「麒麟がくる」全話レビュー08

【麒麟がくる】第8話 「エヴァンゲリオン」みたいな光秀くん。帰蝶再撮の苦労を改めて労いたい

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第8話は、恋の予感いっぱいの切ないシーンも。駒が京都に帰る場面、光秀が帰蝶に嫁ぐ決心をさせる場面、いろいろな想いが交錯します。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

光秀くんの仕草に恋の予感

大河ドラマ「麒麟がくる」第8回「同盟のゆくえ」(演出:大原拓)は帰蝶(川口春奈)が「うつけ」と言われる織田三郎信長(染谷将太)に嫁いだことで戦の火種が生まれ、不穏な空気漂うなか、甘酸っぱい青春の香りもする回だった。

天文17年(1548年)、菊丸(岡村隆史)に連れられて熱田の海岸に光秀(長谷川博己)が待ち受けていると、信長が沖から戻って来た。
朝早い信長(光秀が来る前に海に漁に出ていたってことですよね)。
獲ったばかりの魚をさばき、一切れ一文で売っていて、光秀にも「おまえは買わないのか」と声をかけるが、光秀は黙って去る。
なんとも奇妙な運命の出会い。

このときの光秀くんがこれもひとつの恋の予感的な仕草をすることに注目。
眼を伏せ、ぱちぱち瞬かせる演技がピュアな中学生みたい。
この場面、エヴァンゲリオンのカオルくんに対するシンジくんみたいに見えた。
長谷川博己がエヴァの庵野秀明監督の「シン・ゴジラ」に主演してクライマックスゴジラを攻撃する指揮をとるとき、まっすぐ前を見るつぶらな瞳が私にはシンジくんに見えて仕方なかったのだ。
それはともかくとして、恋といえば、帰蝶と駒(門脇麦)。どちらも光秀を想いながら、女のバトルはしない。むしろ仲良しである。
これは未分化の恋だからなのかなと思う。どちらも光秀に対して勝札を持っていない。帰蝶は織田家に嫁がないとならないし、駒は身分違い。

「困りました」と想いを持て余す駒に「困ることはない」とお手玉を渡す帰蝶。
紅いお手玉が光秀のように見えた。
そうしたら、この回の終わり、帰蝶が嫁いでしまい、駒も帰ってしまい、ひとりぼっちになった光秀が残ったお手玉を寂しく投げている所在ない背中で幕となった。やっぱりお手玉と光秀が重なった。

駒が京都に帰る日を控えた満月の晩、光秀の母・牧(石川さゆり)から明智家の桔梗紋入りの扇子(光秀の父親の形見のひとつであり、もしかしたら彼は駒を助けてくれた手の大きい人かも)をもらって去っていく駒に、帰蝶が稲葉山に帰るとき、知らないふりして見送らなかった心を言い当てられた光秀。ようやく、自分の知らない、恋心みたいなものを知ったのかもしれない。でも後の祭り。
光秀に見送られる道中、ムシロにふたりで入った一夜の歌を歌う駒の気持ちを思うとやりきれない。

 

申したな この帰蝶に

光秀と光秀をめぐる女たちの複雑な感情も心をくすぐるが、世間のもっぱらの話題は、熱田で信長を観察してきた光秀が帰蝶に嫁ぐ決心をさせる場面のセリフだった。

帰蝶「十兵衛の口から聞きたい」
光秀「行かれるがよろしいかと」
帰蝶「申したな この帰蝶に」
光秀「尾張へ……お行きなさいませ!」
帰蝶「十兵衛が申すのじゃ 是非もなかろう」

帰蝶の「是非もなかろう」は、のちに本能寺の変が起こりその首謀者が光秀と知ったとき信長が「是非に及ばず」と言ったとされることと呼応させているのではないかと戦国好きな人たちが激しく反応したのである。信長と光秀の出会いの演出といい、くすぐりがうまい。

お家のために2度目の輿入れをすることになる帰蝶(1回目は毒殺された土岐頼純〈矢野聖人〉)。まだ十代なのに。
でも、牧は、「ひとは消えてもあの山や畑はかわらずそこにある。そのことが大事なことじゃと」
「変わらずあるものを守っていくのが残された者のつとめかもしれんと」
「十兵衛…大事なのはこの国ぞ」と帰蝶を嫁がせていいものか悩む光秀を諭す。

牧は滅私の心で生きている。いや、牧だけでなく、誰もがそうで、闘う理由は誰もが国や家を守るため。

 

鳴かないホトトギスをどうする問題

道三(本木雅弘)と光安(西村まさ彦)はこれで美濃が安泰と大喜びだが、元々美濃の持ち主だった土佐家の頼芸(尾美としのり)は面白くない。父・道三を嫌っている高政(伊藤英明)を焚き付けて、道三を潰そうと企てている。が、けっこう、慎重派なのか、自分の手を汚したくないのか、時間に任せようとする。帰蝶の性格上、嫁いでももって2年、早くて1年で破談になると踏んでいた。

頼芸の元妻で道三の妻になっている深芳野(南果歩)も、息子・高政に待っていれば、道三の土地を引き継げるから忍耐するように言う。元夫婦、待てば海路の日和あり的な性格が似ているかも。これは、いわゆる、鳴かないホトトギスをどうする問題でもある。

誰が考えたのか、鳴かぬなら鳴かせてみせようが秀吉。鳴かぬなら殺してしまえが信長、鳴かぬなら鳴くまで待とうと考えるのが家康と言われているが、誰かとの会話につまったとき性格テストとして使えて便利。ちなみに、光秀は「私が鳴こう」とか「放してしまえ」だとか言われているそうだ。滅私の人・牧の息子! 自己犠牲精神旺盛。ほら、やっぱりシンジくんが無理してエヴァに乗って人類のために闘うのと同じようなものなのではないでしょうか(エヴァ話はもういいか)。

さて、鳴くまで待つ家康(竹千代)の父・岡崎城城主、松平広忠(浅利陽介)は、目下、駿河の今川義元(片岡愛之助)の配下となっていて、三河は織田にひどい目にあって、竹千代も人質にとられているのだから、手を貸すから「松平家の汚辱をはらすのはいまじゃ」と戦をするよう指示される。こちらは待たずに攻める派のようだ。

予告だと、あっちもこっちもいろいろ動きがあって面白そう。菊丸がやたら都合よく現れる謎も解けそう?

織田家が狙われていることも知らず、天文18年2月、帰蝶は織田信長に嫁ぐ。
ところが婚姻の儀に信長が遅刻してきて……。帰蝶の何もかも開き直って動じない表情が頼もしい。

前半、これほど帰蝶目線で描かれているのだから、当初、この役を演じる予定だった沢尻エリカが降板して一部撮り直すことは相当大変だったろうなあと改めて、関係者のご苦労を思う。

 

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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