「麒麟がくる」全話レビュー07

【麒麟がくる】第7話 織田信長初登場!だが光秀のほうが先に「うつけ者!」とキレられちゃった

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第7話は、みんな大好き織田信長が満を持して登場します。トントン拍子で裏を読みたくなる今後の物語にも注目です。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

みんな大好き、カリスマ信長!

大河ドラマ「麒麟がくる」第7回「帰蝶の願い」(演出:一色隆史)
ついに織田信長(染谷将太)、登場! 明け方の海に船を出す信長の堂々たる姿。みんな大好き、カリスマ信長の初登場にふさわしいスケールの大きな場面だった。といっても信長が出てくるのは終盤40分過ぎてから。

7話は、尾張の織田信秀(高橋克典)の息子・三郎信長が帰蝶(川口春奈)の結婚相手としてふさわしいか、光秀(長谷川博己)が確かめに行くお話。

信秀は、美濃の斎藤道三(本木雅弘)と駿河・遠近江の今川義元(片岡愛之助)と内紛中の同じ尾張の守護代・織田彦五郎、3つの勢力に囲まれて手詰まりになっていたため、道三のところと婚姻関係を結び、勢力拡大を図ろうと考えたのだ。

「戦のたびに体のなかでなにかが泥のように崩れ落ちていく」

4話で信秀の怪我の調子がよくなく弱ってきていることが描かれた。滅びの予感がするセリフ。そうはいっても、織田家は信長の代になったら大躍進していくわけで、信秀は己の肉体は滅びても家を残すために最善を尽くしていると言っていい。

「だから美濃の蝮とて結ぶ」

娘を織田信長のところに嫁がせ和議を結ぶことを決めた道三だったが、帰蝶が首を縦に振らないため、光秀を頼る。

叔父・光安(西村まさ彦)に道三に意見するなと言い含められたにもかかわらず、言うことを聞かないやんちゃな光秀。
この頃の婚姻は人質みたいなもの。人質はなにかあったとき最初に斬られるもの。帰蝶が心配なのだ。

 

光秀のやたらと子供っぽい口調

道三と光秀の小競り合いが面白かったけれど、光秀の口調はやたらと子供っぽい。叔父さんには「はいはい」と軽い態度をとり、殿にも遠慮ない。「わかりました!帰ります!」とキレ気味に言って、爪切りを投げつけられる。

「このうつけ者!」

信長より前に「うつけ者」呼ばわりされてしまう光秀。怖いもの知らずで真っ直ぐで賢明な態度のおかげで道三の本心を聞くことになる。これは松永久秀(吉田鋼太郎)のおかげも大きかった。要するに、物怖じしない若者を大人たちが面白く思っているということだろう。

「国を豊かにするなら海を手に入れることじゃ」
父譲りの言葉を光秀に語る道三。

「和議を結べば海が近こうなる」
「わしの仕事は戦をすることではない国を豊かにすることじゃ。豊かであれば国はひとつになる」

海は豊かな産物をもたらすし、なにより外に開かれている。やがて、外国と繋がって日本は豊かに発展していくのだが、それはまだ先の話(三谷幸喜ふうに書いてみみました)。
一方、道三のことを良く思っていない高政(伊藤英明)は婚姻に反対。道三に刃向かった光秀を味方とみなし、帰蝶を嫁に行かせてはならぬと言う。この回は、高政にすすめられたお酒を光秀は飲んでいた。

 

帰蝶、隠しきれない乙女心

道三と高政の間にはさまれて困惑の光秀。帰蝶は「尾張などに嫁に出してはならぬ 皆にそう申してほしい」とうるうるした瞳を向ける。

旅や海に憧れる、男勝りでツンデレ系な帰蝶ではあるが、隠しきれない乙女心。

でもやっぱり武士の娘。彼女は信長の人柄をわかったうえで嫁ぎたいと条件を出す。三郎信長は“うつけ者”と言われているが、その正体を見た者はまだいない。

信長と同じく「うつけ」設定の光秀はまたまた変装して熱田へ。そこは堺に勝るとも劣らない活気に満ちた市場があった。海があるから海産物もたっぷり。そこで光秀が出会ったのは──。

菊丸(岡村隆史)。菊丸があちこち行商に出ている話はすでにされていたので、不自然ではないのだが、あまりにも都合が良すぎる。

昨今、ここまで開き直って、ご都合展開を書くドラマも珍しい。よくいえば牧歌的。昔の娯楽作みたいだ。物語が単純化されればされるほど、俳優の魅力が際立っていく。「がんばれ、光秀くん」という感じで光秀をどんどん応援したくなっていく。

菊丸は信長情報も知っていて、朝の海に繰り出すふたり。海の向こうから信長が……。

 

名前を書いた服を着ているみたいなもの

あまりにもトントン拍子で拍子抜けするが、ツッコミどころ満載に見せて、あとで、映画「カメラを止めるな!」みたいな仕掛けが待っているんじゃないだろうか。このとき、実はこうだった、みたいな種明かしが後半待っているんじゃないか(フカヨミし過ぎ?)。

なんだか全員が、「スパイ大作戦」をやっている感じがしてならなくて。駒(門脇麦)もやっぱり怪しい。帰蝶の輿入れの噂があるのか、牧(石川さゆり)に聞いて咎められているし……。これも光秀が好きな乙女心なのかもしれないが。

何かがありそうで、でもシンプルな筋運びで、見る人を選ばない。男子のためのチャンバラあり、女子目線のラブありの内容で進行しつつ、ところどころ、ダークチョコのような雰囲気もあって、肉も食べたい、スイーツも食べたい、という欲張りな私たちのニーズを満たしてくれる、リアルなこと考えずに物語世界に没入できる、これぞエンターテインメント。
わかりやすさといえば、駒の着物の柄が駒で、帰蝶の着物の柄が蝶。そのまんまなこと! 名前を書いた服を着ているみたいなものである。

ほろ苦いダークチョコの味わいは、室町時代最後の将軍・足利義昭(滝藤賢一)が幕を引く室町幕府の後期を描くという「終わり」という「黄昏」と、若い光秀(長谷川博己)や信長などの新しい世代の台頭という「暁」(信長の登場がまさにこれ)が入り混じるところ。神々が支配する黄昏と暁の下でうごめく小さな人間たちの物語は心をざわつかせる。

なんかこれ、どんどん盛り上がってきそうな気がします。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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