「麒麟がくる」全話レビュー06

【麒麟がくる】第6話 犬のようにぬくい駒(門脇麦)に、光秀「ここへ入らぬか、入ってくれ」

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第6話は、数奇な運命に導かれるようにして偶然出会った戦災孤児の駒(門脇麦)と光秀が一晩、一枚のむしろにくるまって過ごすドキドキエピソードも。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

戦が起こりそうなのに歌詠みの集い

大河ドラマ「麒麟がくる」は浪漫にあふれている。戦の浪漫、恋の浪漫、歴史浪漫……といろいろ。能や連歌などの文化が栄える室町時代は物語の奥行きを深くする。

第6回「三好長慶襲撃計画」(演出:大原拓)は、前半、三好長慶(山路和弘)を亡き者にしようと奇襲をかける一派を阻む光秀(長谷川博己)と仲間たちという勇ましいエピソード。後半、光秀と、数奇な運命に導かれるようにして偶然出会った戦災孤児の駒(門脇麦)が一晩、一枚のむしろにくるまって過ごすドキドキエピソードが描かれた。

まずは三好長慶襲撃エピ。天文17年、西部劇みたいに不穏な砂埃舞う京都。管領家の細川晴元(国広富之)と細川家重臣・三好長慶(山路和弘)が京都の覇権をめぐり一触即発状態にあるなか、長慶がお忍びで公家・万里小路家で行われる連歌の集まりにやって来る。戦が起こりそうなのに歌詠みの集いとはまた悠長な。芸術も、公家との社交も重要ってことかしらん。がしかし、晴元はその場に奇襲をかける計画を立てていた(とかく戦国の世は情報戦)。

この襲撃計画を鉄砲作りの達人で遊郭に入り浸っている伊平次(玉置玲央)から聞いた光秀(長谷川博己)はまずは三淵藤英(谷原章介)に報告。弟の細川藤孝(眞島秀和)は細川晴元が嫌いであいつには京都は任せられないと言うが、三淵のほうは関わり合いになりたくなさそう。
業を煮やした光秀は三淵に将軍は世を平らかにするものではないかと必死に訴える。

「将軍が争うなと一言お命じにならねば世は平らかになりませぬ」

それを、当の将軍・足利義輝(向井理)が立ち聞きしていて、ひとり万里小路家に向かう光秀を追うように命じる。将軍は三淵の屋敷で能を観ていたのだ。
毎回、光秀が戦のない平和な世の中を求めるセリフがある。ドラマのタイトル「麒麟」が平和な世のなかにあらわれる生物だから、そこは毎回、強調しておかないと。

 

京都、狭っ

こうして庭いっぱいに敷き詰められたような紅葉の下での激しい攻防が繰り広げられ、光秀が長慶を守ることに成功する。
長慶、危うし! 寸でのところで光秀が助けに入るヒーローものみたいな決めカットあり、細川藤孝と光秀の華麗なコンビプレーあり、松永、長慶、四人で紅葉の上で攻防戦を繰り広げていると三淵が助けに入り……とめくるめくアクションシーンが楽しめた。

光秀は右肩を負傷(織田信秀と同じあたり)、望月東庵(堺正章)を訪ねる。その途中で気を失って、駒(門脇麦)に助けられる。
伊平次に情報を聞く→足利義輝が立ち聞きして三淵に光秀を助けるように命令を下す→怪我したけど望月がちょうど京都にいる→倒れたところを駒が見つける。

京都、狭っ(実際、京都は狭くてがんばれば徒歩でいろいろまわれる)。
そして、光秀、持ってる。

2日間も寝ていた光秀は駒の歌で目を覚めると、松永に託された見舞いの品・水飴をもって藤孝が訪ねてきた。
「水飴大好きです」とはしゃぐ駒。酒より甘いものと松永が言っていたと藤孝に聞き、恥ずかしそうな反応の光秀。はじめて松永に会ったとき、酔って潰れたから。

松永は「人が工夫を凝らしたものは皆美しい」と言うような、ものの本質をわかった人物として描かれている。鉄砲の細かい作りを「美しい」と思う心をもった松永と光秀はどこか似ているところがあるようだ。でも、アヴァンタイトル(オープニングの前)、三好長慶と親しくしながら、連歌の会に一緒に向かうときニヤリと笑っていた表情があからさまにあやしいんだけれど……。

胡散臭い松永に比べて藤孝のなんて純粋なことか。
「将軍様は武家の棟梁であり鏡である」と言った光秀にすっかり共感して、しばらく京にいませんかと誘うが、光秀は光秀で故郷・美濃を守らないとならない。

 

コロモハウスクテ夜ハサムシ

美濃に帰る光秀を駒が送っていくと、夜が来て、ふたりは野宿することに。
光秀は武士、駒は庶民。駒は光秀にむしろを着せ、自分はそのまま寝ようとする。

「私はこどもの頃からからだが犬のようにぬくいのです」

むむむ、このセリフ、ちょっとドキッとする。
結果、そのぬくい駒とむしろを掛け合って眠ることに。

「ここへ入らぬか」
「頼む」 
「入ってくれ」
「はよ入れ」
「ここで寝よ」

光秀は言葉を重ねて、駒をむしろの中に入れることに成功。いや、光秀くんには下心はなく、かよわい少女をそのままにして自分だけむしろにくるまることができなかっただけなのだ(たぶん)。

光秀くん、少年が布団に猫を入れるような感覚で、駒を並んで寝ているのだろうか。
純粋過ぎる!(たぶん)
だって、その先のアクションに進む雰囲気が全然ないのだもの。ふたりは体育座りぽくくるまっているのだもの。なんなんだ、幼少時代でもあるまいに。

長谷川博己が朝ドラ「まんぷく」で妻・福子に「おいで」と自分の布団に呼び寄せたときは新婚エロが漂い、SNSは祭りになったものだが、「麒麟」ではエロ抑えめ。
少年少女のピュアさが強調されていた。

ぬくいうえにまた歌を歌って光秀を癒やしまくる駒。東庵に世話になる前、5、6歳のころ、旅芸人の伊呂波太夫(尾野真千子)の世話になっていて、彼女から今様(歌)を習ったのだという。今様はポピュラー・ソングみたいなもの。

コロモハウスクテ夜ハサムシ

庶民のリアルが歌われた。
衣は薄くて夜は寒い。でもふたりならあたたかい。

6話の視聴率は、5話よりアップ。華麗なる戦闘シーンが受けたのか、光秀と駒のやたらピュアな野宿シーンが受けたのか。それによって今後の展開、変わりそう。
あと、藤孝の光秀への感情が気になる視聴者もいるはず。「おっさんずラブ」で牧を見つめていた武川を思い出す人もいるんじゃないだろうか。眞島秀和はやや控えめながら熱い視線が魅力的。もしかして藤孝は「麒麟」のキーマンかもしれない。

 

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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