「3年B組金八先生」金八の背負った十字架。本当に「15歳の母」に出産させてよかったのか?

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。そこで今回は、第1シリーズの伝説回「15歳の母」を北村ヂンさんが深掘りします。
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今年の3月以降、10代の妊娠について寄せられる相談が急増している。
3月というと一斉休校がはじまった時期。学校がなく時間を持て余し、街へ遊びに出るわけにもいかず、やることといったら……みたいなことなのかも知れないけど、一番“密”なことをやってどうする!

そんな無軌道な若者たちに、今こそ見てもらいたいドラマが、現在Paraviで配信中の「3年B組金八先生」第1シリーズだ。
言わずと知れた武田鉄矢演じる中学教師がウザイほどに大活躍する学園ドラマだが、第1シリーズのメインテーマは「15歳の母」。杉田かおる演じる浅井雪乃が中学3年生にして妊娠・出産するという、あまりにも有名なエピソードだ。

「15歳の母」は美談ではない

最初に知っておきたいのは、脚本家の小山内美江子が本作において中学生の妊娠・出産を取り上げたきっかけ。
決して「センセーショナルなドラマを作るため」のネタだったわけではなく、中学校を舞台にしたドラマを作るに当たってリサーチする中で、中学生の妊娠問題は決して珍しい話ではないということを知ったからだという。

現実に起こっているものの、“ないもの”として処理されていたデリケートなこの問題を、ドラマという形で顕在化してみせたにすぎない。
衝撃的なストーリーなだけに、放送当初(40年前!)は否定的な意見が多く寄せられたようだが、その中でも多かったのが「中学生同士の結婚を推奨している」というもの。
“ないもの”としていた中学生の妊娠問題をテレビで取り上げられることで、自分の子どもたちに悪影響を与えるのではと心配する人が多かったのだろう。

しかし改めて見返してみると、結果的にはやむなく15歳での出産という道を選ぶことにはなるものの、決して中学生の妊娠・出産を肯定的に描いているわけではなかった。

雪乃の妊娠が発覚した当初、金八をはじめとした教師たちは当然のごとく中絶手術を前提として話を進めていたし、お腹の子の父親であることが発覚した宮沢保(鶴見辰吾)の家では騒ぎから逃れるため、早々に転校することを決めている。
実際に中学校内で妊娠事件が起こったとしたら、こんなところがリアルな反応だろう。
当の浅井雪乃が「産みます」と宣言してからも、君塚校長(赤木春恵)は、

「生んでどうするの」
「赤ん坊はお人形さんじゃないのよ。おっぱいも飲めばウンチもする。夜泣きするかも分からないし病気するかも知れない。それを四六時中アナタが監視していてご覧なさいよ、お金はどうやって入ってくるの?」

と、“子どもを産む”現実を突きつける。それに対する雪乃の返答は、

「お産の本も読んだし、お小遣いも貯めました」

というもの。お小遣いって……。
一方の保も、雪乃が子どもを産む決意を固めたと知り、転校を取りやめて雪乃に寄り添おうと決心するが、どうやって生活していくのかという父親からの問いには、

「牧場で働く」
「ボクたちは大自然の中で、動物たちを相手に人間らしく生きたいんだ!」

なーんて頭の中お花畑な返答をしている。

「で、どこの牧場で働くんだ、アテはあるのか? 牧場をやる金はどうするんだ?」

冷静な突っ込みにも、牛乳配達や新聞配達をやって貯めるとの答え。それじゃ貯まらないよ、牧場やる金は……。

「赤ちゃんを産んで育てる!」という中学生ふたりのピュアな決意を描きつつも、その考えの幼稚さを冷たく突き付けている。

結果的に教師たちが一丸となって出産をフォローする体制になったのも、「ふたりの愛の力を信じて」みたいなことではない。
最大の要因は、雪乃が既に妊娠7ヶ月に入っており、中絶手術を受けることは不可能だったということ。やるとすれば、早産させた上で子どもを処理するという、母体にも精神にも大きなダメージがある方法をとるしかない。母体のことを考えると自然分娩するのが一番いいという医師からのアドバイスを踏まえた上でのことだ。

