「逃げ恥」ムズキュン特別編4話。星野源がガッキーに申し込まれていったん部屋に逃げた理由

新型コロナウイルス拡大によりドラマの収録が中断し、テレビではさまざまな人気ドラマの特別編が放送されています。今回は、未だに人気が高いTBS系ドラマ「『逃げるは恥だが役に立つ』ムズキュン特別編」第4話を考察。逃げ恥のすごさは、社会風刺と恋愛ドラマのバランス感覚だった!その理由とは?
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「いいなぁ……愛される人はいいなぁ・・・」

未公開カットを加えたTBS系ドラマ「『逃げるは恥だが役に立つ』ムズキュン特別編」第4話が、6月9日に放送された。今作は、社会風刺と恋愛ドラマの間を凄まじいバランス感覚で突っ走って大人気ドラマだ。

第4話では、その社会風刺部分である高齢童貞の心理がリアルに描かれた。ドラマ全体の雰囲気がキャッチーでコミカルな反面、津崎平匡(星野源)のキャラクターは、見ているこっちが辛くなるほど綿密な作り込みだ。

高齢童貞は言い出せない

35歳にして未だ女性経験ゼロの平匡。契約結婚がバレてしまい、風見(大谷亮平)からみくり(新垣結衣)のシェアを提案されるが、どうしてもそのことをみくりに話すことができない。風見から先に話を聞いていたみくりは、平匡がシェアについて切り出してこない事に心の壁を感じる。

平匡が言い出せないのは、イケメン・風見への嫉妬と不安だ。みくりとは雇用主と従業員という関係でありながら、みくりを奪われるのが怖い。みくりとの契約書をきっちりと制作するのは、いわば逃げであり、言い訳。みくりがどこかに行ってしまっても、「雇用主と従業員という関係なんだから」と自分を納得させるためだ。でも、シェアについては言い出せない。平匡、乙女みたいな恋している。

一方のみくりは、職場の環境をよくするために平匡との距離を縮めようとあれこれ動く。一見、仕事とプライベートを分け切れていないのはみくりに見えるが、本当はみくりの方がよっぽどプロに徹している。距離を詰めようとするみくりよりも、壁を作ろうとする平匡の方が、恋愛心は育ってしまっているのだ。

超めんどくさい高齢童貞の実態

結局みくりが切り出し、みくりのシェア計画は実現する。だが、ここからの平匡がさらにめんどくさい。

「あちらのことは、みくりさんと風見さんの契約であって僕には関係ありません。こちらのことは話さないでください。以上です」

事務的な冷たい言い回しは、プロに徹しているふりをしているだけで、本心としては風見と自分を比べたくないだけ。いや、風見の存在をない事にしたいだけかもしれない。久しぶりにみくりと楽しく会話ができても、「合コン」というワードがでた瞬間、平匡はヘソを曲げてしまう。こんなのもう「嫉妬してます」って言っているようなものなのに。

そんな平匡をみくりは、「こと恋愛に関して成功体験がないままここまで来てしまっているのではないだろうか」と分析。子供にもわかるEテレ番組のようなパロディ演出で、「自尊感情」についてきっちり脳内でまとめた。しかし平匡は、そうやって心に入り込んでくるみくりが怖くてしょうがない。またしても拒絶してしまう。

「風見さんと交代してもいいですよ。立場を」

「風見さんの方がいい」なんて一言も言われていないのに、勝手に自分を風見と比べる、いや、比べられる前に自ら引き下がろうとしてしまう。0か100かという極端な結論は、ゾワゾワするほど高齢童貞らしい発想だ。原作の海野つなみさんは、なんでこんなに高齢童貞の気持ちがわかるのだろう。普通、男だってこんなにはわからない。

「いいなぁ……愛される人はいいなぁ……」

これだけネガティブな平匡だが、一つだけポジティブな部分を持っている。それは、嫉妬こそするが、イケメンの不幸を願わないことだ。自分がモテないのは、あくまで自分のせいだとし、ただひたすら逃げる。どれだけ辛くても他人への攻撃性を持たないところが、ドラマの主人公としての愛されポイントなのだろう。

平匡さん、私の恋人になってくれませんか?

そんなリアルな童貞を演じる星野源が改めてすごい。挙動不審な目の動きや、醤油を倒す細かな演技もそうだが、なんと言っても顔つきが童貞感たっぷりだ。大袈裟に表情を崩すのではなく、動揺した一瞬だけ顔を強張らせ、その後は動揺を悟られないように感情を消す。

「平匡さん、私の恋人になってくれませんか?」

みくりに交際を申し込まれると、動揺の連続だった今話の中でも最高潮に動揺。目を丸くし、突然立ち上がり、さらに、2秒ほど自分の部屋に戻るという奇行に走る。では、部屋で平匡は一体何をしていたのだろうか? おそらく、何もやっていない。訳のわからない夢のような状況に陥った平匡は、自分の原点である“独り”に立ち返るために部屋に戻ったのだ。しかし、それでも上手く飲み込めず、現状を手に余らせた平匡は、すぐにみくりの元に舞い戻ってきたのだ。

それでも「付き合いたい」も「お断りします」も言えずにただ黙り込む。こんな千載一遇のチャンスが来ても、踏み込むことができないダサさを見せる。ドラマならではのぶっ飛びシチュエーションが到来しても、童貞で居続ける平匡がリアルだ。

一方のみくりもだいぶおかしい。平匡に対してある程度の感情がありそうではあるものの、交際宣言をした理由は、「職場の環境を良くしたい」だ。思えば、この契約結婚を提案したのもみくりだし、物語の節目となるシーンで、必ずみくりはぶっ飛び展開をブチ込んでくる。

童貞にとってこんなに都合のいい女性なんて現実にいるわけもないし、期待なんかしちゃいけない。だがそれでも、自然に観てしまうのは、演技力なのか、それとも演出の力なのか。どちらも確かではあると思うが、一番は、「新垣結衣が可愛すぎて疑問どころじゃない」というシンプルなところな気がする。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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