「3年B組金八先生」第7シリーズ#1。濱田岳に福澤克雄から「泣いたら殺す」の指示

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。生徒が薬物に手を出したり、飛び降り自殺を図ったり、衝撃展開の連続の第7シリーズ。金八先生の生みの親・脚本家の小山内美江子が途中降板して変わったこととは。

動画配信サービス「Paravi」で順次配信されている「3年B組金八先生」。今月配信されたのは2004年放送の第7シリーズ。Hey!Say!JUMPの八乙女光演じる丸山しゅうが、覚醒剤に手を出して逮捕されるという衝撃的な展開が話題となった問題作だ。

丸山しゅうの件以外にも、生徒がシンナー・マリファナに手を出したり、高層マンションから飛び降り自殺を図ったり、衝撃展開の連続。第5シリーズで福澤克雄がメイン演出に就いて以降、過剰にドラマチックな演出が増えていったが、今シリーズでは行くところまで行った感がある。

『金八先生』の生みの親である脚本家の小山内美江子としては、この過激路線は本意でなかったようで、著書『さようなら私の金八先生―25年目の卒業』(講談社)によると、生徒が覚醒剤を使用する展開には最後まで反対していたという。制作スタッフとの確執の末、小山内は第10話をもって、ほぼ更迭状態で降板。今シリーズは第10話までと第11話以降で引継ぎがなされないまま脚本家が変わるという特殊なシリーズなのだ。

薬物問題だけではなかったハズなのに……

第7シリーズで薬物問題を扱うということ自体は、小山内も了承していたと思われる。小山内の担当した前半部分でも、中学生の身近に迫るドラッグの恐怖がたびたび描かれていた。
ただ、小山内が降板した11話以降、話の中心は完全に薬物……というか、丸山しゅうの薬物使用の問題になっていく。小山内としては、ここまで薬物一辺倒のシリーズにするつもりはなかったのではないだろうか。

そりゃあ、クラスメイトが覚醒剤を使用して逮捕されちゃったら、受験だ恋愛だといったその他の細かい問題は吹っ飛んでしまうだろう。小山内の担当した前半パートでは、薬物問題以外にも様々なテーマが提示されていた。中でも大きなテーマになる(はずだったと思われる)のが多様性と共生社会。

大学4年になった金八の娘・乙女(星野真里)は、養護教諭を目指して特別支援校の介護研修に行くことになる。そこで、様々な障害を持った子どもたち、教員である青木圭吾(加藤隆之)と親密になっていく。

青木は顔に大きなあざ(単純性血管腫)を持つ“ユニークフェイス”。金八は例のごとく交際に反対するが、それはあざを理由にしたものではなく、単に男と付き合うことを認められない父親としての心理からだ。

「はじめてだよ、君のお父さんみたいな人。人はね、はじめて僕を見る時、まずこのあざを見るんだ。でも君のお父さんは違ったな。僕の目を真っ直ぐ見つめてくれた」

もちろん、そんなきれい事だけで済む話でもなく、3年B組の生徒からは、

「アレ(あざ)さあ、ウチの婆ちゃんが言うにはさ、うつるんだって」

なんて問題発言が飛び出していた。

本人が語る発達障害の子どもを持った親の心情

3年B組にも発達障害を持った生徒が転校してくる。それが、岩田さゆり演じる飯島弥生だ。
第4シリーズ以降、3年B組には学習障害や多動性障害など、発達障害を持った生徒がひとり在籍しているが、4~6シリーズに関しては男子生徒だったこともあり、わりと扱いは雑。真っ正面から障害について触れられることは少なかった。

今回、「ヤヨがクラスに入ることによって授業の進行が遅れるのではないか」という苦情が持ち上がったことで、母親から発達障害の子どもを持った親の心情が語られる。

産まれた時の喜び。他の子とは違うのではないかと分かった時の困惑。ヤヨの家は母子家庭である上、母親が心臓疾患を抱えていることが明かされた。

「私はこの子の親ですけど、年の順からいえば私が先に死にます。その時、この子はどう自立して生きていくか。私は、ここ(普通学級)でこの子がみなさんと一緒にやっていけることが、ひとつの希望の光になると思ったんです」