君塚校長は、「この子がどうしても産むと言った以上は、私たちが押さえつけて中絶させるわけにはいかないんだから」と一定の理解を見せつつも、たとえ産んだとしても、子どもを施設に預けたり、養子に出したりしなければならない可能性も提示している。

金八が背負った十字架

君塚校長が、雪乃に寄り添いつつも冷静なアドバイスをしているのに対し、まだ若い金八は情熱に突き動かされ、「とにかく希望通り出産させてあげたい!」と前のめりになっているのが、改めて見直すと危うく感じた。

中学生である“現時点”の雪乃と保のためを思って出産の応援をしてはいるものの、その後の長い人生を考えると、本当に出産して子どもを育てさせるという選択が正しいのか? 若き日の金八は、そこまで突き詰めて考えられていないように見えるのだ。

この迷いは小山内美江子自身にもあったようで、「15歳の母」問題は金八が背負った十字架として、その後も繰り返し描かれている。
第2シリーズ終了後に放送されたスペシャル1「贈る言葉」では、高校に進学した保が「色んな仲間と何かするのは楽しいし、女の子と自由に話ができるようになって正直嬉しかった」と、15歳にして父親になるという一生を縛られる決断をしたことを悩む姿が描かれた。

さらに第4シリーズでは、金八が受け持つクラスに、この時の子ども・宮沢歩(橋本光成)が。生徒の父兄役として保と雪乃も再登場するのだ(牧場では働いていない)。
これだけ学校中を巻き込んで生まれた子どもが、成長して桜中学にいるとなれば噂にならないはずもなく、歩は“15歳の母が産んだ子ども”ということで、いじめの対象となってしまう。
歩から「なんで先生はボクを産ませたんですか!?」と問い詰められた金八は言葉を詰まらせた。

「もしかするとオレは命の尊さを説くという美談に酔いしれて、15歳の少年と少女にとんでもない重たいものを背負わせたのかも知れん」

若い頃にした決断が15年越しで再び金八に降りかかかる。
第1シリーズは、保と雪乃がクラスのみんなから祝福され、疑似結婚式を挙げてハッピーエンドとなるが、決して安易に「産んでよかったわー!」という話では終わらないのだ。

その後の中学生の妊娠・出産ドラマ

金八が「15歳の母」で中学生の妊娠・出産を描いたことで、ドラマ業界的に「15歳前後の妊娠は描いてもオッケー」ということになったわけじゃないだろうが、その後も中学生の妊娠を描いたドラマがいくつか作られている。
1993年の「ツインズ教師」では、15歳の井ノ原快彦が付き合っていた同級生の彼女が妊娠。みんなで結婚式を挙げることで既成事実を作って出産を認めさせようというハチャメチャな展開を見せる。
2006年の「14才の母」では、志田未来と三浦春馬の間に子どもができ、色々ありつつも三浦春馬が中卒で働くという結論に。
どちらも「中学生の愛」という部分に重きが置かれていて、「中学生の妊娠・出産」という問題に関しては掘り下げが甘い印象があった。

最近になって「おっ」と思わされたのが2015年の「コウノドリ」第1シリーズ第5話だ。

発覚した時点で妊娠8ヶ月と、出産を選択するしかない状態で病院にやって来た中学生。当初は「2ヶ月で産んじゃえば部活の試合に出られますよね?」なんてアホなことを言っていたが、お腹の子が大きくなるにつれ生命の尊さを知り、真剣に子どもに向き合った結果、子どもの幸せを考えて養子に出すことを選択する。

産婦人科医を舞台に、妊娠・出産を真っ正面から描いたドラマだけに、中学生の出産にも現実的な結論を導き出している。最新型の中学生妊娠ドラマだ。

「コウノドリ」あたりと比べてしまうと金八の「15歳の母」は、さすがに非現実的な展開だと感じてしまうが、そこは長期シリーズの強み。

中学生の父と母が悩みながら産んだ子が、成長した姿を見られるドラマなんて他にないよ!(当時の赤ちゃん役が成長して出演しているわけではないが)
第4シリーズで宮沢歩役を演じた橋本光成が、リアル・自分の子どもに「歩」と名付けたといういい話も明かされている。ここまで含めて壮大な金八ワールドなのだ。

「15歳の母」のその後が見られる第4シリーズは9月に配信開始予定。第1シリーズと併せて見てもらいたい!

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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