口の中から美人になる! 06

歯科矯正で「ケアしやすい歯並び」を手に入れて、健康な歯を実現しよう

笑顔がステキな人を思い出してみてください。その方は、美しい歯並びではありませんか? 白い歯がきれいに並んだ口元は、明るい印象を与えます。歯並びが悪い場合は、「ケアしやすい歯並び」にするために、歯科矯正が必要です。その場合、「見えるところをきれいにしたい」と前歯だけを治すのではなく、咬み合わせを考えて全体を整えることが、とても重要です。矯正歯科専門医でBOSTON(ボストン)矯正歯科院長の長尾紀代子先生に、日米の歯科矯正をめぐる認識の違いについて聞いてみました。

「八重歯がチャームポイント」のタレントが減った理由

テレビで見るたび、歯科矯正を勧めたくなる男性タレントさんがいます。その方は笑うと八重歯が見え、その隣の側切歯(そくせっし)が奥に引っ込んでいるのです。この「でこぼこ」は毎日の歯磨きの時、磨き残しの原因になっているはずです。

昭和のころ、「八重歯がチャームポイント」なんて言われた女性タレントさんがいました。彼女らは歳を重ねると、八重歯でなくなっていきました。なぜなら多くが、健康な歯を全部削って、神経の処置をして、被せ物をすることで歯並びをよくしてしまったからです。自分の歯ではないので何年か経てば外れたり、不具合が出たりして、やり直しが必要になります。その度に歯を削らねばならず、将来的には歯を失い、インプラントなどになる可能性が高いでしょう。

考えてみてください。あなたの身の回りに「八重歯のおばあちゃん」っていますか?あまり見当たらないのではないでしょうか。歯並びがよくないと手入れがしにくいので虫歯や歯周病になりやすく、治療を重ねるうちに、最後は歯を抜かなければならなくなっていくのです。

近年は「歯科矯正が重要」という考えが少しずつ、浸透してきています。年齢を重ねても八重歯のあるタレントさんはいますが、多くの方は早い段階で歯列矯正をして治してしまう。「八重歯がかわいい」という価値観は平成以降、薄れてきたのではないでしょうか。

「歯並びが悪い」って、具体的にどういうこと?

さて、ひとくちに「歯並びが悪い」といっても、いろいろなパターンがあります。歯科矯正が必要な人の症状としては、八重歯を含め、歯がそれぞれ別々の方向に向かって生える「乱杭歯(らんぐいば)」がよく見られます。なぜ起きるかというと、あごが小さいから。「3人掛けのソファーに5人のお相撲さんが座るのは困難」ということ。限られたスペースに歯が並ばないため、生え方にばらつきや重なりができてしまうのです。

症状としては、上の前歯が飛び出すか下の前歯が下がっていて上下の歯が垂直にかみ合わない「出っ歯」、上の歯より下の歯が前に出る「反対咬合(はんたいこうごう)」(受け口)、上の歯が下の歯に覆い被さる「過蓋咬合(かがいこうごう)」、かみ合わせの時に間が空く「開咬(かいこう)」などがあります。このほか、歯と歯の間が空く「すきっ歯」も矯正で治ります。

近年はマウスピースで矯正も可能

矯正する方法は、一般的には歯に沿ってワイヤーを渡し、それを歯の表面に取り付けたブラケットという留め具で固定。正しい歯並びになるよう、歯が生えている位置を少しずつずらしながら微調整していきます。

ワイヤーやブラケットを取り付けることで歯の手入れがしにくくなるので、取り外しが可能なマウスピースによって矯正もできます。透明で目立ちにくいマウスピースを1週間から10日の間隔で新しいものに交換していきます。少しずつ綺麗な歯並び・噛み合わせになるようにデザインされていて、現在、いろいろな会社がこぞって開発競争中です。1日20時間の装着が必須なのと、取り外しに慣れるまでが面倒ですが、「目立ちにくい」「痛みが少ない」「歯磨きしやすい」などメリットが多く、患者さんにも好評です。

歯科矯正をしている人の割合は2014年の数字で、米国が約5割、日本は約2割でした。「受け口」がアジア人に多いことを考えれば、歯科矯正のニーズは日本が米国を上回るはずです。しかし、必要性を自覚していない人が多いように感じます。だからテレビや街角で歯並びが悪い人を見かけると思わず、「あなた、歯科矯正をしたほうがいいですよ」と声をかけたくなってしまうのです。

米国では高校卒業までに矯正を終える

欧米では、歯並びが悪い中でも、八重歯はドラキュラや狼男、魔女などと関係づけられ忌み嫌われるようです。美しい歯並びが当たり前なので、当然ながら歯科矯正は日本より普及していて、恥ずかしいことではありません。

驚かれるかもしれませんが、米国では学校やスポーツ活動よりも歯科医院通いが優先されることもあるそうです。「矯正をしに行くから」といって遅刻や早退をするのもOK。男の子も女の子も積極的に矯正し、高校卒業時までにはキレイな歯並びになります。

歯科矯正は一般的ですから、「面倒だけど、その間は楽しんでしまおう」という発想がある。クリスマスのころは赤や緑、バレンタインデーにはピンクなど、あえてカラフルな留め具を付けることもあります。矯正自体を前向きに捉えているのです。

日本では昭和のころ、「矯正をしていると、大きな口を開けて笑うのが恥ずかしい」という意識もあったようですが、近年では歯科矯正のイメージが変わってきました。「矯正をしている人は自分にお金をかけて、自分の健康にも気を使っている」と前向きに捉える人や企業が増えてきたと思います。ですので、就職前や結婚式前に矯正をされる方も多くなってきました。

「日本でも、かなり意識が変わったな」と感じます。それは、歯の残存歯数が多い人ほど認知症になりにくかったり、歯の健康が心臓病や糖尿病のリスクを軽減したりすることなどが知られてきたためでしょう。歯科矯正について、皆さんにもっといろんな知識をお伝えしていきたいと思います。

長尾紀代子・BOSTON(ボストン)矯正歯科院長

●プロフィール 長尾紀代子(ながお・きよこ)
名古屋市生まれ、日本大歯学部卒、米国のボストン大矯正科卒後コース(大学院)修了。日米の歯科医師国家資格を取得。ボストン大でMS(Master of Science in Dentistry)取得、米国の矯正歯科学会認定医(phaseⅡ)取得。BOSTON(ボストン)矯正歯科(虎ノ門)院長。

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北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
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