「麒麟がくる」全話レビュー09

【麒麟がくる】第9話 信長・染谷将太と光秀・長谷川博己の対決に期待しかない、たぶん壮絶

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第9話は、織田信長と帰蝶のゾッとする話から、光秀の運命の女性との出会いまで盛りだくさんな内容。もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

頼もしい菊丸!

大河ドラマ「麒麟がくる」第9回「信長の失敗」(演出:佐々木善春)は、帰蝶(川口春奈)との祝言に遅れて来て、しかも泥だらけだった織田信長(染谷将太)にゾッとした。

第8回のラスト、家康(竹千代)の父・岡崎城城主、松平広忠(浅利陽介)が駿河の今川義元(片岡愛之助)の命を受け、織田家との戦の準備のため少人数で岡崎に向かう道中、奇襲によって命を落とす。
かなりあっけない最期であった。

暗転後、菊丸(岡村隆史)が現れ、形見の脇差を抜いて三河の水野信元(横田栄司)のもとへ。そこには信元の妹で、竹千代の母・於大の方(松本若菜)がいて、確かに広忠のものと確認する。

菊丸、やけに落ち着いた喋り方で物怖じしないし、ただの農民じゃない雰囲気があったが(もちろん農民が落ち着いた喋り方をしないっていうわけではない)、信元の家来だった。信元は織田派なのでどうりで信長情報にも詳しかったというわけか。
「竹千代様を命にかけてもお守りします」と頼もしい菊丸。

 

信長は、叱られてびっくり

こうして菊丸の意外な面が描かれ、その後、信長である。

遅刻した挙げ句、泥だらけで祝言の席にやって来た信長にむくれる帰蝶だったが、信長は熱田の民たちや光秀に対して気さくに振る舞っていたことと同じく、帰蝶にも気さくで、いつの間にか、彼のペースに巻き込まれていく。気が強く、視野も広そうな帰蝶だから、信長の自由奔放さ、民衆と目線を同じくしようという考えなどにも惹かれたのかもしれない。

信長「ほしいものはないか?」
帰蝶「お腹が空きました」

信長は海の味・干しだこを取り出し、ふたりで食べる。
それから末吉、平太、太助という民の者を帰蝶に紹介する。

ふたりは連れ立って父・信秀(高橋克典)のもとへ。傍らには妻・土田御前(檀れい)がいる。
ニコニコと引き出物を差し出す信長。
「尾張の繁栄には欠かせないものでございます」

容れ物のふたを開けて血相を変えた信秀は、土田御前と帰蝶に席を外させると、
「このうつけが!」
激しく信長を叩く。

中に入っていたのは広忠の首だった。

頭頂部がちょこっと見えただけとはいえ、グロい。

猫が主人に死んだネズミをもってくるような感じで、信長は父が喜んでくれると思っていて、叱られてびっくり。「解せませぬ」と涙目になっていく。

信忠は、いきなり広忠を殺してしまったら今川が激怒するし、帰蝶を嫁(という名の人質)にとったばかりで斎藤道三(本木雅弘)が織田側につくかわからない。「物事には時機というものがある」「今戦えば、われらは勝てぬ」と忌々しい顔をする。
信忠は怪我で弱っていて、戦に勝つ自信がない。それを知らない信長が先走り過ぎてしまった感じだ。

外に出た土田御前は「この世には見てはならないものがあるのです。開けてはならぬ箱があるのです」と帰蝶に語る。

 

「ときどき大っきらいになる」で意気投合

帰蝶は人質の竹千代(岩田琉聖)と出会う。竹千代が眺めていた金魚は唐から連れてこられたもので、竹千代は金魚と自分の身を重ねる。つまり、帰蝶もその仲間である。

竹千代は、信長の弟・信勝(木村了)には処世術でわざと将棋で負けていたが、将棋の強い信長と将棋をやると面白いと言う。どうやら信長が好きらしいのだが、廊下を歩いてきた信長に寄っていったら、父に叱られ機嫌が悪く激しく払われてしまう。
子供相手になんてことをするのか、信長。あの熱田のみんなに優しそうだった信長はどこへ……。

