口の中から美人になる! 08

「ガミースマイル」矯正でつかんだ10代少女の夢。歯科矯正とホワイトニングで自信が持てる笑顔に

「歯並びによって人生が変わったという方、おられますか?」と歯科矯正専門医でBOSTON(ボストン)矯正歯科院長の長尾紀代子先生に聞いてみました。そういう声は、女性に多いそうです。咬み合わせや日々のメンテナンスのしやすさのために歯並びの改善を勧める長尾先生ですが、当事者の声を聞くとやはり「見た目」を気にする人は少なくない。美しい歯は一朝一夕では手に入りません。

「やりがいは何ですか?」と問われれば、「矯正を終えると、その患者さんが明るくなるから」と答えます。笑顔が見たいのです。歯科医療の分野で治療を終えた後に笑顔を見ることができるのは矯正だけではないでしょうか。歯科矯正は相当の力仕事なので、手が大きくなったりもしますけれどね。

例えば、ある30代半ばの女性。ひじょうに美しい方です。夏でもマスクをして、治療にいらしていました。矯正治療が終了し、装置を外して、手鏡を渡ししたときの彼女のびっくりしたような、嬉しそうな笑顔を見て、「矯正医になってよかった」と思いました。2年半かけて歯並びをきれいにしました。

そうそう、地方の医院で出会った10代の女の子がその後、テレビで女優デビューしていたのには驚きました。笑うと歯茎が目立つ「ガミースマイル」も含め、抜歯をして矯正しました。ガミースマイルは、信頼する専門医に歯茎の形を整えてもらいました。「モデルになりたい」と言う彼女に、「変な人に、だまされたらだめよ」なんて言っていたら、上京して夢をかなえていた。嬉しかったです。

歯に関心のある男性も、増えてきた気がします

歯並びに対する意識は、女性ならば「きれいになりたい」という思いの一部であることが多いです。一方、男性の歯並びへの関心は年代によって分かれると思います。歯科矯正の目的として、若い人は「モテたい」「仕事で海外の人と話すときに恥ずかしい」という声が多いです。一方、40代以上は経済的な余裕が生まれ、将来の健康が気になり始めたタイミングで……というタイミングが多い。「両親が入れ歯やインプラントになったから」という方も少なくありません。

初対面の方でも、歯並びがお口の健康に影響を及ぼしていると感じたら、お伝えするようにしています。口臭が気になったスーパーの店員さんにそっと「私、歯科医なんです。お口においますよ」と言ったこともあります。自分の医院名までは言いませんでしたが、その店員さんに歯についての関心を持ってほしいから。電車に乗っていたり、街を歩いていたりするとき、私は「歯並びにしか目がいかない」と言っても過言ではありません。職業病なのです。

「歯を白くしたい」という要望に応えるには

さて、矯正ではなく審美歯科の領域ですが、「歯の白さ」についてもお話ししておきたいと思います。

ドラッグストアなどに行くと、いろいろな効能をうたう歯磨き粉などが並んでいます。パッケージに「ホワイトニング効果抜群」「ステイン除去はバッチリ」などと書かれています。

しかし、これらに即効性はないとご理解ください。コーヒーや赤ワインによる染みをとるには、定期的に歯科医院へ通って、歯科衛生士さんにメンテナンスをお願いしたほうがいい。洗浄してもらうことで、黄ばみは取れますし、よごれが付きにくくもなります。被せものについては、保険適応のものは数年で黄ばんできます。セラミックやジルコニアの方が黄ばみにくい。ただし、それらは高額になります。

メンテナンス以上の手段で「歯を白くしたい」という要望に応えるには、ホワイトニング剤を使ったケアがあります。過酸化水素の化学反応で有機物が無色化する効果を生かした方法です。ただし、人工的な物質には効果がないので、被せものの歯は白くなりません。

自宅で行う場合は、マウスピースの中に薬剤を入れて1日3、4時間装着しておく。2週間程度で効果が表れます。歯科医院でのホワイトニングは1、2回で効果が現れます。どちらの方法も1度やれば永遠に白いわけではないので、半年くらい経つと色は元に戻ります。自宅と医院の両方で実施する併用の方法もあります。いずれも歯の表面を削らずに白くするので、歯を傷つけることはありません。ただし、矯正歯科専門医として「これだけはやめてほしい」という方法があります。

「セラミック矯正」は矯正ではありません

矯正した様子もなく、ちょっと見ない間に歯並びがそろって、表面は真っ白……という人がおられます。人前に出る仕事の方で。そうそう、有名な野球選手などにも何人か、います。短時間で、八重歯はなくなり、あっという間に歯が白くなってしまうのは多分、差し歯にしたのでしょう。それも何百万円もかけて。「セラミック矯正」などと言われています。

短期間で歯並びをよくする治療は、矯正歯科の専門医に言わせると「矯正」ではありません。専門用語で「補綴(ほてつ)」という言葉があります。これは、なくなってしまった部分を補うという意味ですが、補うどころか表面を削って、歯の神経を抜いてしまう。乱暴なやり方です。神経を抜いた歯は枯れ木と同じ。弱く、割れやすいので長くはもたないでしょう。また、神経を抜く作業はとても難しく、少しでも細菌が残っていると、後になって歯根の先に膿がたまり、周りの骨を溶かすこともあります。

歯科矯正は、年単位の日数が掛かります。なぜなら全体的なバランスを取りながら、少しずつ歯を動かしていくためです。それを一足飛びにやってしまうと、無理が生じます。

「なぜ歯科矯正は必要か」をご理解いただけたでしょうか。外国の方からよく言われます。「日本は街並みがきれいで、清潔感にあふれている。日本人は美意識が高く、見た目にも気を遣う。なのになぜ、歯並びが悪くても、そのために口腔内が不衛生でも平気なの?」と。「telling,」世代の皆さんには、健康な歯と口腔環境を保ち、キレイな自分の歯で一生を送ってほしいと思います。

(次回へ続く)

長尾紀代子・BOSTON(ボストン)矯正歯科院長

●プロフィール 長尾紀代子(ながお・きよこ)
名古屋市生まれ、日本大歯学部卒、米国のボストン大矯正科卒後コース(大学院)修了。日米の歯科医師国家資格を取得。ボストン大でMS(Master of Science in Dentistry)取得、米国の矯正歯科学会認定医(phaseⅡ)取得。BOSTON(ボストン)矯正歯科(虎ノ門)院長。

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
口の中から美人になる!