2020年冬ドラマ考察

「知らなくていいコト」8話 不倫をためらう吉高由里子に傲慢を勧める佐々木蔵之介【2020年冬ドラマ考察】

人気ライターが放送されたばかりのドラマを徹底解説。ドラマが支持される理由や人気の裏側を考察し、紹介します。今回ご紹介するのは、「知らなくていいコト」。仕事と恋愛に悩む真壁ケイトを吉高由里子さんが演じ、話題になっています。目が離せない7話から、アクセルを踏み始めた8話へ。これからの見どころとは?

●2020年冬ドラマ考察

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2月26日に、吉高由里子主演「知らなくていいコト」(日本テレビ、水曜夜10時)の第8話が放送された。

肯定されたくて闇堕ちした重岡大毅

振り返ると、このドラマはスロースターターだった。明らかにイマイチであった序盤(4話まで)から次第に熱を高めていき、気付いたらもう目が離せない。特にアクセルを強く踏み始めたのは、前回7話からである。

後半戦のキーマンは、間違いなく野中春樹(重岡大毅)だ。真壁ケイト(吉高由里子)の出生の秘密を雑誌「深層スクープ」にリークする狂気の沙汰。なぜ、そんなことをしたのか? 理由はいくつか浮かぶ。「週刊イースト」特集班のエースとして編集部の信頼を集めるケイトへの嫉妬心と劣等感。

さらに、野中は自分を肯定してもらいたい気持ちが強い。殺人犯の血を引く子ども(ケイトのこと)と結婚できないと判断した自分は正しいはず。僕は間違ってないよね、そうでしょ!? 他者に問い、共感してもらうことを望んでいる。しかし、尾高由一郎(柄本佑)からは「お前、最っ低だな」と蔑まれてしまった。この男はもうアテにならない。

では、世間はどうか? 記事として大々的に発表し、審判を世に委ねてみよう。野中は「深層スクープ」の記者を呼びつけ、得意げに喋り倒した。
「真壁ケイトの父親は、30年前夏休みのキャンプ場で起きた無差別殺人事件の犯人、乃十阿徹です」
「乃十阿徹と真壁杏南が知り合った頃、乃十阿には妻子があり、2人は不倫関係でした」
「週刊イーストはいつも真っ当なことを書きますが、実は殺人犯の子どもがそういう記事を書いているんですよ。違和感ないですか? 不倫の果てに生まれた子どもが不倫を糾弾してるんですよ」

この事実を知れば世間は騒ぎ、きっと自分と同じ対応をするはずである。野中は期待した。

 

床を這う元カレを白い目で見る吉高由里子

ケイトが出社すると、迎える編集部員たちは、彼女を白い目で見た。野中の思惑通りだ。そこに、ケイトの理解者である編集長・岩谷進(佐々木蔵之介)が「深層スクープ」を持って現れた。
「はい、注目。ここに書いてあることは本当だ。しかし、我々の仕事は何も変わらない。今まで通り、普通に仕事をしてくれ。大事なのは……何も変わらないという姿勢だ」(岩谷)

岩谷のリーダーシップに引っ張られ、ハッとしたように「はい!」と力強く返事をする編集部員たち。野中は呆気にとられた。どこか軽蔑していた同僚らが、自分でさえ受け入れられなかったケイトの出自をあっさり受け入れたのだ。不倫問題を持ち出し正義感を振りかざしていたはずが、己の小ささを思い知る羽目になった。正義を訴えるどころか、常人以上の差別感情の持ち主だと証明されてしまったのだ。もう彼は、コソコソと床を這いつくばるしかない。その姿を、冷たくケイトが見ている。野中はこれから、ケイトの秘密をばらしたという事実を秘密にしながらこの職場で生きていくことになる。

 

佐々木蔵之介からの傲慢のススメ

ネットで自宅の場所を特定され、編集部に寝泊まりするようになったケイト。ある日、ケイトは岩谷から一緒に飲もうと誘われた。彼女と尾高が想い合っていることは、すでに編集部全員が察している。
「尾高とケイトはどうすんの。一度しかない人生だ。自分の想い、大事にしたほうがいいんじゃないの?」(岩谷)
尾高は妻も子もいる身である。もちろん、岩谷も知っている。

ケイト 「でも、私が奥さんだったらって考えると……」
岩谷 「そういう綺麗ごとは、かえって尾高を苦しめるぞ。ケイトはケイトらしく、まっすぐ尾高を求めればいいさ。奥さんと子どもに同情するなんておこがましいね。まずは、自分が望む人生を手に入れることだ」

凄いことを言っている。自分の欲求に嘘をつかず、本能で生きるべき。まっすぐ、傲慢に生きろと職場の上司が背を押したのだ。

 

“家庭に殉じた男”の取材をする“不倫に迷う女”

前々回6話で「週刊イースト」が追ったのは、人気棋士・桜庭洋介(田村健太郎)と女優・吉澤文香(佐津川愛美)の不倫だった。「もし記事が出なければ桜庭は人知れず離婚して、吉澤さんと一緒になれたのかもしれませんよね」と迷うケイトを、岩谷はこう諭している。
「先のことは俺たちの知ったことじゃない。書いた記者がいちいち反省するのは書かれた人に無礼だ」

今、ケイトはその“書かれた人”になってしまった。殺人犯の娘として好奇の目に晒される毎日。記者が記者に追われるという悲惨な目にも遭っている。彼女にとって、“書かれた人”は他人じゃない。ケイトの内面は、傲慢を貫けない人間へと変わりつつある。自分を取材対象者と重ね合わせるようになったのだ。

今回、ケイトが追ったのは、与党議員・梅沢雄三郎(越村公一)の賄賂疑惑の罪をかぶり自殺した秘書・相田正司(住田隆)についてだった。家族の命と将来のため命を差し出すことを選んだ相田の生き様を、ケイトはまざまざと見ている。さらに、ケイトは7話で桜庭の妻・かずみ(三倉茉奈)に腹部を刺された。不倫で家庭を壊された妻の苦しみも、身をもって知ったのだ。

次回予告を観ると、尾高の車内に離婚届が置いてあるのがわかる。「何も望まないから一緒にいて」と求めたケイトに、「両立なんてできない」と尾高は答えた。どちらか1つしか選べない不器用な尾高は、ケイトだけを選ぶつもりだ。このドラマは尾高の妻・みほ(原史奈)側の視点をなかなか描かない。不倫をする側からのみ物事を考えさせる構造になっている。
家族に殉じた男、不倫に壊された女を見たケイトは、果たして仕事も恋愛も傲慢を貫き通すのだろうか?

 

「知らなくていいコト」
日本テレビ系 水曜よる10時
脚本:大石静
主題歌:flumpool「素晴らしき嘘」(A-Sketch)
音楽:平野義久
出演:吉高由里子ほか
https://www.ntv.co.jp/shiranakuteiikoto/

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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