2020年冬ドラマ考察

「知らなくていいコト」最終話 尾高さん切ない「タイミング悪いんです、俺。3年前も、今度も」【2020年冬ドラマ考察】

人気ライターが放送されたばかりのドラマを徹底解説。ドラマが支持される理由や人気の裏側を考察し、紹介します。今回ご紹介するのは、最終話を迎えた「知らなくていいコト」。吉高由里子さん演じる真壁ケイトと妻子ある尾高由一郎(柄本佑)の恋のゆくえも気になるところ。最終話でたどりついた、ケイトと尾高にとって「知らなくていいコト」とは……?

●2020年冬ドラマ考察

ケイトと尾高の不倫は、尾高の妻の心を壊した

「結婚しよう。ケイトがいないと、もうつらい……。ケイトもそうだと思いたい。離婚は承知してもらった」

昨日(3月11日)放送の「知らなくていいコト」(日本テレビ、水曜夜10時)最終話で、尾高由一郎(柄本佑)は真壁ケイト(吉高由里子)にプロポーズした。
「尾高さんには子どもを見捨てないでほしいの。親としての心を失った尾高さんは嫌なの」
ケイトは尾高の申し出を断った。

父親と思っていた乃十阿徹(小林薫)が最も大事にしていたのは、ケイトではなく息子でピアニストの戸倉聡(橋本淳)だった。乃十阿にとってケイトは不倫相手の娘であり、息子のように人生を懸けて守るべき存在ではなかった。ドイツに行ってそのことを思い知ったケイトは、尾高の息子・壮太君に自分と同じような思いをさせたくなかった。まあ、そんな男に尾高をさせたのはケイト自身であり、どうしようもない矛盾を孕んでいるわけだが……。

尾高が自宅に帰ると、息子の壮太君がバウンサーに乗せられたまま置き去りになっていた。傍らにある離婚届を見ると、親権が妻のみほ(原史奈)から自分に移っている。
これは復讐かもしれない。自分が子育てをしていた間、夫は別の女と不倫を楽しんでいた。夫と別れたら生活力のない私が息子を引き取り、辛い日々を送る羽目になる。身軽になった夫は速攻で不倫相手と結婚するだろう。自分は不幸になるのに、夫は幸せになる。ふざけるな。お前がこの子の面倒を見ろ。そういうことかもしれない。

だとしても、常軌を逸している。母親が「子どもを置いていく」という手段を選択するなんて、考えられないのだ。尾高が帰宅するまで、壮太君が何時間放置されていたかを考えるとゾッとする。もしもケイトが尾高のプロポーズを受けていたら、壮太君は最悪の事態に陥っていた可能性がある。
つまり、みほは心が壊れていた。乃十阿と杏南(秋吉久美子)の不倫を知った乃十阿の本妻・静江は「頭がおかしくなる」と情緒不安定になった。同じように、ケイトと尾高の不倫はみほの心を殺していた。杏南と同じことをケイトは相手の奥さんに行っていたのだ。

親権の欄が修正された離婚届を見た尾高は、悲痛な表情で壮太君を抱きしめた。ケイトが最優先だった尾高は、捨てられた息子を見るまで父の自覚がなかった。ハッとした尾高にようやく父性愛が芽生えた。

父性愛が芽生えた尾高はケイトからの復縁を断った

30年前の無差別殺人事件について、ケイトは命を削りながら記事を書いた。しかし、社長の判断でその記事はお蔵入りになった。

尾高「あの記事、載らなかったね」
ケイト「何だったんだろう、あの激動の1週間。……私たち、戻る?」
尾高「はあ?」

都合のいいことを言っている。渾身の記事がボツにされ、心にボカッと穴が空いたケイトは自暴自棄になり、心の隙間を埋めようと安直に復縁を提案した。
「そんな気分じゃないよ、今の俺……」(尾高)
今はそんな気分じゃない。ケイトに惹かれて熱病に冒されていた尾高も、今は現実と向き合っている。息子を育てなければならない責任感がある。遅まきながら父性が芽生えたばかりだ。
「本当タイミング悪いよな、俺たち」(尾高)

人生を懸けて息子を守った乃十阿。壮太君を抱きしめ、本当の意味で父親になった尾高。父性愛がこのドラマの1つのテーマだった。

「知らなくていいコト」があると初めて知ったケイト

「キアヌに会って来ます。キアヌ・リーブス」
ケイトは乃十阿に会いに行き、差し替えられた記事のゲラを読んでもらった。そして、そのゲラを乃十阿に渡そうとした。

ケイト「あの……これ、持っといてくださいません?」
乃十阿「(首を振る)」
ケイト「そうですよね」

ケイトはゲラを焚き火に投げ込んで燃やした。ケイトが記事にした内容は、ドイツで幸せな家庭を築く戸倉にとって知らなくていいコトである。他人のプライベートに土足で踏み込み、真実を暴き世に知らしめてきたケイトが、「この世には『知らなくていいコト』がある」と初めて知ったのだ。

乃十阿は口数の少ない男だ。娘のケイトと30年以上ぶりに会ったのに、あまり言葉を交わさない。ケイトが書いた記事にはこんな文があった。
「最後まで乃十阿は真壁ケイトを娘だと認めなかった」
「それはケイトを殺人犯の子どもにしたくなかったからだろう。認めないということで、乃十阿はケイトも守ったと言える」
心の中で2人はお互いを親子だと認めている。でも、どちらも口にしない。乃十阿の中で、その事実はケイトにとっての「知らなくていいコト」だ。

ただ、30年前の事件の真相をケイトは知っているのだと、記事を通じて乃十阿は知ることができた。命を削って記事を書いたケイトは、それだけで報われたと思うのだ。

タイミングの悪さがケイトと尾高を繋げる

明らかに惹かれ合っているのに、ケイトと尾高は結ばれなかった。
「タイミング悪いんです、俺。3年前も、今度も」(尾高)
尾高がプロポーズしたタイミングも、ケイトが復縁を申し出たタイミングも、どちらも最悪だった。

3年後、デスクに昇進したケイトは取材へ出掛けた。すると、手を繋いで壮太君と歩く尾高の姿を見つけた。おかしなタイミングの良さである。でも、尾高はケイトに気付いていない。2人はずっとすれ違いを続けている。結ばれず、それでいて離れず、この関係性のまま変わらずずっと続いていく。そんな運命を感じさせるエンディングだった。
2人の中でタイミングが合う日がいつか訪れるかもしれないし、来ないかもしれない。子どもの手を取りシングルファザーとして奮闘する今の尾高にとって、後ろ姿を見つめるケイトとのすれ違いは知らなくていいコトだった。

 

「知らなくていいコト」
日本テレビ系 水曜よる10時
脚本:大石静
主題歌:flumpool「素晴らしき嘘」(A-Sketch)
音楽:平野義久
出演:吉高由里子ほか
https://www.ntv.co.jp/shiranakuteiikoto/

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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