薬科大医学部(現富山大医学部)歯科口腔外科学講座を経て父が院長を務める丸の内歯科医院へ。1995年1月より同医院院長。Oral Physician(オーラルフィジシャン)セミナー1期生、日本顔学会会員、日本フィンランドむし歯予防研究会会員、NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会サポート歯科医院。http://418support.com/

【参考文献】
『歯を守れ! 予防歯科に命を懸けた男/日吉歯科診療所・熊谷崇の挑戦』(竹田晋也著、牧野出版)
『なぜ、「かかりつけ歯科医」のいる人は長寿なのか?』(星旦二著、ワニブックス新書)
『健康の結論』(堀江貴文著、KADOKAWA)
『あの人のお口がにおったのはナゼ?』(NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会、オーラルケア)
『歯みがきをしているのにむし歯になるのはナゼ?』(NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会、オーラルケア)
『NHKためしてガッテン/死なない! 生きかた』(北折一著、東京書籍)
プレジデント/2012年11,12号「金持ち老後、貧乏老後」(プレジデント社)
週刊東洋経済/2018年9月8日号「医学部&医者の大問題」(東洋経済新報社)

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
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