信長は気分転換に鉄砲を撃つ。発砲音を聞くと精神がすっとなるというから、ちょっと精神バランスに問題があるのだろう。
帰蝶も銃を撃ってみて、楽しくなる。この人もちょっと問題があるのかも。
ふたりは、それぞれ、父親に複雑な想いを抱えていて、「ときどき大っきらいになる」ことで意気投合する。この夫婦、今後、マクベス夫婦みたいにヤバい夫婦になるのかな。気になる。

 

帰蝶よりも気になる女が!

さて、主人公の光秀くんといえば、運命の女性と会っていた。

暑い夏、光安(西村まさ彦)に言われて、藤田伝吾(徳重聡)をお供に妻木へ米を運んでいくと、子供のときに一緒にかくれんぼしたことのある、煕子(木村文乃)と再会。信長は熱田の民と化け物退治、光秀はかくれんぼ。

「大きくなったら十兵衛のお嫁におなり」と言ったと煕子に過去を蒸し返され、
「そんな、ことを……」と照れたあと、子どもたちとはしゃぐ煕子を見てにんまりする。なななんなんだ、光秀。帰蝶や駒のことはもう忘れちゃったのか。しかも、帰蝶よりも気になる女の子が子どものときにいたってことではないか。こっちの展開のほうが「解せませぬ」だと思う。

妻木に行かせたのは光安が煕子を光秀の嫁にと企ててのことで、その作戦は静かに成功の道を進んでいるようだが……。
何も知らない駒は、京都に戻って、すっかり意気消沈。鍼治療がうまくできないでいた。
まあ、気の強そうな帰蝶、健気だけど身分違いの駒と比べたら、家柄もほどよく、穏やかそうで、面倒くさくなさそうなのは煕子かなという気がするが。ちょっと恋模様が多すぎないだろうか。

血なまぐささと底知れない怖さが描かれた前半と、花びら舞い、リリリンと鈴の音が鳴るスイーツな後半。落差激しい回だった。
前半、後半、好みが別れると思うが、私は前半が好きかも。

 

世界に才能を認められた俳優・染谷将太

信長役が染谷将太だと発表されたとき、これまでの信長のイメージ(きりっと精悍な風貌)とは違うという声も出たが、私は楽しみにしていた。染谷将太は映画を主戦場にしているからテレビドラマをよく見る人達にはあまり知られていないかもしれないが、ヴェネチア国際映画祭で最優秀新人賞を受賞し、世界に才能を認められた俳優である(そのとき同時に受賞したのは二階堂ふみ)。

受賞作品は園子温監督の「ヒミズ」(11年)。古谷実の漫画が原作で、染谷は虐待を被った父親(光石研)を耐えきれず殺してしまう少年の切実さを、鮮烈に演じた。若い時代限定の、エネルギーを爆発させることによる異質な凄みもあったと思うけれど、子役から活動してきた染谷は、すでに冷静に演じることもできていたと思う。俯瞰しながら人間の狂気を演じる神的な才能のある俳優なので、サイコパス信長は必ず凄い人物になっていくだろう。

そんな化け物・信長と対峙する光秀・長谷川博己はどうか。彼も園子温の映画「地獄でなぜ悪い」ではクレージーな映画監督、「ラブ&ピース」では欲望が肥大化していくロックミュージシャンを演じ、怖面白い弾け方をしていた。園子温作品で重要な役を演じた染谷将太と長谷川博己の対決。これはかなり壮絶なものになると思う。羽生結弦とネイサン・チェンとの対決みたいな、宮本武蔵と佐々木小次郎みたいなものであろうか。本能寺の変を園子温監督に撮ってほしいくらいだ。

【メモ】
京都のターンでは「カメラと止めるな!」で監督役を演じた濱津隆之がトメ吉という名で登場。カメラを止めるなの「止め」にかけたであろう遊びがあった。この回、脚本は、これまで脚本協力クレジットだった岩本真耶が担当している。

 

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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