ヤヨが口癖のように言う「みんなと一緒」という言葉には、ヤヨが自立して、自分なしでも生きていけるようになって欲しいという母親の願いが込められているのだ。
やがて「みんなと一緒」に高校進学することはできないという現実にも直面することになるのだが。

ヤヨの母親役を演じている五十嵐めぐみは、自身も夫をがんで亡くし、LD(学習障害)を持つ長男をシングルマザーとして育ててきた経験を持っている。おそらくこのエピソード自体、五十嵐の自伝『ありのままで―夫のガン死をこえLDの息子とともに』(教育史料出版会)を元にしているのだろう。

本人からの実感のこもった言葉にはドラマを超えてメチャクチャ重みがあり、以降、ヤヨはクラスに受け入れられていく。
ただ、ヤヨがクラスに馴染めた最大の要因が“無邪気な笑顔とかわいい顔”というのは……。かわいくない男子生徒はいじめの対象になるのに、かわいい女子生徒はヒロインになれるのかよ。

シリーズ後半、薬物問題に押されてヤヨの問題も、青木のあざ問題もボンヤリしたままフェードアウトしてしまった。本来、もっと深掘りされる予定だったのではないかと考えると残念なのだ。

濱田岳に福澤克雄から「泣いたら殺す」の指示

八乙女光の薬物依存演技がインパクトあり過ぎて他の生徒たちの印象が薄い今シリーズだが、それぞれもっとスポットライトが当たって欲しかったと思えるいいキャラが揃っていた。

恒例のジャニーズ枠は八乙女光の他、Hey!Say!JUMPの宏太。元・Ya-Ya-yahの鮎川太陽。
藪は、前作のメイン生徒である鶴本直(上戸彩)に一目惚れしてしまうというなかなか厄介な役を演じている。
3Bの仲間たちに背中を押され、直に告白するが、返事は「なんだよ、お前3Bか。オレの名前は鶴本直。あとは担任に聞いてくれ」というもの。

当然、金八からは直が性同一性障害であり、心は男であることが告げられ、ふられるふられない以前の問題で初恋が砕け散ってしまう。
まだ声変わりもしていない幼き日のくんが、胸を押さえながら「ハアア~ッ。胸が……胸が痛い……!」と悶える姿はかなりカワイイので必見だ。

ジャニーズ枠以外だとやはり狩野伸太郎役の濱田岳の存在が輝いている。
濱田自身から『金八』の思い出としてよく語られているのは、最終回の卒業シーンで武田鉄矢&福澤克雄から「泣いたら殺す」と指示されていたということ。

金八の最終回は、基本的に演出もなにもないセミ・ドキュメンタリーであることはよく知られている。

金八からの最後のお説教も脚本は用意されておらず、武田鉄矢のオールアドリブ。ドラマ中の卒業式であるとともに、1年近くにわたってドラマを作ってきた仲間たちとのリアル・別れの場面であり、各生徒、役から離れてリアルに泣きまくるというのがお約束だ。
ただ濱田に関しては、「これからも演技を続けていくヤツだ」と判断し、たとえ卒業式であっても最後まで役者であることを求めたという。

……が、改めて見返してみると「泣いたら殺す」と言われていたくせに、濱田岳もみんなと一緒になってボロボロ泣いている。

現在ではドラマ・映画に欠かせない名優となっている濱田をしても、あの場面で泣かないのはさすがに無理だったのだろう。
「赤いきつねと緑のたぬき」のCMで武田鉄矢と共演し、ほぼ後継者のような扱いとなっている濱田岳。彼の原点もまた『金八先生』なのだ。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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