「麒麟がくる」全話レビュー03

【麒麟がくる】第3話 頼芸(尾美としのり)の袴がリス柄だった理由を考察……帰蝶、怖い

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第3回は、初回から話題にもなった色鮮やかな衣装に着目。頼芸の袴がリス柄だった理由とは? もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!
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「毒」のビジョンが濃厚

大河ドラマ「麒麟がくる」を見ていると、「本能寺の変」は美濃の斎藤道三(本木雅弘)からはじまっている物語なのだと思う。史実はどうかわからない。いろんな説があるだろうが、あくまで「物語」として。衣裳の華麗さと並んでちょっと毒気のある絢爛な覇権争いの物語がこれからどんどんスケールアップしていきそうだ。合戦シーンにも力が入っているドラマだが、人間が他者にそっと注ぎ込む「毒」のビジョンが濃厚に感じ、そこに魅せられる。それは第2回の道三の毒殺の力が大きくて、第3回もその毒はまだじわりじわりと広がっているような印象があった。

第3回「美濃の国」では元々、源氏とゆかりある土岐家が統治していた美濃を斎藤道三が奪ったことが描かれた。第2回では、1547年に起った加納口の戦い(井ノ口の戦い)で、道三の娘・帰蝶(川口春奈)が嫁いだ守護大名・土岐頼純(矢野聖人)が織田と通じていたため毒殺。第3回では道三は頼純の父・頼武と兄弟の頼芸(尾美としのり)に守護大名にならないかと持ちかける。彼を「操り人形」にして実権は道三が握る算段だ。

頼芸はその手には乗るまいと道三の息子・高政(伊藤英明)に自分が実の父のようなことを吹き込む。この場面が、頼芸が高政の耳元に流し込む毒のように見えた。そもそも自分が道三の実子ではないのではないかと疑っていた高政は頼芸の言葉に突き動かされる。
道三は戦が得意ではあったが、民を統治する力がないため、この天下は長く続かないとふんだ高政は、少年時代から共に学んだ光秀(長谷川博己)に協力を求める。

誰にも気を許せない時代

面白いなあと思ったのは、高政が瓢箪から水を飲み、それを光秀にわたす場面。ずいぶん引きで撮っているが、光秀は差し出された瓢箪をがしっと受け取ると、木にくくりつけ、第1回、堺で手に入れた銃の試し撃ちをして見事に破裂させる。友達に協力を求められているのにその瓢箪から水を飲むことはなく撃ってしまう。これって頼純が毒殺されたこととは関係ないのだろうか。一応、用心しているんじゃないか……なんて思ってしまった。この時代、誰にも気を許せないのだと思う。なんて単にこれを試し撃ちに使えと渡しただけかもしれないが。

心が読めないのは帰蝶も。光秀を訪ねて来て、夫・頼純の死について聞いたとき、光秀は道三が殺したのだろうと叔父(西村まさ彦)から聞いたというのと、父と夫の間に入った帰蝶を思いやるのだが(母・牧〈石川さゆり〉も「胸を痛めている」と語っていたと光秀が言う)、そのときの帰蝶の表情がとても微妙なのだ。なにかムッとしたような顔をしている。

単純に光秀のことが好きで、夫が死んで気楽になっているのかなとも思うし、もしくは、やっぱり帰蝶は道三と結託して夫を陥れるその時を探っていたんじゃないかという疑惑も拭えない。そう思うと、やがて彼女が織田信長に嫁ぐことも光秀が信長に仕えることもすべてがこのときから運命づけられているように見えてくる。

昔話に込められた意味

この時代、女性は何かというと家のために嫁に出される。人質扱いの場合も多い。そう思ったとき、第3回で、牧と駒と帰蝶が語り合う、美濃に伝わる(みなしごの女の子を拾って嫁にしたら狐で、飼い犬に吠えられて狐に戻ってしまう)昔話は、女性が変装して嫁に入るも、やがて正体がバレるということのようにも解釈できてしまわないか。その昔話を帰蝶が好きだったり、みなしごの駒が助けてもらった武士(大きな手の人)に聞いて知っていたりすることもどこか意味深に思えてくる。やたら神秘的にキラキラしたSEもついていたし。

高政の母・深芳野(南果歩)は頼芸の元・愛人。手放され道三の妻となったことに対して根深いものがあるようだ。高政と深芳野の場面で鳴いている鳥はおそらくトラツグミ。妖怪・鵺が鳴いていると昔は思われていたあやしい鳥。ここでこの鳥の鳴き声を当ててくるところも女性の想いが強調されているような……。各種衣裳の色味の艶やかさにどこか禍々しく見え、血で血を洗うこの時代のなんとも忌まわしいものを感じてわくわくしてしまう。

こんな妄想を浮かべてしまうのは、光秀くんがまだまだ青く、田起こししながら「あー口にはいった」「跳ね返りがすごいな」などとのんきに言っているものだから。
どうしても別のキャラクターに目がいってしまう。とりわけ、かつて光秀と双六で51回戦51勝ちし、いつだって颯爽としている帰蝶様に。

第3回では、光秀の母に生きたリスをお土産に木に登って捕まえたものの、家来が結んでおかなかったため逃げてしまい激怒。さすがに打首とかにはしなかったが「もう帰っていい」と厳しかった。

頼芸の袴の柄はリスだった

一目散に逃げていったリス、一瞬だったがかわいかった。そのあといま一度リスが出てくる場面がある。頼芸の袴の柄はリスだった! 勇ましい鷹の絵を代々描いている頼芸だが袴はリスというかわいらしい趣味。なぜリスだったのか……と無理くりこじつけてみると、頼芸、このときすでに蝮(道三)一族に囚われてしまっているということなのかななんて考えてみた。そう思うと、リスを捕まえてキャッキャしている帰蝶、こわい。斎藤一族、やばい。

そしてまた戦がはじまる。第4回は今川義元(片岡愛之助)の登場。「海道一の弓取り」と異名を持ち(宣伝ビジュアルでは「東海最強の戦国大名」とある)、公家文化に詳しい戦国大名を片岡愛之助がどう演じるか。彼もまた毒をもたらしてくれそうだ。

大河ドラマ「麒麟がくる」
NHK 総合 日曜よる8時
再放送:総合 土曜午後1時5分

脚本:池端俊策ほか
音楽:ジョン・グラム
語り:市川海老蔵
出演: 長谷川博己ほか
https://www.nhk.or.jp/kirin/

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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