「麒麟がくる」全話レビュー05

【麒麟がくる】第5話 まだ信長も登場してないのに……光秀くん、勇んで本能寺へ

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第5話は、まだ始まったばかりなのに、20歳の光秀が早く本能寺に向かってしまう。朝ドラ人気キャラが大集合の今回。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!
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早くも「◯◯は本能寺にあり」

日本史上最も有名な出来事のひとつ、本能寺の変(天正10年、1582年)。そこで織田信長を討った男・明智光秀の知られざる青春期から描く大河ドラマ「麒麟がくる」第5回「伊平次を探せ」(演出:藤並英樹)は、まだ20歳の光秀くん(長谷川博己)が早くも”本能寺”に向かってしまうお話。
時に1548年(天文17年)、本能寺の変まであと34年もあり、まだ織田信長(染谷将太)すら登場していないのに、どーゆーこと?

この頃の光秀の行動はまったく歴史に残っていないため、「麒麟がくる」では“万能観察キャラ”として、あっちにもこっちにも出没する。実際、あっちにもこっちにも出没していたのかもしれないけれどそれを今は誰も知らないのだ。

若き光秀の視点で本能寺の変に至るまでの日本が描かれるという趣向。情勢を観察していたらいつの間にか歴史の中心に躍り出ちゃったって感じなのだろうか。

5話の光秀は、1話、堺で手に入れた鉄砲の研究のため、鉄砲に詳しい伊平次(玉置玲央)という人物の協力を得ようと考えたところ、彼が本能寺にいるとわかり、再び京都に向かう。

前回は旅費を侍大将の首ふたつとることで返済したが、今度は道三(本木雅弘)に全額、負担してもらうことを取り決める。光秀がすこし成長した証だ。

こうして、「伊平次は本能寺にあり」とは言わなかったが、勇んで京都、本能寺へーー。

 

眞島秀和と長谷川博己は大型犬系?

ところが、そこには伊平次はいなかった。代わりに、後に光秀の盟友となる細川藤孝(眞島秀和)や13代将軍・足利義輝(向井理)と出会い、以前の京都旅行で会った三淵藤英(藤孝の兄/谷原章介)と、鉄砲を世話してくれた松永久秀(吉田鋼太郎)と再会する。

眞島秀和と長谷川博己の顔だちの系統が似ていて、向き合って真剣勝負する場面ではなにか不思議な感じがした。年齢も同じなのだとか。2月15日に放送された「土曜スタジオパーク」ではお互いが「ポーカーフェイス」という印象を語っているほどだが、長谷川のほうがややお坊ちゃんぽくて、眞島のほうがちょっとワイルドかもしれない。
ふたりは今回初共演。これまで共演していないのはなんとなく顔立ちがかぶるからじゃないかと思うんだが、さらに、2月19日、今後の「越前編」にユースケ・サンタマリアが朝倉義景役で出演すると発表され、彼もまた長谷川博己と似た系統の顔なので驚いた。

しゅっとした高身長、面長、目が涼やか、やや何を考えているかわからない雰囲気があり、やさしい感じもすると思いきや、狂気めいた顔に豹変するこわさもある。犬に例えると、コリーやボルゾイのような大型犬のような頼もしさも。

そんな長谷川博己、眞島秀和、ユースケ・サンタマリアと3人共演は、唐沢寿明、小栗旬、大東駿介、伊藤健太郎を共演させるのにも近い気がする。この4人は、最強のアーモンド型の瞳4人集。ちょっと似てると言われていて、共演するとしたら家族役か。おそ松くんか。この4人の似た感じよりは似てないかもしれないが、似た雰囲気の3人を起用した制作サイドには意図が何かあるんだろうか。すきあらば、「おそ松くん」をやりたいのか。いやむしろ見てみたい。

でも、素敵な俳優たちだし、顔立ちがやや似ているとはいえ、ちゃんと個性はあり、演技派として定評がある方々ばかり、何も問題はない。この手の顔が好きな人には、うれしさしかない。

 

