フロス、トゥースピック、タングクリーナー…お口のケアの道具を使いこなそう
フロスのタイプを歯によって使い分ける
米国に「Floss or Die(フロス・オア・ダイ)」という言葉があります。直訳すると、「フロスか、死か」。1997年に米国の歯周病学会が発表した、歯周病予防のためのスローガンです。歯の健康は全身の疾病に直結していることを知らしめるメッセージでした。日本でもずいぶん、デンタルフロスが普及してきましたが、まだ「日常の口腔ケアの常識」とまでは思われていないのでは?
日本と欧米を比べると、デンタルケアは欧米が数段先を進んでいます。米国ではフロス、欧州ではトゥースピックが一般的です。デンタルフロスは巻いた糸を切って使う形だけでなく、持ち手が付いたものもあり、いろんな形があります。トゥースピックは「三角ようじ」ともいわれ、汚れを落としたり、歯茎をマッサージしたりできます。キシリトールの原料である白樺の木で作られたものもあり、虫歯予防の効果が期待できます。
電動歯ブラシは超音波で歯垢(しこう)を除去
歯ブラシもいろいろです。「山切り」や「極細毛」などブラシの毛の長さや植え方にこだわったり、毛の細さに特徴があったりとバリエーションに富んでいます。柄の形や弾力、ヘッドの大きさもさまざま。また、雑菌の繁殖を抑える効果をうたう商品もありますね。どれを選ぶか迷ったら、歯科衛生士にアドバイスを求めてみてください。電動歯ブラシは細かい振動が生じます。超音波が出るブラシは、毎秒2万回を超える音波を発生させるため、歯垢を除去する効果が高いでしょう。
よく「何分間、磨けばいいですか」という質問を受けます。でも時間が長ければいいわけではないんです。ちゃんと磨けているかどうか。定期検診の時、歯科衛生士に歯の磨き方をチェックしてもらってください。
「朝起きた直後の歯磨きは必要ですか」と聞かれます。生理的口臭が気になり、さっぱりしたいから磨くという人もいますが、虫歯予防の観点からは「どちらでもいい」と思います。
ちなみに歯磨き粉は、最近のものはほぼ9割にフッ素が入っています。フッ素は虫歯の予防効果が確認されています。一方、液体の歯磨きにはフッ素は入っていません。ですので虫歯予防にはつながらないですね。これらは口臭予防や、エチケットのために使うと考えたほうがいいでしょう。
タングクリーナーで口臭のもとを除く
また、タングクリーナーという舌を掃除する道具があります。これは舌の上にできる白い苔、舌苔(ぜったい)を取ります。舌苔は舌の表面の隙間に細菌や汚れ、食べかすなどが溜まり、口臭のもととなります。力を入れすぎてクリーナーで舌の表面を痛めないよう気をつけてください。
歯とお口のトラブルについてもお話ししましょう。まず歯ぎしり。「歯ぎしり外来」を設けている大学病院などもあるほどなので、悩んでいる人は一定数、おられるようです。治療ではマウスピースを装着しますが、これは歯と歯がこすれ合って摩耗するのを防ぐため。歯ぎしりそのものを止めることはできません。
なぜ歯ぎしりをするのか、くわしい原因はわかっていませんが、遺伝や飲酒、喫煙、カフェイン摂取、ある種の抗うつ薬の服用、ストレスなどとの関与が指摘されています。歯ぎしりが起こることは、体に何らかの負担が掛かっているしるしだと考えてください。
近年、増えていると言われるのは顎関節症(がくかんせつしょう)です。あくびをすると口の中で「カクン」という音がしたり、ものをかむと耳の付け根やこめかみが痛んだりします。20代から30代の女性に多く見られます。軽症ならいつの間にか治ることもありますが、放置しておくと重症化する恐れがあります。めまいや耳鳴り、肩こり、歯や舌の痛みが出たり、口が大きく開かなくなったりします。
口がある程度、開くようでしたらマウスピースを作って負担を軽減することができます。無理に音を鳴らしたり、硬いものをかんだりすると、悪化することがあるので気をつけてください。
「気がつくと歯を食いしばっている」はストレス?
スポーツ歯科という分野が確立され、格闘技をする人やラガーマン、アメリカン・フットボールの選手などは特殊なマウスピースを着用しています。これは、歯を保護したり、脳震盪(のうしんとう)を防止したりするなどの理由が主です。さらには保護だけでなく、瞬間的に歯を食いしばってパワーを出すなど、パフォーマンスを向上するためにマウスピースをつけるようにもなりました。コンタクトスポーツ以外の選手も使っているようです。
ところで、今、この記事を読んでいるあなたの上の歯と下の歯は触れ合っていますか。通常、触れている時間は1日のうち、通算すると15分ほどしかないそうです。唇を閉じていても、接してはいない。これが望ましい状態です。上と下がくっついていると、何らかのストレスが掛かります。歯周病や顎関節症になるリスクも高い。また、首や肩などの筋肉のこわばりを誘発してしまう可能性もある。それは無駄な力が入っていると考えてください。
「気がつくと歯を食いしばっている」「上下の歯が触れ、そこに力がかかっている」という状態は、座ると足を組む、膝の上に手を置く……などと同じく無意識のうちにやってしまっている習慣です。健康には良くないので、改めましょう。他人には分かりませんので、自分で意識することが必要です。
口腔ケアを怠らない人は、清潔な印象
歯は人間の体の中で一番硬く丈夫ですが、虫歯・歯周病になってしまうと、もろいものです。ですので毎日、お手入れをして、定期的に歯科医院に通ってメンテナンスをしましょう。このルーティーンを繰り返していても、加齢によって少しずつ劣化していくことは避けられません。色がくすんだり、摩耗したり、欠けたりします。
しかし口腔ケアを怠らない人は、清潔感のある印象を与えると思いませんか。「食や健康への意識が高い人だ」と周囲の人は思うでしょう。口腔ケアは大切です。内臓と同じで、病気になっているかどうかは、歯科医院で定期的に診てもらいましょう。「telling,」世代の皆さん、ステキなおばあちゃんになるために、今からできる習慣の一つとして口腔ケアを怠らず、健康に歳を重ねていってください。
(次回からはBOSTON(ボストン)矯正歯科院長の長尾紀代子先生に、歯科矯正の大切さについてうかがいます)
●プロフィール 永森司(ながもり・つかさ)
富山市生まれ、日本歯科大歯学部卒、横浜市立大医学部口腔外科学講座、富山医科薬科大医学部(現富山大医学部)歯科口腔外科学講座を経て父が院長を務める丸の内歯科医院へ。1995年1月より同医院院長。Oral Physician(オーラルフィジシャン)セミナー1期生、日本顔学会会員、日本フィンランドむし歯予防研究会会員、NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会サポート歯科医院。http://418support.com/
【参考文献】
『歯を守れ! 予防歯科に命を懸けた男/日吉歯科診療所・熊谷崇の挑戦』(竹田晋也著、牧野出版)
『なぜ、「かかりつけ歯科医」のいる人は長寿なのか?』(星旦二著、ワニブックス新書)
『健康の結論』(堀江貴文著、KADOKAWA)
『あの人のお口がにおったのはナゼ?』(NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会、オーラルケア)
『歯みがきをしているのにむし歯になるのはナゼ?』(NPO法人最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会、オーラルケア)
『NHKためしてガッテン/死なない! 生きかた』(北折一著、東京書籍)
プレジデント/2012年11,12号「金持ち老後、貧乏老後」(プレジデント社)
週刊東洋経済/2018年9月8日号「医学部&医者の大問題」(東洋経済新報社)
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