家族で考える2020年冬ドラマ考察

総括「テセウスの船」とは何だったのか。みんなと家族になれて、本当に良かった。ありがとう!【家族で考える2020年冬ドラマ考察05】

人気ライターが放送されたばかりのドラマを徹底解説。ドラマが支持される理由や人気の裏側を考察し、紹介してくれます。「家族で考える冬ドラマ」では、今年の冬ドラマで描かれる「家族」についてフィーチャーして考えていきます。今回は、真犯人が誰なのか話題を呼んだ「テセウスの船」。最終回を終えて、「テセウスの船」とは何だったのか、あらためて考え直します。

黒幕はまさかの霜降り明星せいや! エンディングにいきなりハライチ澤部!

日曜劇場「テセウスの船」(TBS、日曜夜9時)が怒涛の最終回を迎えた。物語のクライマックスにサプライズが連打されてネットは沸騰。視聴率は過去最高の19.6%を記録した。

これまで提示してきた謎がすべて解き明かされたわけではなく、視聴者の不満の声も少なからずあったようだが、主演の竹内涼真、鈴木亮平をはじめとするキャスト陣の熱演と演出の勢い、そしてたびたび押し寄せる感動と多幸感あふれるラストで押し切った感がある。まさに「泣けるミステリー」だ。

最終回でとにかく強調されていたのが「家族」だった。数えたわけではないが、最終回だけで「家族」というセリフが20回以上登場したのではないか。主人公の動機も「家族」なら犯人の動機も「家族」。「テセウスの船」は「考察班」も出動するほどの複雑なミステリーでありつつ、「家族」という大きなテーマを一貫して描き続けてきた。

大人は子どもを守るもの

「この家族の未来を守りたい!」。田村心(竹内涼真)のすべての行動の動機は、彼が繰り返し口にするこの言葉に集約される。もともとは無差別殺人犯の汚名を着せられた父・佐野文吾(鈴木亮平)の冤罪を晴らすためにタイムスリップしてきたが、家族を愛する若き日の父親の姿を目の当たりにし、母・和子(榮倉奈々)、姉の鈴(白鳥玉季)、兄の慎吾(番家天嵩)と家族団らんの時間を過ごすことで、あらためて「この家族の未来を守りたい」という決意が生まれていった。

文吾の行動の動機も「家族を守る」ことだ。警察官として村人を守るという使命感と同じぐらい、家族を守るという熱い気持ちが大きな体に満ち満ちていた。1話で心と一緒に風呂に浸かりながら「子ども守るのが、親の使命だろ」「未来でも家族とやかましくしてたいねぇ」と語るシーンもたびたび登場したが、この二つの言葉が佐野文吾という人物を象徴している。

文吾がタイムカプセルに入れた手紙でも、家族への感謝が綴られている。彼の手紙が家族の前で読み上げられるシーンは、最終回前半のクライマックスに据えられていた。

「俺はお母さんと結婚できて、鈴と慎吾のお父さんになれて、本当に幸せだ。みんなで騒がしくメシを食ったり、プロレスしたり、お母さんに怒られたり、笑ったり、全部が楽しかった。俺にはもったいないくらい、いい人生だった。みんなと家族になれて、本当に良かった。ありがとう」

なお、「テセウスの船」というドラマでは「大人は子どもを守るもの」という昨今失われつつある常識があらためて強調されている。それが表れていたのが最終回の徳本(今野浩喜)の「子どもら傷つけたら、タダじゃおかねぇぞ、コラ!」と井沢(六平直政)の「親が何しようがな、子どもに罪はねえ!」という言葉だろう。あのシーンは泣けたよ。徳本、あんたいい男だ。最後まで文吾に疑われていたのはちょっと可哀想。

疑われていたといえば、石坂校長(笹野高史)のエピソードも印象的だった。突然姿を消したのは、消息が途絶えていた息子の家族に会うため。彼が毎日のように絵を描いていたのは、初めて会う孫を喜ばせるためだったのだ。じゃ、あの不吉な感じのアップはなんだったんだよ! という気もするが、そんな大仰なミスリード演出も含めて「テセウスの船」の面白さだろう。さすが大映ドラマ。個人的にはユースケ・サンタマリア演じる金丸警部が「少女に何が起ったか」(1985年/TBS系列・大映テレビ制作テレビドラマ)の石立鉄男と被って見えた。

平成の間に「不当に壊された家族」

「テセウスの船」の大きなテーマは「家族」だが、より詳しく言うなら「不当に壊された家族の復活」だ。これはコラムニストの堀井憲一郎氏がすでに指摘している(Yahoo!個人ニュース 3月25日)。

ごく普通の温かく朗らかな家族が、誰かの悪意によって壊されてしまった。これを主人公がタイムスリップし、必死に行動して復活させる。一言でこのドラマを表すなら、こうなる。

最後に未来の家族の幸せそうな姿が映し出されて物語は終わりを迎えた。心は真犯人の田中正志(せいや)に刺されて絶命したが、母・和子のお腹にいた子が生まれて心と名付けられていた。これがタイトルの「テセウスの船」(すべての構成要素が置き換えられたとき、それは同じであると言えるのかというパラドックス)につながっているのだが、唯一すべてを知っている年老いた文吾は満足そうにうなずく。壊されてしまった幸せな家族は、心の献身的な行動によって復活したということになる。

「テセウスの船」の人気の要因は、複雑なミステリー要素と家族愛、キャスト陣の熱演だろう。もう一つ、「不当に壊された家族の復活」の物語に人々が熱狂したのは、自分も「不当に壊された家族」の一人だと思っている人が視聴者の中に少なからずいたからではないだろうか。

物語は平成元年(1989年)と2020年を行き来するが、平成の30年の間に世の中の家族の形は大きく変化した。ライフスタイルの多様化も大きな原因だが、一方で経済の停滞や雇用形態の変化による収入の低下などによって家族をつくることができない人も増加した。前者の理由はポジティブなものだが(そう思わない人もいるかもしれないが)、後者はネガティブである意味「不当な」ものだ。幸せな昭和の家族だった佐野家が、平成の間に破壊され尽くしてしまったのは、そんなことを象徴しているような気がしてならない。

佐野家のような幸せな家族を自分も取り戻したい、手に入れたい――そう思う人は、心や文吾のように必死になって懸命に努力すれば手に入る。「テセウスの船」というドラマは、家族の良さとともに、そんなことを訴えていたような気がする。

付け加えるなら、家族を壊されて犯罪に走った正志が幸せになる世界線もいつか見てみたい。正志がタイムスリップして妹を助けるスピンオフとか、どうでしょうね?

「テセウスの船」(TBS系)
https://www.tbs.co.jp/theseusnofune/

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
ドラマレビュー