あのころの津崎平匡と現在の星野源のはざまで『逃げるは恥だが役に立つ』ムズキュン特別編でわかること

新型コロナウイルス拡大によりドラマの収録が中断し、テレビではさまざまな人気ドラマの特別編が放送されています。今回は、未だに人気が高いTBS系ドラマ「『逃げるは恥だが役に立つ』ムズキュン特別編」をあらためて考察します。今の星野源とあのころの星野源……。「逃げ恥」が大ヒットした理由が見えてくるかも。
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「浸透力ハンパな~~~い!!」

未公開カットを加えたTBS系ドラマ「『逃げるは恥だが役に立つ』ムズキュン特別編」第3話が6月2日に放送された。僕は4年前の本放送時に熱心に見ていたのだが、そうだった、そうだった。第3話は、浸透力ハンパないの回だった。ちなみに、当時の3話の視聴率は12.5%。十分に高視聴率ではあるものの、まだ大ブームには至っていない。

また、みんながこぞって真似したエンディングの“恋ダンス”が、このご時世に合わせて“リモート恋ダンス”に変身。新垣結衣と星野源の新映像に加えて、第3話からは石田ゆり子も参戦した。

今の星野源では成立しないかもしれない

当時から売れっ子俳優だった星野源だが、今作でその地位を確固たるものにしたと記憶している。放送開始前は、顔と名前とどんなことをしている人かはぼんやり知っていても、明確なイメージを持っていない視聴者も多かったように思う。たぶん本人にとっても転機となった作品だろう。

まだそれほど固まっていないイメージと、「そのへんにいそうな青年」という雰囲気があいまって、劣等感に苛まれる高齢未経験男子・津崎平匡という役柄がビタっとハマった。なんならそういう人にさえ見えた。

もし、歌って踊れてお喋りまで上手だと世間にバレてしまった星野源が、今から新たにこういう役をやったとしても、これほどしっくりこないかもしれない。リモート恋ダンスで見せた、パーマ頭にザックリとした茶色いシャツを着こなすイケメン感の強い姿が本来の星野源であり、女性との幸せを諦めるジトジトした津崎とはまるで別人なのだ。まぁ、器用な人なのでなんだかんだ上手くやっちゃうとは思うけど。

絶食男子の皆さん、みくりみたいな子はいない

第3話は、絶食系男子・津崎平匡の人間性が強調された回だ。

「いっそのこと、疑似恋愛を楽しむのはどうだろう?どうにかなるなんてことは絶対にないんだから」
「どうしてこんな劣等感に苛まれるのか、どうしてこんなにちっぽけな男なのか」

35年間交際経験のない平匡は、男としての自信を持つことができない。描かれているわけではないが、大失恋からそうなったわけではなく、踏み出す勇気を持てずにズルズル……というパターンな気がする。「フラれるのが怖い」ではなく、「自分は恋愛のステージに上がっていない」と考えているように見えるからだ。高学歴高収入なんて、なんの自信にもなっていない。

“契約結婚”という関係にもかかわらず、強烈にみくり(新垣結衣)を意識してしまう。女性耐性のない平匡、どうしていいか分からず素っ気ない態度。おそらく、これまでもこうやって自分の気持ちをうやむやにしてきたのだろう。さすがは未経験。めんどくさい。

一方、距離を埋めたいみくりはあれこれ画策する。しかし、めんどくさい男なので、みくりのピュアな努力は全て逆効果。男から見ても女から見てもしんどいウジウジっぷりだ。この役で大ブレークした星野源恐るべし。

なお、平匡に対して「かわいい」だの「リードしてあげたい」だの、黄色い声が当時上がっていたが、これは星野源が演じたからであって、実際ではありえないことを絶食系男子は肝に銘じなければならない。ましてや、みくりみたいに可愛くて優しい女の子が現れることはない。

浸透力ハンパないの凄さ

「平匡さんが一番好きです」

しかし、鉄壁を誇る心の壁も、みくりの直球な物言いで瓦解寸前。全体を通しても名場面の一つとして数えられる、平匡が大空に向かって「浸透力ハンパな~~い!!」と叫ぶシーンに繋がる。

「浸透力」。じわじわと心の隙間に滲み込んでくる様を、見事ポジティブに、ちょっと嬉しいということを言い表している。透明感のある新垣結衣にもピッタリの言葉だ。平匡が使わなそうな「ハンパない」も、邪魔なプライドが壊れていく感じがしていい。

第3話は、平匡に変化の兆しが見え始め、後輩でイケメンの風見(大谷亮平)に契約結婚がバレて、全体を通して話が大きく転がり始めた回だ。ここから風見との“みくりのシェア”が始まり、視聴率もガンガン上がっていった。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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