「麒麟がくる」全話レビュー34

【麒麟がくる】第34話「道を教える者をもたぬ者は闇を生きることになるぞ」

新型コロナウイルスによる放送一時休止から3カ月弱、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が帰ってきました。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる壮大なドラマもいよいよ後半戦、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。再び戦を始めた信長。一方で駒から聞いた、筒井順慶(駿河太郎)と公方、松永久秀(吉田鋼太郎)と信長の戦いに発展するという情報にあわてた光秀は和平工作を画策するものの……。

武田信玄(石橋凌)が登場しますます盛り上がる大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK総合日曜夜8時〜)34回「焼討ちの代償」(脚本:池端俊策 演出:佐々木善春)。
武田信玄の出番は34回の終わりにすこしだけで活躍は次回以降になるが、それだけでもオーラがほかと違っていた。

光秀と家族

元亀2年、信長(染谷将太)に比叡山を焼き打ちされると、覚恕(春風亭小朝)は信玄の甲斐国に助けを求めた。
問題の比叡山の焼き討ちは信長と光秀の関係を変えていく。
信長は老若男女区別なく殺戮し、光秀はそれに賛同しかね、女子供を見逃した。討ち取った高僧たちの首の前でご機嫌な信長に、命令に従わなかったことを謝る光秀の声は低く枯れている。
「それは聞かぬことにしておこう。ほかのものならその首はねてくれるところだ」と大目に見たうえ二万石の領地を光秀に褒美に与える信長。逆にこわい。

光秀は比叡山で死んでいった人たちのことを夢に見る。そのなかに大事な娘たち・岸(平尾菜々花)、たま(竹野谷咲)が混ざっていて……とハッとなって目を覚ます。現代的にいえば、PTSDを負ってしまったのではないだろうか。ここで思い浮かぶのが、光秀を演じる長谷川博己が以前主演したNHKのスペシャルドラマ「獄門島」。長谷川の演じる金田一耕助には戦争によるPTSDがときおり彼を苦しめると原作にはない設定が付与され、金田一のエキセントリックさにある種の説得力が生まれた。
気のせいか、光秀、やつれてきているような……。嫡男・十五郎が生まれたばかりで、これからもっと頑張らないといけないというのに大丈夫か、光秀。

長男は十五郎。「麒麟」にはまだ出てきていないが、次男の十次郎は自然ともいい、「おんな城主 直虎」(17年)の最終回に登場。直虎(柴咲コウ)が、謀反を起こした光秀(光石研)の息子・自然(田中レイ)を守ろうとする。

たまは伝吾(徳重聡)をお供に市場に珍しい鳥(オウム)を見に行くと、民衆から石を投げられ額から血を流す。彼らは「明智光秀 鬼〜」と勘違いしていた。残された文献では、光秀が「村をなで斬りに」と書き記しているものがあり、信長といっしょに比叡山の人々を誰彼かまわず殺す作戦を遂行していたのかもしれないが、「麒麟がくる」では光秀は抑制する意思を持ち合わせた人物として描かれている。

「悪いのは父だ。父が叡山で戦をしたからだ」と娘に詫びる光秀。
悩む彼に、被害に合った人たちの手当に励む駒(門脇麦)は「戦によい戦も悪い戦もない」「14歳の子(芳仁丸を売っていた少年)が8文を残して死ぬのが戦なのです」と諭すように語りかける。

光秀と占い

駒から、信長の残虐な行為に嫌気がさした公方(滝藤賢一)が信長から離れようとしている、このままでは筒井順慶(駿河太郎)と公方、松永久秀(吉田鋼太郎)と信長の戦いに発展するという情報を得て(いっつも大事な情報は駒からもたらされる)、慌てる光秀。

筒井と駒と連れ立って堺に向い今井宗久(陣内孝則)の茶を飲むことにする。そこにいたのは松永久秀。筮竹をもって、戦の前には易を立てるのだと言う。ここで宿敵・筒井順慶と久秀が牽制し合う。熱き猛者・吉田鋼太郎に一歩も引かず冷静に対峙する駿河太郎。

「道を教える者をもたぬ者は闇を生きることになるぞ」と、久秀は光秀に心の支えをもつように助言する。
久秀は風流人として、茶をはじめとして文化教養の高い人物として知られているが、占いも嗜むとは。

占いといえば、光秀である。
これもまた、実際どうなのかわからないけれど、本能寺の変の前に愛宕神社でおみくじを引いたら凶だったので3度も引いたという話がある。
「直虎」49話では光秀がおみくじを引くエピソードを描いていた。

「麒麟」34話での久秀の占いのすすめは、本能寺の変の前のおみくじの伏線であろう。

階段の途中で、
久秀「座れ」
光秀「座っております」とコントみたいなやりとりをしながら、ひそひそ話をする光秀と久秀を見ていると、のちに「松永殿に言われて占ったら凶じゃないですか!」とキレながらおみくじを何度も引き直している光秀の姿が浮かんでしまった。それだけ長谷川博己と吉田鋼太郎の息が合っているのだ。

冗談はさておき、この会話、見ようによっては久秀が光秀の道を占っているようでもある。

「しょせん信長殿とおぬしは根がひとつ。公方様とは相容れぬ者たちだ。いつか必ず、公方様と争うときがくる。わしがそう思うておる」

なんでも壊してしまう信長と古いものを守る公方。相容れない者たちは戦わざるを得なくなると、松永はまるで光秀に啓示を与える預言者のようだった。

「道を教える者をもたぬ者は闇を生きることになるぞ」という言葉は印象的だ。誰もが皆、生きる道を示してもらいたいと思っている。“麒麟”とはまさにその道標。帝や将軍や、神仏もそう。道を照らす光を人は求めている。

ちなみに、筆者は先日、明智家の墓のある西教寺(叡山のふもと)に行ってきた。そこはおみくじの創始者といわれる僧・元三大師(良源)が祀ってあったので、おみくじを引いてみたら大吉だった。かなりいいことが書いてあってテンション上がった。ありがとう光秀。

〜登場人物〜

明智光秀(長谷川博己)…信長と共に公方を支える。

【将軍家】
足利義輝(向井理)…室町幕府13代将軍。三好一派に暗殺される。
足利義昭(滝藤賢一)…義輝の弟。僧になって庶民に施しをしているが、兄の死により政治の世界に担ぎ出される。

細川藤孝(眞島秀和)…室町幕府幕臣。義輝が心配。光秀の娘・たまになつかれる。
三淵藤英(谷原章介)…室町幕府幕臣。藤孝の兄。

【朝廷】
関白・近衛前久(本郷奏多)…帝を頂点とした朝廷のひと。

【大名たち】
三好長慶(山路和弘)…京都を牛耳っていたが病死。
松永久秀(吉田鋼太郎)…大和を支配する戦国大名。
朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)…越前の大名。光秀を越前に迎え入れる。
織田信長(染谷将太)…尾張の大名。次世代のエース。

木下藤吉郎(佐々木蔵之介)…織田に仕えている。

【商人】
今井宗久(陣内孝則)…堺の豪商。

【庶民たち】
伊呂波太夫(尾野真千子)…近衛家で育てられたが、いまは家を出て旅芸人をしている。
駒(門脇麦)…光秀の父に火事から救われ、その後、伊呂波に世話になり、今は東庵の助手。よく効く丸薬を作っている。
東庵(堺正章)…医師。敵味方関係なく、戦国大名から庶民まで誰でも治療する。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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