家族で考える2020年冬ドラマ考察

「テセウスの船」鈴木亮平=野原ひろし説。足が臭くて名言で泣かす【家族で考える2020年冬ドラマ考察01】

話題のドラマのレビューを始めます。人気ライターが放送されたばかりのドラマを徹底解説。ドラマが支持される理由や人気の裏側を考察し、紹介してくれます。「家族で考える冬ドラマ」では、今年の冬ドラマで描かれる「家族」についてフィーチャーして考えていきます。初回は「テセウスの船」について。
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ドラマでの家族の描かれ方には、その時代の家族像が反映される。あるときは仲睦まじい大家族、あるときはそれぞれ秘密を抱える核家族、あるときは血のつながりのない疑似家族……。では、2020年のドラマの「家族」はどうなっているのだろうか。

最初に取り上げたいのは、日曜劇場「テセウスの船」(TBS、日曜夜9時)。父が起こしたとされる無差別大量毒殺事件の真相を突き止めるため、息子がタイムスリップして謎を追うミステリー。謎が謎を呼ぶ展開とプライムタイムの連続ドラマ初主演となる竹内涼真をはじめとするキャスト陣の熱演によって、第1話、第2話と続けて高視聴率を記録した。

 

「家族を失った父親」の物語

「テセウスの船」は「家族を失った父親」の物語だ。

主人公の田村心(竹内涼真)は、生まれる前に父・佐野文吾(鈴木亮平)が起こした事件の加害者家族として世間の厳しい非難を浴びながら息をひそめて暮らしてきた。それでも新たに家族を築こうとするが、妻・由紀(上野樹里)は病死し、生まれたばかりの娘も妻の両親に引き取られることに。家族を失った心は、娘を「犯罪者の孫」にしないために、父親の事件に向き合う決心する。

文吾は妻の和子(榮倉奈々)と子どもたちに囲まれ、良き父親として幸せな生活を送っていたが、無差別大量毒殺事件の犯人として逮捕される。獄中で無罪を主張するも、死刑判決が確定。彼の家族は人目を避けながら、厳しい生活を強いられることになる。文吾も家族を失うことになる。

心は事件が発生する直前の平成元年(1989年)にタイムスリップし、自分が生まれる前のまだ幸せだった家族と出会う。当初は文吾を疑っていた心だが、文吾の誠実さと良き父親ぶりを知って無実を確信。砕け散ってしまった二つの家族――自分が生まれた家族と自分が作った家族――を守るため、父と組んで事件の真相に迫っていく。

 

もろくて壊れやすい「家族」

第1話の冒頭では、現在が令和であることと、心が家族とともに辛い生活を送っていた平成の30年間を強調して伝えていた。

昭和の時代に幸せだった佐野一家は、平成の30年間で徹底的に痛めつけられ、家族の心はバラバラになる。令和の時代になり、心がようやく築いた新しい家族はとてももろくて、あっという間になくなってしまった。昭和、平成、令和と、家族の置かれた状況が象徴されているような気がしてならない。

「俺は実際、そんなもんだろって思うんです。家族なんてその程度のものなんだろう、って。信頼しあっているように見えても……もろいもんだなぁ、って」

心は第2話でこのように呟く。家族とは不変のものでなく、実はとてももろくて壊れやすいもの。これは昨今のドラマでよく取り上げられるテーマだ。「家族の絆」なんてことがよく言われるようになったのは、「絆」がもろく、失われてしまいがちだから。今クールで放送されているミステリー「10の秘密」(カンテレ、火曜夜9時)も同じようなテーマが根底にある。

また、父親が抱える問題も大きい。かつて父親は「一家を支える大黒柱」と言われていたが、いまや見る影もない。避けられない事情があったとはいえ、心は自分の家族を守ることができなかったし、昭和的な父親の面影を残していた文吾も平成に入った途端、事件に巻き込まれるという形で家族を窮地に追い込んでしまう。

力を失った父親が、壊れてしまった家族の笑顔を取り戻すには、すさまじい踏ん張りが必要だ。それこそタイムスリップして過去を変えるぐらいの力技がいる。未来(心の娘の名前でもある)のため、心はどのような奮闘を見せてくれるのだろうか。

 

「佐野文吾=野原ひろし」説(?)

「子どもを守んのが、大人の使命だろ」

これは雪山で少女の命を助けることを優先させるため、文吾が心に語りかけた言葉。自分の命も危ないのに、いきなり微笑みながらこんなことを言う大人がいたら、心じゃなくたって信用せざるを得ない。

このように文吾にはいいセリフが多い。第1話のラストでは心と一緒に温泉につかって「2020年の未来」について話しながら、こんなことも言う。

「何がどうなろうと俺ぁ、未来でも家族とやかましくしてたいねぇ。それさえありゃ、あとはまぁ、オマケみたいなもんだ」
「鈴も慎吾も3人目の子も、とにかく元気でな、楽しく生きてってくれりゃ、そんな幸せなことないよ!」

成功や大金などを望まず、家族とのささやかな幸せと子どもが明るく楽しく生きることだけを望み、どんなときにでも面倒臭がらずに家族と向き合うことができる。アントニオ猪木と金八先生のモノマネが得意で、子どもと一緒に遊ぶのが大好き。文吾はそんな父親だ。彼の言葉を聞いた心は「この人が、佐野文吾が俺の父さんで良かった」と思わず涙を浮かべてしまうほど。

文吾の言葉を聞いて、筆者は「『クレヨンしんちゃん』の野原ひろしそっくりだなぁ」と思っていた。しんのすけの“父ちゃん”であり、「理想の父親」と言われることの多いひろしにも、文吾と同じようなセリフがある。「オレ 今 家族とたのしくワイワイ笑ったり 時にはケンカしたり このままずーっといっしょに元気で暮らすことが夢といえば夢かな」などがその一例。ひろしは平成の30年間、一途に家族の大切さを説き続けてきた稀有な男だ(正確には連載が始まったのは平成2年)。

第2話では文吾の足が臭いことが判明したが、ひろしも強烈に足が臭い。実は「テセウスの船」の原作コミックスに登場する文吾は、面長で眉が太く、ひげが濃くて天然パーマという見た目で、読者から「野原ひろしにしか見えない」という声もあった。というわけで、ここで勝手ながら「文吾=野原ひろし」説を提唱したい。

ちなみに文吾の妻・和子は心に向かって「親ってさ、子どもを守るためなら、どんなことでもするもんだよ」と言うが、ひろしの妻・みさえにも「親っていうのは、子どものためなら何だって出来るのよ!」というセリフがある。佐野一家と野原一家はシンクロ度が高い。濡れ衣をかけられたひろしと家族のピンチを助けるため、大人になったしんのすけがタイムスリップして助けに来る物語……という見方をするのも楽しいかもしれない。

家族が家族でい続けることが当たり前ではなくなった時代に、家族の再生を求めて悪戦苦闘する人たちの姿を描く「テセウスの船」。家族の笑顔を取り戻すには、ひたすら強い意志と行動しかないだろう。今後の展開が楽しみだ。

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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