歯の健康は求めなければ得られない。年に数回、定期検診を!
歯医者さんに通う理想的な頻度は?
年に何回、「歯医者さん」へ通っていますか?半数以上は1、2回というのが現状で、「痛くなってから」行く方が多いのではないでしょうか。子どものころ、幼稚園や学校の歯科検診で「虫歯がある」と言われ、イヤイヤ訪れ、歯を削るキーンという金属音がトラウマになり、「極力、行きたくない」と思っている人は少なくないはずです。
マイナスイメージ、ぜひ変えていただきたいと思います。歯科医院は、「お口の中が健康な状態である」と確認するところ。虫歯・歯周病がないかチェックし、異常が見つかれば応急処置をして、原因を除いてから治療を始めます。歯科衛生士によるメンテナンスを継続することで、日々の歯磨きでは洗浄できない汚れや歯石を除きます。歯の健康を保つため、年に3~6回、定期的に通院することをお勧めします。
あなたは「自分が虫歯になりやすいかどうか」を知っていますか。もともとの歯の丈夫さに加え、唾液の性質や食習慣が口腔内のトラブル発生に大きく影響しています。うちの医院は初診で、唾液検査から虫歯の原因菌の一つであるう蝕(うしょく)菌の量や酸性度を調べて虫歯になるリスクを探ります。また、食事の回数などを問診するのは、食事の回数が多ければ虫歯になりやすく、口の中が酸性化しやすいからです。リスクが高い人には、メンテナンスの回数を増やすよう勧めます。
女性ホルモンは歯の健康に影響を及ぼす
生活習慣から虫歯になりやすい人は次のような要因が考えられます。
・歯磨きをあまりしない人:食後や就寝前 の歯磨きを怠っている。
・食事のバランスが悪い人:偏食で、柔らかいものばかり食べるのはNG。
・たばこをよく吸う人:ニコチンは歯ぐきの血流を悪化させる。
・ストレスをためがちな人:ストレスは過度の噛み締めや唾液分泌量減少による免疫力低下につながる。
女性ホルモンは歯の健康に影響を及ぼします。ホルモンバランスが崩れやすい時期は入念な手入れが必要です。女性ホルモン生産量が上昇する思春期は歯肉炎になりやすく、月経中はホルモン量の変化で、歯ぐきが腫れたり、口内炎が起こりやすくなったりします。また、妊娠中はつわりを懸念して歯磨きがおろそかになりがち。歯周病が早産や胎児の発育に影響を与えるという研究結果もあるので、注意が必要です。閉経後は唾液の分泌が下がり、歯周病になりやすくなります。
まずは、口腔内の変化を見逃さないことが大切です。うちの歯科衛生士は10枚のレントゲンと、12枚の口腔内の写真を、角度を変えてすべての歯が写るよう規格的に撮影します。レントゲンと写真は2年おきに撮影し、画像を比較して歯と歯茎の変化を観察しています。
日本では高齢者のほとんどが半分以上の歯を失っている
予防歯科に重点を置くようになったのは、歯科医療の先進国であるスウェーデンと米国から学んだ日吉歯科診療所(山形県酒田市)の熊谷崇先生が主宰する、Oral Physician(オーラルフィジシャン)セミナーに参加したからです。歯科医療の先進国であるスウェーデンとアメリカの歯科医療から学んだメソッドです。日本では1989年から『80歳を過ぎても20本以上の歯を残そう』と8020(ハチマルニイマル)運動を行っていますが、高齢者のほとんどが半分以上の歯を失っているのが現状です。
一方、米国人は歯を大切にする生活習慣が、徹底されています。人前に出る仕事をしている芸能人や政治家はもちろん、一般人でも八重歯や乱ぐい歯が目立つ人はほとんどいません。子どものころに矯正治療を受けている人が多く、歯並びがよくなることで磨き残しが減り、結果的として口腔衛生の向上につながっています。米国人にとって「歯」は身だしなみのひとつなのです。
米国においては、デンタルフロスや歯間ブラシは使って当たり前です。デンタルケア商品を扱う日本のメーカーが2014年に行った「オーラルケア意識調査」によると、日本でデンタルフロスや歯間ブラシを使っている割合は全体の2割程度でした。一方、米国では6割以上です。
米国人が歯を大切にする意識が高いのは、身だしなみだけではありません。予防を徹底し、医療費を少なくするためです。日本には、国民皆保険制度があり、1~3割負担で治療を受けることができます。しかし米国では、それぞれが高額の料金を支払って民間の保険に入るか、治療費を全額負担せねばなりません。ですので、まずは「虫歯にならないこと」が重要なのです。
歯は本人が検診・メンテナンスを
予防歯科の大切さが患者さんに伝わらず、空回りしていた苦い思い出があります。昭和のころから患者さんに対して予防の大切さを説いてきました。学校に出向いて歯磨きの指導などもした。しかし、なかなか虫歯はなくならないのです。磨き方が不十分であると指摘すると「あら探しをされた」と思われるのか、歯科医院から足が遠のく。そして患者さんと会うのは虫歯や歯周病になったときだけでした。
つまり日本において、歯の治療は対処療法にすぎません。痛くなった歯を削って、詰め物をして、それによって保険点数もつく。マイナスをゼロにする医療です。しかし、患者さんにとって本当にいいのは、白い歯が金属の詰め物に替わっていくことではないはず。一般の医療であれば人間ドックを受け、早い段階で疾病を見つけるシステムがあります。企業が健康診断を推奨したり、市町村から補助を受けたりできる。しかし、歯に関しては健康診断の必要性が、まだ浸透していません。本人が検診・メンテナンスに出かけなければ健康かどうか分からない。「歯の健康は、求められなければ、得られない」という意識を持ってほしいです。
次回は、20~30代女性の8割近くが感染していると言われる歯周病と妊娠の関係について教えてもらいます。
●プロフィール 永森司(ながもり・つかさ)
富山市生まれ、日本歯科大歯学部卒、横浜市立大医学部口腔外科学講座、富山医科薬科大医学部(現富山大医学部)歯科口腔外科学講座を経て父が院長を務める丸の内歯科医院(富山市)へ。1995年1月より同医院院長。Oral Physician(オーラルフィジシャン)セミナー1期生、日本顔学会会員、日本フィンランドむし歯予防研究会会員、NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会サポート歯科医院。http://418support.com/