朝ドラ人気キャラ大集合

うれしいといえば、5話では、長谷川博己、向井理、谷原章介、眞島秀和、吉田鋼太郎と朝ドラブレイク組、勢揃いといった雰囲気もあった。長谷川は「まんぷく」、向井は「ゲゲゲの女房」でヒロインの夫を演じて全国区の人気を獲得した。眞島は「ゲゲゲ〜」で向井演じる漫画家の編集者を演じていたが、ブレイクはもう少しあと。ただ、ついこの間まで「ゲゲゲ〜」が再放送されていたので、向井理と眞島秀和が並ぶとつい朝ドラを思い浮かべてしまうのだった。
谷原は「半分、青い。」で主人公の相手役のお父さん役。舞台では有名だった吉田は「花子とアン」でヒロインの親友の夫役を演じて全国区の人気を得た。かの有働由美子アナを「嘉納さま〜」とメロメロにしたほど。この時期、吉田の劇団AUNの公演にたくさんの女性ファンが詰めかけていた。

ライダー大集合ならぬ朝ドラ人気キャラ大集合という感じの5話は、衣裳の鮮やかさとは別に、じつに画面が華やかだった。
「越前編」には安藤政信や本郷奏多、間宮祥太朗も参戦。大河ドラマの「刀剣乱舞」化がはじまっているような気がしないではない。

が、しかし、そんなキラキラだけではない。応仁の乱後の京都をとりまく戦況がつぶさに描かれている。三淵と松永は、光秀の前で戦に関する考えをあけすけに語る。
ほら、光秀は万能視点だから。当時の日本での鉄砲の発達の歴史も体験するのである。光秀が鉄砲に詳しい人物という記録は残っているらしくそことうまくつなげている。
将軍は本能寺を通して鉄砲を作り、松永も負けじと鉄砲を作ろうとしている。が、それは強力な武器を持つことで戦の抑止力になるからだというもっともらしい理由。三淵は戦をするつもりはないと言うが……。

 

愛を振りまく吉田鋼太郎

松永は、光秀を気に入って(というか道三に興味がある)、伊平次のいる場所・遊郭へ連れていく。
遊郭の女たちとやたら親しげというか女性扱いに長けているふうな松永を吉田鋼太郎がじつに軽やかに演じている。「おっさんずラブ」の黒澤にしか見えないという声もあるが、男性だけでなく、女性へのアピール力も抜群だ。男も女も関係なく愛を振りまく俳優なのだなあと思う。

その一方で、鉄砲を光秀に向ける場面は、ものすごい圧で、そのときの長谷川博己の緊張感ある顔はかなりのもの。映画「カイジ ファイナルゲーム」でも主演・藤原竜也への圧が凄く、吉田は何に出ても強烈な危うさで相手のテンションを最高に上げていく。これも(広い意味で)愛。たぶん、愛。きっと愛(古くてすみません)

遊郭の2階から下りるとき、松永が光秀にお願いするときは、階段の下になり、高低差で立場をあらわす。名刺をだすとき、相手より下にしようとどこまでも下にし続ける攻防のようだった。最後はふたりで階段を下りていく。ここはとても演劇的な場面だった。

光秀は伊平次の顔を見て、子供の頃、顔見知りだったことに気づく。鉄砲作りはやりたくないと渋っていた伊平次が、光秀依頼の鉄砲の分解はやってみると前向き。

三淵と松永のシリアスなやりとりはがっつり聞いてしまうし、鉄砲作りの達人と旧知の仲だし、おまけに、京都に戻った駒(門脇麦)と互いの気配を感じあってしまう(そこに鈴みたいな音が効果音で鳴るという、ファンタジーな作りになっている)。光秀くん、恵まれた機会を生かし、いろんなものを見て、世界が戦で溢れていることを知る。

「美濃も戦に明け暮れています。負けるわけにはいかないから私も戦います。
しかし終わったあと、数日口のなかで苦さが残るのです。人を斬るといつも苦さが。これで良いのか。いつも…これで良いのかと」

光秀の純粋さがよく出たセリフだった。

 

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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