「麒麟がくる」全話レビュー21

【麒麟がくる】第21話 ジャニーズ風間俊介&元ジャニーズ今井翼、片岡愛之助を討つ

高視聴率でスタートしたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる、全44回の壮大なドラマです。毎回、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。第21話は、新型コロナウイルスによる放送一時休止前の回にして、桶狭間の戦いが描かれました。織田信長(染谷将太)の勝利を支えた、松平元康(風間俊介)と毛利新介(今井翼)の活躍もさることながら、信長の側室の子まで登場!もう見た人も見逃した人も、これさえ読めば“麒麟がくる通”間違いなし!

わしが死んだらあの子を育ててくれ

永禄3年1560年、今川義元(片岡愛之助)を織田信長(染谷将太)が討った歴史的出来事・桶狭間の戦い。大河ドラマ「麒麟がくる」第21回「決戦!桶狭間」(脚本:池端俊策 演出:一色隆司)は視聴率も高く注目回であった。
三河出身で地の利もある松平元康(風間俊介)は義元に期待されながら、鵜殿長照(佐藤誓)の人使いの荒さに、桶狭間に助けに行くことをやめてしまう。母からこの戦いから手を引いてほしいと手紙で頼まれたものの、それによって後々家臣が今川からひどい目に遭うことを心配して今川のために戦うとしていた元康。だが、懸命に働いているにもかかわらず食事時間も満足に与えられず、休ませてもくれないからと気を変えてしまったのである。これも部下を思ってのことだと思う。結果的にその選択が歴史を変えた。おりからの雨もあって戦の潮目が変わる。信長に馬廻りとして仕えていた毛利新介(今井翼)が義元を討ち取って織田の勝利となる。もともと、竹千代時代の元康は「(今川を)いずれ討つべきと思うております」とたいそう利発そうな顔で言っていた。16年もの人質暮らしですっかりおとなしくなってしまっていたが、結局、初心を貫いたのである。

ジャニーズの風間俊介、元ジャニーズの今井翼の力によって片岡愛之助を討つという形になった。毛利は板(?)をジャンプ台にして高く飛び、義元をぶっ刺す。すごい迫力であった。その瞬間は義元の瞳の中の毛利がどんどん大きくなっていくことで表され、それが逆にスリリングであった。前にも書いたが「麒麟がくる」は死の瞬間そのものを描かない。
今井翼のアクロバティブな殺陣もあれば、片岡愛之助の重心を低くして下半身の安定感がある確かな殺陣もあり、目にも楽しい桶狭間の戦いだったが、21回で最も印象的だったのは、信長がいつの間にかほかの女性(吉乃)に産ませた子供・奇妙丸(加藤矢紘)を「わしが死んだらあの子を育ててくれ。そなたに預ける」と言われた時の帰蝶(川口春奈)。ものすごい丸い目をしていて、その瞳は虚無そのものに感じた。

頑張れ、光秀くん!

10年、尽くし続けてきたのに、知らないうちに子供を作っていたことを知った妻の衝撃。この時代、側室は当たり前。帰蝶は正室の子だが、兄・義龍(伊藤英明)は側室の子だった。そのふたりの仲が悪かったように、当たり前と言っても心のなかでは思うところがあったことだろう。帰蝶には子供がいないからなおさらか。本来なら子供が出来ないと離縁されることだってあるわけで、気にはしていただろう。
帰蝶の丸い目とこわばった顔に怯えたように信長はおずおず下がって「すまぬ。黙っていたことは謝る」と口を尖らす。
「わしはこの10年そなたを頼りに思うてきた。尾張の行く末をそなたに任せる」と耳ざわりのいいことを言う信長だが、体のいい逃げにしか思えない。
こうして信長は桶狭間へと出陣していったのだが、その後、光秀(長谷川博己)がやって来て(またしても間に合わない)、帰蝶の膝の上の子供を見て「あのお子は?」と聞く。光秀の顔にも動揺が読み取れる。
「天から降ってきた大事なあずかりものじゃ」と帰蝶が言うと、光秀はそれ以上、突っ込まず(優しい)、「で、信長さまの行き先は?」と尋ねる。「で、」の言い方の優しさに、
光秀の帰蝶を思いやる気持ちが現れているような気がした。「で」ひとつとってもちゃんと役の感情を考え抜いて発する。長谷川博己だからこそと思う。それによって「麒麟がくる」の明智光秀のキャラがきちんと立ってくる。どんなに重要な場に間に合わなくても、戦にほとんど役に立ってなくても。関わる人とちゃんと向き合う、「で」ひとつで、主人公の面目躍如なのだ。
光秀は桶狭間の戦いにも参加はしない。終わって凱旋する信長を道端で迎え、信長の武勲を讃えるのみ。
信長は父にも母にも褒められなかったと言い、「帰蝶は何をしても褒める。いつも褒める」と言った後に、衝撃の一言。
「あれは母親じゃ」
そのときの光秀の表情。帰蝶が女性としての幸福を獲得できていないことを確信して、どう思ったのだろうか。なにしろ光秀は妻・煕子をとても大事にしている。もしも帰蝶を妻にしていたらきっと大事にしただろう。信長とうまくやっているように見えた(よく膝枕してもらってイチャイチャしているようだったのに……)にもかかわらず。
優しくしてくれない母の代わりだったと知った光秀は、帰蝶をお気の毒に感じたであろうか。帰蝶はきっと先手先手で信長の面倒を見すぎてしまったのだろう。切ない。染谷将太の演技も、「すまぬ 黙っていたことは謝る」のとき、母に怒られそうになった子供の顔のようだった。今まではさすがにそんな顔をしていなかった気がするのだが、じつはそういう演技プランだったのか? 放送休止中に、信長と帰蝶の場面を見返しておこうと思う。
そう、新型コロナウイルス感染予防のため撮影休止によって放送もしばらく休止になってしまった。撮影は6月30日から再開するそうだ。22話以降は、信長の快進撃がはじまり、足利幕府の終焉が近づき、秀吉(佐々木蔵之介)、家康と役者がそろう。これからがいよいよ本番という感じなので、楽しみに待ちたい。頑張れ、光秀くん!

芝居もある意味、戦場

織田の家臣で戦況を報告していた簗田政綱(内田健司)。口跡がよく、言ってることがよくわかり、戦の緊張感も伝わってきた。20回のレビューでも書いたが、彼は、故・蜷川幸雄のもとで演劇に勤しみ「カリギュラ」「リチャード二世」のタイトルロール、「ハムレット」のフォーティンブラスなどを重要な役を演じてきた。「リチャード二世」も「ハムレット」もそうだがシェイクスピア劇にも多く出て、戦に関する台詞にも慣れている。英国と日本と国は違えど戦時の心理状態を演じることはカラダに染み込んでいるだろう。ということがよくわかる芝居をしていた。桶狭間では毛利新介が手柄をたてたように、無名の俳優がいい芝居をして注目されることがある。長谷川博己は文学座時代から舞台ファンには人気があったが、着々といい舞台をやりながら、映画やテレビドラマに世界を広げていまがある。芝居の場もある意味、戦場。物理的に血は流れないけど心の血は流れている。そこで切磋琢磨する者たちに栄光あれ。

※「麒麟がくる全話レビュー」は放送一時休止に伴い、放送再開までお休みします

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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